データ時代でも新しい価値を生むのは 出会いと共創、信頼の積み重ね

2019.09.04 [水]

データ時代でも新しい価値を生むのは 出会いと共創、信頼の積み重ね

液体ノリが入った容器をくるっと回しながら傾けて、気泡を二つに分ける。これが今、じわりじわりと話題になっている『やみつき感触トイ 気泡わり専用アラビックヤマト』の遊び方だ。開発者は、おもちゃクリエーターで株式会社ウサギ代表取締役の高橋晋平氏。

 

それは老舗企業へのアプローチから生まれました

高橋氏といえば、バンダイに在籍していた会社員時代に『∞(むげん)プチプチ』や『∞エダマメ』を手がけた稀代のヒットメーカー。クリエーターとして独立後は、おもちゃの企画開発、マーケティングに携わるなど活躍の場は多岐にわたり、『企画のメモ技』(あさ出版)などの著作もある。まさに華々しい経歴の持ち主ながら、気泡を割るという、失礼ながら地味な遊びとはなかなか結びつかない印象だが、果たして…。

 

「小学生の頃、体が丈夫でなかったこともあって友人たちとうまく外で一緒に遊べなかったりしたんです。だから休憩時間なんかに、ひとり遊んでいたのが、この気泡割りだったんです」

 

「アラビックヤマト」は、1975年に登場以来、オフィスや家庭に欠かせない文房具界のマスターピース。まさか今の時代に、おもちゃとして扱われるとはメーカーも全く予想していなかったであろう。

 

「ヤマトさんには、Webの問い合わせフォームから普通にアプローチしました。何をしたいのかを明確に、そして『アラビックヤマト』への熱い想いをしたためした。すると、担当の方から『ちょっと意味がわかりかねるので、あらためて詳しくご説明いただけませんか? 』とお返事頂戴しまして。瞬間、これはいけるかも!と直感しましました 」

 

高橋氏なら周囲のネットワークを駆使すれば、なにも問い合わせフォームを使わなくともアポ取りの仕方はありそうだが、実は一個人と老舗企業とのコラボレーションの実現性を探っていた矢先だったようで、あえてこの手法を取り入れたそうだ。ウサギ代表の高橋です、と名乗っても相手は1899年創業の老舗。まずは会ってもらえたことの感謝が大きかったという。「おっ、個人でも動けばなんとかなるんだな!」と思ったのが本音だとか。

データ時代でも新しい価値を生むのは 出会いと共創、信頼の積み重ね

「計画的偶発性理論」の存在があってこそ

結果として、クラウドファンディングで資金を調達して『やみつき感触トイ 気泡わり専用アラビックヤマト』がヤマト公認として誕生するのだが、このサクセスストーリーの根っこにあるのは、高橋氏が取り入れている「計画的偶発性理論」の存在が大きい。

例えば、自分がある役職に就きたいと願ってキャリアを積んでも実現するかどうかは不透明。それよりも、幸せを呼び込む行動(好奇心や楽観性など)を計画的に行うことが、実は近道だったりするのではないか、という発想です。

 

「自分が本当にやりたいことを実現するために、個人的欲求やコンプレックスと向き合いながら、最終的にやりたいことをするのが仕事だと思っています。ぼくの場合、欲求キーワードは、『健康第一』なんです。

起業することで環境を整え、健康をコントロールすればストレス排除につながりますから。独立する時は勇気もいりましたが、最終的には健康第一という軸がはっきりしていたので迷いがなかったです」

 

「計画的偶発性理論」に基づいて行動した結果、今年はヤマト創業120周年という節目で、いい風が吹いたことも事実。さすが、ヒットメーカーは考えることが違う、と思いきや、この考え至るまで悩み苦しんだ時期が少なからずあったそう。

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弱味を全面に打ち出しながらも共創していく

「会社員時代は、勘違いしてイケイケな時期もありましたけど、起業後は企業というでかい看板外れたことの衝撃とか、それはもう一通り経験しました。起業間もない頃は、躍起になって、私の武器はアイデアです! なんて言ってましたが、今振り返れば、なんだそれ?ですよね」

 

そこで行き着いたのが、自分のキャラのタイプを知ること。自分の強みを主張するタイプ、ではない。かといって自分の意見やウリがないわけではない。すると、ストンと落ち着いたのが「共創」というスタイル。

これまでの経験上、企業であれ個人であれ、相手が持っている強味はこちらが黙っていてもずっと喋ってくれている。だが、話が進むうちに相手が困っていること、必要としていることもチラホラと出てくる。

その弱味こそ、高橋氏がお手伝いできることだったりするというのだ。企画立案、開発補佐、商品のPR、販路の拡大など、相手が欲している点をフォローすることでお互いが補完し合える関係。

 

「例えば、企画会議でぼくが率先してダメな企画を出したとします。すると他のメンバーは、企画のプロがこの程度なら自分ならこうできる、というような空気になるんです。結局、外部の人間がどれだけ素晴らしい企画を出しても、それを実行するのは内部の方ですからね。ぼくも弱味を全面に打ち出しながらも共創していくこと、それが大事なんだと思っています」

 

みんなに出会いたいんです!

データ時代でも新しい価値を生むのは 出会いと共創、信頼の積み重ね

「新しいビジネスは、小さな失敗を積み重ねることから生まれる」と高橋氏はいう。どうしても自分ひとりで仕事を進めていくと、常に失敗しないように、失敗しない方向へと進みがちになるという。それでは新しい仕事商品も生まれない、成長もしないと。

 

「今回の『やみつき感触トイ気泡わり専用アラビックヤマト』に、単に中身が減ってるだけじゃん、なんてツッコミもあるんですけど、それでもありがたいんです。文房具をおもちゃにしたという自負もありますし、クラウドファンディングで応援してくれる人も予想以上でしたし。誰かの、何かのヒントになったら嬉しんですよ」

 

高橋氏が手がけた「かけアイ」という、ビジネスアイデアがどんどん生まれるゲームがある。この商品はネット販売を一切行っておらず、東京を拠点とする高橋氏から直接購入する、手売りスタイル。にかかわらず、ある日、かなり遠方の他県からわざわざお客さんが買いに来てくれた。これがきっかけで、今では友達付き合いにまで発展したそうで、『やみつき感触トイ 気泡わり専用アラビックヤマト』でも、そんな夢のような出会いが最終目標だという。

 

「2019年10月30日水曜の夜、『アラビックヤマトの気泡で遊んだ人サミット&気泡わりチャンピオン大会』を東京で開催します。クラウドファンディングで資金を調達しましたけど、やっぱり実際に会って声が聞きたいんですよ。みんなに出会いたいんです!」

データ時代でも新しい価値を生むのは 出会いと共創、信頼の積み重ね

株式会社ウサギ代表取締役
おもちゃクリエーター
高橋晋平

1979年、秋田県出身。東北大学卒業後、2004年、株式会社バンダイに入社。国内外累計335 万個を販売し、第1回おもちゃ大賞を受賞した『∞(むげん)プチプチ』を始め、『∞エダマメ』、自らの名を冠した『瞬間決着ゲーム シンペイ』などヒット玩具を連発する。2013年にはTED×Tokyoに登壇。あらゆるジャンルを「遊び化」することを考え、月曜日を楽しくする方法の研究もしている。新しい企画を“仕組み”で生み出すメモの技術を解説した書籍 『企画のメモ技』を2018年に出版。講演や執筆活動も行っている。
Twitter : https://twitter.com/simpeiidea

 

『やみつき感触トイ 気泡わり専用アラビックヤマト』
https://kibidango.com/965

 

取材・文/堀田成敏 撮影/山本 智

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