時間の相対性や知覚のゆらぎに注目し、映像、写真、立体などを用いた作品を制作している飯川雄大。町中の風景を定点撮影したり、サッカーのゴールキーパーを遠くから捉えたりなど、普段何気なく目にしている風景ではなく、“その周縁にあるもの”を注意深く観察し、様々な手法を通して表現している。今回は、〈ArtHub.jp〉代表の野呂翔悟氏が彼の作品の根底にある映像という手法とその可能性、そしてブロックチェーンの行く末について話を伺った。
─作品を制作される際の苦労はどのようなところにありますか? また売れるか否かを意識するのか、自分が作りたいと思うものを目指すのか、どちらがより大きい思いを持っているのでしょうか。
僕の作品はいわば、偶然起こっているハプニングを拾い上げています。
それって、日本でも世界でも僕以外にやっている人は少ないんです。そもそも僕の周りには面白い写真家や映像作家がいっぱいいて、同じ舞台で闘うのは厳しかった。でも極端な話、写真が下手でも、映像作るのが下手でも、情報作るのが下手でも、ステージが違えばそれなりに目立てたんです。シリーズとしてずっと取り組んできた「デコレータークラブ」というコンセプトは、世界中どこでも展開できるんじゃないかと思っています。しかもそれはヨーロッパの人でもアフリカの人でも、言葉が通じない人にも通じるし、もしかしたら動物にも通じて同じような感覚を共有できるかもしれない。
─なるほど、非凡な何かを手に入れたのですね。それを携えて、映像や写真の舞台で活躍されていると思うのですが、より自分の強みを活かすことができるのはどの舞台なんでしょうか?
文章や写真より、一番身体に馴染んでいるのは映像ですね。2005年は動画元年の年だと言われていて、そのときちょうど僕は大学3年生で、映像やメディア・アートや、ドラマや映画の撮影なども学んでいました。同級生たちはテレビ会社や動画制作会社、インターネット関連の仕事などに期待を胸膨らませていました。僕自身も、映画やCM、ミュージックビデオなどの既存の映像業界に憧れていましたが、大学で動画について学んでいくうちに、そうじゃないところで勝負したい、と思うようになりました。
その後、24時間の定点観測などの動画作品などを作るようになったんです。その数年後にYouTubeが世の中に出てきたりインターネット上で動画が頻繁に見られるようになってきました。そう考えると、動画という舞台の上で、いかに自分のやりたいことを突き詰めてきたか、というのが見えてくるような気がします。
─今後の活動は、何か考えているところはありますか?
僕はやっとスタートラインに立った立場なので、難しいですね。アートだけではないと思いますが、日本は業界が狭いので、誰に承認してもらうかが重要ですが、そんなすぐに承認されるものでもない。だから、ちょっといいなと思ったぐらいで、仕事を依頼するとか、作品を買うことには繋がらないんですよ。
でも今回の森美術館での「六本木クロッシング2019」展で展示をして、誰かが良いって言ってくれたり、サイトに取り上げられたり、といった反応や影響力は大きかったです。やっぱりまずは誰かに承認されるために、自分ができることをやらなければ、と思いました。それができていないから、地方で埋もれている良い作家はいっぱいいるし、自分もできてないこともたくさんあるなと痛感していますし、それらを少しずつクリアしていきたいです。
まずは自分から積極的に情報発信をして、仕事につなげていきたいなと思っています。
―そう考えると、今、森美術館で作品を展示しているというのは最大のチャンスですね。
最後にお伺いしたいのですが、ブロックチェーンはどのようなイメージをお持ちですか?
物なのか情報なのかわからないですが「価値がなくなることなく、継続する」というイメージでしょうか。通貨を発行して、みんなが通貨を持って、それを売ったり買ってたりして、その通貨と日本円を交換したり、別の通貨と交換したり。様々な可能性が出てきますよね。そこにいくまでには、いろいろとまだまだ課題とか仕組みが必要なんでしょうけど。
─そういうことに取り組む企業も出てくるでしょうね。アートとブロックチェーンを掛け合わせようとしている人がいますもんね。Googleのような、多くの人と共有する仕組みではなく、個人個人でブロックチェーンのシステム管理をするような分散型ができるのではないか、と僕は思います。
最初の頃のインターネットの概念に近いですね。当時はインターネットはみんなが平等でみんなが自由だったのに、今はそうではなくなっています。グローバル化が進む一方でローカル化の動きもあることを考えると、ブロックチェーンもローカル化に進む可能性がありますよね。その分散型の方法で、アートも独自のシムテムが作れると面白いだろうなと思います。
―確かに、現代アートのジャンルのYouTubeチャンネルはほとんどないですよね。
やっている人はほとんどいないですね。海外だとあるのかもしれませんが、1,000人以上チャンネル登録している人も、僕は知らないです。トークイベントがちょっとあるぐらいで、誰かチャンネル持っているとかないですね。YouTubeのプロの人たちの動画の方が面白いので、そっちのほうがトレンドに入ってきますし。僕は自分が出たりとかはできないけど、たとえ小さい規模でも記録を撮るのも大事だなと思います。今は本やブログよりも動画のほうが伝わりやすくなっていますし。
─そう考えるとアートジャンルにおける様々な角度からの可能性というのが見えてきました。本日はお話どうもありがとうございました。