日本経済新聞社と金融庁は、フィンテックの活用をテーマにした国際イベント「FIN/SUMフィンサム2019」を2019年9月3~6日、丸ビル(東京都千代田区)にて開催。フィンテックが実装された社会の姿を議論した。国内外から有識者が集い、キャッシュレスや暗号資産などがもたらす新たな社会像や課題解決、規制やその対応コストを下げる「レグテック」について取り上げた。
フィンテックの実装を加速させるイベント「FIN/SUM」
2008年のリーマンショック以降に急成長を遂げたフィンテックは、金融とITの融合だ。誕生から10年以上の歳月を経て、ようやく現代社会への活用法が見出され、実装化の可能性が広がりつつある。世界中に存在する環境問題、地域間格差、高齢化といったさまざまな社会課題の解決に貢献する段階に入ったのだ。
最新技術が社会課題を解決するには、政府、企業、自治体、そして大学や一般市民の理解と協力が必要だ。全員が積極的に参加して初めて、社会に変化をもたらすのである。本イベント「FIN/SUM : Fintech & Regtech Summit」は、こうした多くの団体や企業、個人の参加によって社会課題を解決する原動力を見つけ出すことをテーマとしている。日本銀行、経済産業省、東京大学、フィンテック協会、キャッシュレス推進協議会などが後援し、内外のスタートアップや大学生によるピッチコンテストも行われ、オープンスペースには各企業のブースが並んだ。
ブース出展した「mijin」は、クラウド上や自社データセンター内に、企業内や企業間で利用可能なプライベート・ブロックチェーン環境を構築するためのソフトウェアだ。金融機関から電子マネー、認証システム、登記システム、ロジスティクスのトラッキングまで幅広く活用できる「NEMプロトコル」を採用した汎用型のプライベートブロックチェーン製品である。既存のデータベースや勘定システムを置き換えて大幅にコストを削減すると同時に、改ざん不可能な高セキュリティ環境を構築し、システムやサービスが停止しないゼロダウンタイム環境を提供するのが強みだ。
4回目となる今回のイベントには初めて黒田東彦日銀総裁が登壇するほか、麻生太郎副首相・財務相・金融担当相、根本匠厚生労働相、遠藤俊英金融庁長官などが登壇。IFA社からも取締役COOの桂城漢大氏が登壇し、IFA社が開発・運営を行う次世代型銀行プラットフォーム「AIre(アイレ)」の概要やビジョンについて語った。
趣味嗜好まで一瞬で伝えられる新ID「AIre」
桂城:AIreプロジェクトは7年前にスタートしました。次世代型銀行プラットフォームのAIreを使って新しい基準を作りたいと考えています。新しい基準と一口に言ってもさまざまありますが、今日はIDとスコアリングにフォーカスしてお話しします。
みなさんが友人や同僚とバーに行くとき、何が必要ですか?運転免許証やパスポートなど、自分を証明するIDが必要ですよね。あなたが20歳以上かどうかを確認するものです。20歳以下だと法律上お酒を飲めないからです。運転免許証やパスポートなどのIDだと氏名や年齢、住所などしか確認できませんが、AIreをIDにすればもっと多くの情報を記載できます。
たとえばあなたがシャイな性格なら、ひとりでバーに行っても誰とも話したくないかもしれません。AIreなら「ひとりでお酒を飲みたい」という情報を追加できます。「ジントニックが好き」と好きなお酒の種類を記録することもできます。
バーやレストランでたとえていますが、飲食やショッピング以外でも活用できますよ。病院や予約機関では、初めて利用するときに毎回名前や連絡先、住所などを登録する必要があります。さまざまな場所でAIre をIDとして使えるようになれば、提示するだけで情報を共有でき手間と時間を省けます。現在、AIreの利用エリアを拡大中ですので楽しみにお待ちください。
新しい社会的信頼を生み出し、より多くの人が信頼される社会に
桂城:個人の信頼性を評価する基準としてスコアリングを行う「信用スコアリング」は、日本ではあまりよく思われていません。スコアリングの基準がどのように設定されているのか、どうやってスコアリングされているのか、ブラックボックス化してしまって誰も理解できないからです。どのようにデータを使い、どのような利益が生まれているかも知られていません。企業だけが利益を享受し、個人には還元されない不公平な構造になっているのです。日本政府もデータバンクに対して働きかけていますが、それでも利益がエンドユーザーである生活者に還元されることはほぼありません。
一方、AIreはデータを提出したユーザーに価値を還元します。社会的地位が高い人々は評判や名誉、資金を持っており、すでに信用を得ているので、いまさら信頼性を証明する必要はありません。本当に信用スコアリングが必要なのは、社会的地位が不安定な人たちです。こうした人たちは銀行口座すら持っていません。でも、金融機関含めほとんどの企業はその市場に手を伸ばしません。リスクや参入障壁が高いからでしょう。
私たちは、ここが重要な市場だと捉えています。信用スコアリングを求めている人、銀行口座を持っていない人は17億人もいるのです。また、若い人も市場に入っています。銀行口座を持っていても、若いというだけで信用を得にくい社会構造になっているからです。信用スコアリングなどで新しいテクノロジーで信頼性を証明できれば、銀行口座を持っていない人も若い人も社会的信頼を構築しやすくなるでしょう。
ポイントは、透明性のあるデータ活用です。ブロックチェーンは改ざんできず透明性を維持できますから、もってこいの技術だと言えるでしょう。データを誰かに渡すときも報酬としてトークンが発生します。そのトークンを企業にではなく、ユーザーへのインセンティブとして利用する構造にしました。データを私たちに送ってくれた人々に報酬としてトークンを与えることで、ビジネスをグローバル展開しているのです。
想像したくありませんが、会社が倒産する可能性もゼロではありません。ブロックチェーンに載せたデータは、たとえ私たちが倒産しても守られ、持続します。これがブロックチェーンの強みです。せっかく私たちを信用して渡してくれたデータの価値を損なうわけにはいきません。持続可能なデータベースを構築するために、分散型台帳技術であるブロックチェーンを利用しているのです。すべての人が「自分の情報」に対して主権を持つ未来に向けてAIreプロジェクトを展開していきます。
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ライター/萩原かおり 翻訳/佐々木希 編集/YOSCA 撮影/倉持涼