本人確認はどうする? 暗号資産のマネー・ロンダリング問題の現状と課題

2019.08.29 [木]

本人確認はどうする? 暗号資産のマネー・ロンダリング問題の現状と課題

暗号資産は現行法だとマネー・ロンダリングが行ないやすいお金だと言わざるを得ません。警察庁が公表した2019年版警察白書(https://www.npa.go.jp/hakusyo/r01/toukei.html)では、暗号資産交換業者から犯罪収益移転や資金洗浄の疑いがある取引の届け出が7096件あり、前年比10倍以上の届け出があったといいます。

全国の金融機関の届け出件数は41万7465件なので暗号資産全体の届け出件数の1%でしかありません。しかし、実際に摘発された件数は511件と統計開始の2000年以降過去最多となりました。

暗号資産に限らずマネー・ロンダリングを防ぐための規制や対策が益々強化される状況にあります。

 

ブロックチェーンのデータを追い続ければマネロン対策は可能

そもそもマネー・ロンダリングとはどのような行為でしょか。振り込め詐欺などの犯罪行為で得たお金の出所を、あたかも真っ当な事業活動で得たお金として見せることをいいます。足が付かないように送金を何度も繰り返したり、金の延べ棒や宝石などの価値が高いものを売買したりします。

このような行為を防止するため、金融機関で口座開設するときや10万円以上の送金をするときなどは「本人確認」として運転免許証やマイナンバーカードなどの提示を求めています。

提示を受けた金融機関は、犯罪者や暴力団のリストと照合して、マネー・ロンダリングに使われないかどうかをチェックしています。

 

暗号資産を送金する場合を考えてみましょう。暗号資産の送金は金融機関を通す必要がありませんから、送金するときにそもそも自分の個人情報を明記する必要がありません。

送金先のウォレットアドレスがわかれば、相手の個人情報を入力する必要もないのです。法定通貨を送金するよりも匿名性の高い取引が可能なので、マネー・ロンダリングのリスクが高いと言われています。

 

2019年6月にFATFが公表した暗号資産サービス提供業者向けの規制基準では、1000ドルまたは1000ユーロを超える価値のある暗号資産を、送金業者間で移動する場合には、送金する人と受け取る人の両方の本人確認と顧客管理を行うことを義務付けました。そもそも暗号資産サービス提供業者は、金融機関と同水準の本人確認と顧客管理義務が課せられています。

 

したがって、業者経由で送金した場合には送金者と受取者の両方の本人確認が行なわれ、受け取った暗号資産を法定通貨に交換する場合、その交換業者でも本人確認が行なわれますから、犯罪者や暴力団のリストとの照合が可能になっています。

しかし、仮に麻薬取引やテロ資金に使うための暗号資産だけの経済圏が作られていた場合には、業者を介さずに取引ができてしまうので、これらの規制は無意味なものになってしまいます。

 

もちろん、対策手段が無いわけではありません。暗号資産の送金履歴はブロックチェーン上に全てが記録されています。犯罪集団が持つウォレットのアドレスがわかればそこから送金履歴を追うことで資金の出所などを掴むことができます。

本人確認はどうする? 暗号資産のマネー・ロンダリング問題の現状と課題

暗号資産向けのマネー・ロンダリング対策ソリューションの例。暗号資産の送金を可視化しブロックチェーンだけでは読み取れないウォレットが存在する国情報やリスク情報を確認できます。

引用元CIPHERTRACE社(https://ciphertrace.com/

 

FATFの勧告に対して暗号資産版のSWIFTが創設されるかも

  FATFの規制をより細かく見ていくと、交換業者が送金を受け付けたときには、送金者と受取者の双方の口座番号や利用している金融機関、住所などの情報をリアルタイムで共有することを求めています。さらに必要に応じて金融当局や警察当局にも共有できる体制構築を義務付けています。

 

国内のある暗号資産取引所のコンプライアンス担当者によれば、「2019年6月のFATF勧告前後から金融庁などの規制当局と、送金時に付与する情報の内容について議論している」との情報があります。具体的にはSWIFT送金に使う「MT103」というフォーマット相当の項目を求められているとのことです。

 

SWIFTとは金融機関が海外送金を行なう時に使用するプラットフォームのことです。日本から海外送金するときに使われています。このとき使用するフォーマットの一つがMT103というもので、送金者の情報などが含まれています。

 

FATFによる規制を満たすためにはSWIFTと同じように送金元・送金先の情報を共有する仕組みが必要です。そのため暗号資産版のSWIFTが開発され各国の暗号資産業者で使われるようになるかもしれません。

本人確認はどうする? 暗号資産のマネー・ロンダリング問題の現状と課題

まとめ

これらの仕組みはあくまで暗号資産取引業者を通して送金する場合の規制にすぎず、送金情報を根本的に調べて、1つ1つのトランザクションがマネー・ロンダリングの可能性があるかどうかの検証をすることはできません。

ですが、検証するためのソリューションはすでに開発・提供されています。業者での送金者の確認だけでは不十分となる犯罪者同士の直接の取引に対して、規制当局がどのような対策を取っていくか。

またその対策に対して暗号資産交換業者や送金業者がどのような協力を行なえるかが、暗号資産によるマネー・ロンダリングを防止するための重要要件となりそうです。

 

取材・文/久我吉史

この記事をシェア