ブロックチェーンでアート流通を変える! 「B-OWND」が目指すアーティストと買い手の新しい関係

2019.09.02 [月]

ブロックチェーンでアート流通を変える! 「B-OWND」が目指すアーティストと買い手の新しい関係

アート市場の規模は全世界で7.16兆円なのに対して国内の市場規模は3,434億円と、まだまだ国内での成長の余地がある。その中で今、美術品や工芸作品を総称したアート市場の拡大を目指し、制作活動を行うアーティストが公正に利益を受け取れるような仕組みが必要とされている。

アート市場の活性化を目指し、ブロックチェーンの技術を用いた課題解決に挑む「B-OWND(https://www.b-ownd.com/)」というサービスをご存知だろうか? 5月にローンチしたこのサービスを手掛ける丹青社(https://www.tanseisha.co.jp/)の吉田氏と石上氏にインタビューを試みた。

 

公正に利益が受け取れる「アーティスト本位」のアート市場を作りたい

「丹青社は商業施設、ホテル、医療施設、イベント、オフィス空間づくりに加え、博物館に展示する作品の企画なども行なっています。仕事をする中で、地域のアーティストや工芸作家に接する機会があるのですが、創作活動に集中できる環境が整っていないことを感じていました。」(吉田)

 

アーティストが制作した作品を博物館に展示するだけでよいのだろうか。もっと貢献できることがあるのではないか。「創作活動の環境が整っていない」という課題意識を持ったことが「B-OWND」のプロジェクトを進めるきっかけのひとつだったという。

 

そもそも美術品や工芸作品というのは、一般的な商品と異なり、誰の目に留まり評価されたか、誰が購入したか、どんな展示会で展示されたかといった「来歴」の情報によって価値が形成されていく。それが有名なアーティストの作品であれば価値はさらに大きく跳ね上がる。

 

一方でその来歴の情報は主に、紙に記録する程度のアナログ管理。情報が正しく記録されていなかったり、せっかく有名な展示会に出展されたとしてもその事実を広く世の中に発信できていないのが、アート市場の実情であり課題でもある。

 

他にもこんな課題がある。

「『落穂ひろい』の作品で有名なミレー。彼の『L’Angélus(晩鐘)』という作品は、死後に世間で価値を認められて高い価格で取引されるようになりました。しかし、取引で利益を得たのはそのとき売買を行っていた人たちだけです。

作者のミレーの家族には利益が還元されていませんでした。そこで『追求権』という権利が生まれました。しかし追求権をすべてのアーティストが行使できているかというとそうではありません」(石上)

ブロックチェーンでアート流通を変える! 「B-OWND」が目指すアーティストと買い手の新しい関係

「追及権」というのは、制作した作品がアーティストの手を離れたあとも、作品が転売されるたびに作品の売価の一部を得られる権利のこと。しかし、なかなかうまく機能していないのが実態であり、日本においては美術作品の追求権そのものが未導入で、議論が続けられている。

ブロックチェーンでアート流通を変える! 「B-OWND」が目指すアーティストと買い手の新しい関係

「B-OWND」は、空間デザインのプロフェッショナルである丹青社が立ち上げた新たなECサービスで、アーティストが制作したアート・工芸作品をオンラインで購入できる。購入した作品や購入者の情報がブロックチェーンに記録され、証明書という形でこれらの来歴が記録される。

ブロックチェーンでアート流通を変える! 「B-OWND」が目指すアーティストと買い手の新しい関係

現在販売されているのはアート市場でいうと「工芸(クラフト)」という領域。クラフトはアートと比べて実用的なものを指すのは確かなのだが、アートに比べて価値が低いわけではない。またクラフトといえど芸術性が高いものもある。

引用元:B-OWND/不動如山(うごかざることやまのごとし)作:中村弘峰

https://www.b-ownd.com/works/225

 

ブロックチェーン技術を使って作品の来歴を未来永劫残せる

 ①制作した作品の来歴の管理を精緻に行いたい
 ②アーティストに対して公正に価値が分配できる

これら2つの課題を解決するよい策はないかと考えたときに吉田さんと石上さんの目に留まったのが「ブロックチェーン」の技術。偶然にも作品に来歴の証明書を付与する技術を開発する「スタートバーン」というスタートアップ企業と出会い、「B-OWND」というサービスを提供するに至った。

 

「B-OWND」は一見すると、アーティストが工芸作品をオンラインで販売できるECサイト。しかし、作品を購入すると「アートブロックチェーンネットワーク」というブロックチェーンに、作品を購入した来歴が記録され、証明書が発行される。

購入した人の情報も、プライバシー保護の処理が行われた後に、ブロックチェーンに記録される。作品の転売が繰り返される度に、このブロックチェーンに来歴が記録されていけば、その記録が価値を作り、同時に証明するものとなる。記録を基に、二次流通以降の取引代金の一部を「還元金」としてアーティストに支払うことも可能だ。

 

「ブロックチェーンの証明があるからというよりは、販売しているアーティストの作品を気に入ったから購入してくれる人たちばかりです。『B-OWND』としてはオンライン取引の場を提供することで、新たな客層を開拓し、展示会場に訪れていない人でも作品を購入してくれるきっかけになればと考えています」(吉田)

ブロックチェーンでアート流通を変える! 「B-OWND」が目指すアーティストと買い手の新しい関係

というように、ブロックチェーンはあくまで道具として使うので前面に際立って出てくることはない。一方で、作品の来歴をずっと保持し続けるというのは、ブロックチェーンの得意技でもある。考えてみれば、個人が生まれてから今までどこに住んできたかという情報は「戸籍」として、会社が設立されてから今までどんな来歴があったかという情報は「登記」として公的に管理されている。

公的な管理があるおかげで個人や会社の存在の証明につながっている。ということは美術品や工芸作品の来歴も、何らかの仕組みで正しく管理しないと価値の証明にはならないと言えるだろう。

 

アート市場のビジネス面での課題解決に対してブロックチェーンの親和性の高さが理解できるだろう。他にもこんな考え方がある。

「アーティスト目線だと、ブロックチェーンに自分の作品の来歴が未来永劫記録されることに対して、アーティストが『ロマンを感じる』という意見をよく言ってくださいます。

またブロックチェーンのような新しくて、まだよくわかっていないものに対してチャレンジしている姿が、無から有を生み出す制作活動とつながると言ってくれるアーティストもいらっしゃいます」(石上)

 

そもそもブロックチェーンによる証明機能をアーティストに提供したところで、アーティスト側が受け入れてくれなければ、アート市場を変えることができない。石上さんの話によれば、嫌悪するアーティストはほとんどおらず、むしろアーティスト心をくすぐるようなソリューションとなっているようだ。

 

まとめ

2020年には海外市場に踊り出ることを見据えて、ユーザー数拡大に努めている「B-OWND」。ECサイトとしての集客力や、多言語展開、アーティストと作品を購入してくれたファンとの交流促進など課題はまだ多いが、そこにはアート市場を適正化したいという強い意志が見え隠れしていた。

ブロックチェーンを活用した実用的なサービスという意味でも今後の展開に注目していきたい。

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