誰でもトークンを発行して資金調達できるICOプロジェクトは、審査がないため詐欺が横行しているのが現状だ。ブロックチェーン業界の信頼を高めるには、詐欺対策が必要不可欠である。
台湾でICOプロジェクトの分析・レポートを行うメディアを運営するZombit社のファウンダー兼CEOのEagle Su(イーグル スー)氏は「詐欺を見破る3つのポイント」があると述べる。IFA社の阿部氏が詳しく伺った。
「95%が詐欺」台湾のICOプロジェクトを分析するZombit
阿部:Eagle Suさんのこれまでのキャリアを教えて下さい。
Eagle Su:2013年からビットコインのマイニングや代行販売、および投資を行っていました。2017年頃からICO(Initial Coin Offering:仮想通貨経済におけるIPOと同等の資金調達方法)における詐欺が多いと感じて、ICOプロジェクトを細かく分析する「Zombit」(メディアプラットフォーム)を立ち上げました。
阿部:もう少しZombitの事業内容を説明していただけますか。
Eagle Su:ビットコインへの投資経験から、ICOプロジェクトの評価、メジャーコイン(ビットコイン、イーサリアム、リップルなど)の日々の変動などをレポートしています。中でも一番重要な業務は「週刊レポート」の作成。メジャーコインはもちろん、その週に特別上がったコインのプロジェクト内容や上昇理由などをまとめています。内容も豊富で、クリプト系のニュースを1週間見なくても、我々のレポートを見れば投資はうまくいくというレベルを目指しています。
阿部:ユーザー数はどれくらいですか?
Eagle Su:毎週1,000人くらいです。ほぼ台湾ユーザーですね。
阿部:なぜ台湾で事業を始めようと思ったのですか?
Eagle Su:以前から「初心者だけど投資したい」「詐欺の被害に遭った」といった相談を受けることがあり、初心者でも安心して投資できる健全な場を作りたいと考えたからです。詐欺が増えると市場の悪いイメージが広がりますから、それを何とかしたかった。また、台湾の社会全体から見ればコインサークルはまだまだ小さな市場ですが、台湾にとっても今後大きなチャンスになる成長市場だと思ったのです。台湾にはIT・Tech系の人材も多いので、これから伸びるだろう、と。
阿部:台湾は詐欺が多いのですか?
Eagle Su:正直95%くらいが詐欺じゃないでしょうか。ただ、2017年と比べると、市況に連動して良いICOも詐欺ICOも同比率で減っている印象を受けます。
阿部:以前、台湾の国会議員の方にもインタビューしたのですが、台湾は国としてクリプトを推進していく方針なのでしょうか?
Eagle Su:2019年6月には、STO(Security Token Offering)の法律が通りました。STOは証券と同様に審査が厳しく、投資対象となる資金調達方法です。この法律はアジア初の先鋭的な取り組みだといえます。また、国家発展委員会が「台湾ブロックチェーン連盟」を発足したり、台湾大学でブロックチェーンリーグを開催したり、国として積極的に取り組んでいます。
阿部:なるほど。日本市場はどう見ていますか?
Eagle Su:日本の印象としては、ビットコインの合法化や電車の広告なども早く、一時期ビットコイン取引は日本人が最多だったこともあり、最初の踏み出しは早かった。しかし、その後の流出事件でライセンスを止められたりして、最近はクールダウンしている印象があります。
阿部:そうですね。2020年4月に法律が変わるので、そこからまた大企業も動くと思いますが、ここ2年間は停滞しているというのは、おっしゃる通りです。日本に関わらず、今後事業を広げようというイメージはありますか?
Eagle Su:台湾には我々の他にもいいメディアがあります。でも、一般的な情報を発信しているところが多い。我々がやりたいのは、もっとコアなグループにより専門的な投資向けの技術分析を提供すること。「ブロックチェーン」や「クリプト」という視点ではなく、私自身の経験から「投資」という観点で、色々な情報を発信していきたいと思っています。
詐欺を見破るポイントとは?
阿部:投資の観点からICOプロジェクトを見た時に、詐欺を見破るポイントはありますか?
Eagle Su:1つは、「投資したらこれだけ儲かる」とか「最初から大手取引所に乗る」と大きく宣伝しているところ。もう1つは、パートナー企業がやたら多いのに提携実態が怪しいところ。たとえばAmazonと提携していると言っているものの、実はAWS(Amazon Web Service)を利用しているだけだったり、Googleと一緒にやりますと言って、実はGoogleのSDKを利用しているだけだったり。宣伝文句や提携実態には気を付けたほうがいいでしょう。
阿部:詐欺プロジェクトは、お金を集めるために投資家の興味関心を引き付けようとするのですね。
Eagle Su:ええ。あと、台湾人はギャンブル好きで「不労所得」と聞くと我先にと手を出してしまう人が多いので「不労所得」というキーワードは要注意です。実際にどんなプロジェクトか具体的に聞くと明確に答えず、ただ「儲かる」という話ばかりをする。そういうICOプロジェクトは詐欺の可能性が高いですね。
阿部:確かに、そういうケースはありますね。最後に、日本の読者に向けてメッセージをいただけますか?
Eagle Su:ブロックチェーン業界にはただ儲ける以外の可能性と魅力があります。私自身、2013年にビットコインに出会って投資からブロックチェーン業界に関わるようになりましたが、「ただビットコインで儲けるだけでなく、もっと詳しく研究したい」と思いました。あの頃はビットコインもブロックチェーンも全然わからなかったものの、絶対に未来があると思って父親を説得して投資を始め、2017年からは色々な活動をしています。
阿部:不況の今こそ、成長市場を持つブロックチェーン業界にチャンスがありそうです。
Eagle Su:はい。台湾の賃金は他国より低く、家賃は高いので、若者にフレンドリーな環境ではありません。クリプトやブロックチェーンが必ず成功する保証はないのですが、1つのチャンスです。たとえ失敗しても時流に乗った経験ができますから、その経験を糧にもっと大きな挑戦ができますよ。
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ライター/川島弘之 編集/YOSCA 撮影/倉持涼