ビットコインの勝者と敗者はどう生まれるか。5年で世界初の称号を手に入れたCanaanの戦略

2019.09.05 [木]

ビットコインの勝者と敗者はどう生まれるか。5年で世界初の称号を手に入れたCanaanの戦略

巨大な中国は、どの業界においてもブームを生み出す力を持つ。仮想通貨ブームも中国が火付け役となった。市場の動きに敏感な中国の投資家は、現在のブロックチェーン業界をどう分析し、行動しているのか。
Canaanはブロックチェーンに関するソフトウェアの研究開発を行っており、ブロックチェーン産業の投資にも注目する企業だ。2013年に設立した新興企業ながら、その成長はめざましい。設立当初は110ナノのチップを開発していたが、わずか5年で7ナノのチップを量産するまでになった。副総経理の徐佳 (シュ ジャ)氏に、Canaanの成長理由でもある強みとビットコインで勝つ法則について伺った。

世界の計算力の約35%を担う新興企業Canaan

徐 佳:会社の本部は広州にあり、北京の開発部では人工知能のチップとそしてブロックチェーン専用のチップを開発しています。2013年に設立し、2015年には国の研究プロジェクトに選出されました。2016年に国家高新技術員の認定を受け、世界で初めて7ナノのチップの量産に成功しています。今年は甲州市のユニコーン企業として選定されました。

Canaanの強みは2013年に世界で初めて FX チップをローンチし、一番早く市場に参入したことだ。PoWマイニングをSXチップに転換したパイオニアの一つでもあり、TSMC(世界最大の半導体製造ファウンドリ)の中国部門において最大のクライアントである。

徐 佳:今後の注力分野は2つに分かれます。ブロックチェーンに特化したチップと、人工知能に特化したチップです。ブロックチェーンに特化したチップはPoW計算と取引処理に、人工知能に特化したチップは電源計算やクラウド計算に特化しました。これらのチップは世界中60ヶ国以上に販売され、世界の計算力の約35%を担っています。

ビットコインの勝者と敗者はどう生まれるか。5年で世界初の称号を手に入れたCanaanの戦略

人工知能チップは、計算のスピードとコストパフォーマンスの向上を目指し、自社チームだけでなく社外チームと共同で開発を行っている。オープンソースゆえに、開発者のコミュニティを一緒に作るイメージで取り組んでいる。

徐 佳:人工知能チップにデータの収集や分析機能をつけ、インターネット産業中心にソリューションとして提供できるように開発を進めています。物流や小売りなどの分野でスマートライフを発展させたい、という目標もあります。

開発段階ではあるが、コストパフォーマンスが高くエネルギー消費が少ない点が競合よりも優れている。さらに音声認証と顔認証の機能が同一チップに搭載されており、反応時間が1秒以下と短いのも強みだ。これにより、データ送信中のプライバシーを確保できる。

徐 佳:これだけ急激に成長できた理由の一つは中国のサポートです。チップの開発領域は中国が国として注力しています。国の投資プロジェクトにも弊社が選ばれたので、国内外の有名な専門家からも注目されるようになり、支持を集められました。

ビットコインマイニングにおける勝利の法則

Canaanはマイニングマシンも多く開発・販売している。仮想通貨のブロックチェーンを作り、取引記録の承認時に機能するシステム「マイニング」において、承認時の計算方法はPoWが主流だ。世界中でマイニングでき、コインの価値が生まれやすく、安定した流通ができる点がPoWのメリットである。

徐 佳:PoWマイニングでは、マイニングマシンを持っているだけではビットコインを入手できません。PoWマイニングの収益を左右する要因は主に4つあり、最大の要因はコインの価格。2つめはネットワーク上の計算力ですね。ビットコインの価格が上がると参加者が増えてマイニングマシンを買う人も増え、より高い計算力が求められるようになり、マシン一台あたりの収益はどんどん少なくなっていきます。

1日でビットコインを配分できる量は限られているので、配分される計算力も少なくなる。ビットコインの高騰により計算が増え、以前オフラインだったマイニングマシンが再度オンラインになることもある。

徐 佳:3つめの要因がマイニングマシン自体の価格、マイニングマシンを購入するコストです。我々のメイン商品A851だと1,000円ほど、最新の A 10なら5,000円前後ですね。マイニングマシンの価格はビットコインの価格に比例します。

ビットコインの勝者と敗者はどう生まれるか。5年で世界初の称号を手に入れたCanaanの戦略

ビットコインが高い時はマシン価格が3万円になることもある。最近はマイニングマシンの価格が低迷しており、安いタイミングでマイニングマシンを購入する人も多い。

徐 佳:4つめの要因が電気代。マイニングのコストで一番高いのは、マイニングマシン自体ではなくてマイニングに使う電気代です。日本は比較的電気代が高いので、日本のクライアントはマイニングマシンを買っても日本に持っていかない傾向があります。中国では安い火力発電があり、雨期であれば水力発電がさらに安くなるので、時期によってマイニングファームを切り替えながら運用する人が多いです。火力発電の平均価格が3~5万円、雨期の水力発電の平均価格は2~3万円ぐらいでしょうか。

最近は、マイニングファームに投資する企業も増えた。マイニングファームへの投資はこれらの4つの要因に左右されるビットコインマイニングとは異なり、電気代と土地代の固定費用からリターンが見込めるため、リスクが低いのだ。

徐 佳:ビットコインマイニングを短期的に捉えると失敗します。ビットコインで損をする人はマイニングを短期的に捉えているのですが、長期的に捉えないとリターンは見込めないでしょう。ビットコインの価格が上がるにつれて「長期的に儲かるのでは」と考える仮想通貨コミュニティからの問い合わせが増えました。そのため、ビットコインマイニングマシンの計算力を標準化して、そのまま売ろうかと考えています。

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個人がマイニングマシンを買うには、マイニングマシンを作っている会社とファームを探して手続きする必要がある。なかには電気代を高く請求するなど詐欺まがいの行為をする企業もあるため、コストと安全性の両方を考慮しなければならない。

徐 佳:こうしたリスクがハードルになるため、個人のお客様は少ないですね。現状は9割以上が大口のお客様です。ビットコインマイニングマシンの計算力を売るのであれば、大型の投資家だけでなく個人投資家に向けても販売できますし、ビットコインに精通していない方にも提供できる。今後はこうした投資家のサポート事業にも注力したいです。

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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