ブロックチェーンを活用したビジネスを展開しようとする企業の懐に飛び込んで、ビジネスのアクセラレーターとして、大企業からスタートアップ企業までを支援する企業が「TECHFUND」(https://techfund.jp/)社だ。
社名の「TECH」にあるように技術力に強みを持ちつつ、アクセラレーターとして企業を支援している。代表取締役の松山雄太氏は技術に明るく、起業家や大手企業の新規事業企画担当が直面する技術的課題や心理をよく理解している人物だ。
今回はそんな松山氏へのインタビューで、最先端を行くブロックチェーンビジネスのアクセラレーターの考えを存分に聞いてきた。
目次
実証実験で終わらせずビジネスがスタートするまで徹底サポート
「ブロックチェーンのビジネスは、実証実験のみで止まってしまっている企業が多いです。我々はそこに技術での支援を加えることでリリースや事業化まで持っていくことができます」(松山氏)
通常アクセラレーターと言えば、資金や助言、人脈の紹介などが主となるイメージがあるが、TECHFUND社の場合はアクセラレーターながら自社で技術系エンジニアを抱えているので、企業が行ないたいビジネスのITソリューションをワンストップで提供できてしまう。
加えてITソリューションの提供の目途が早期に立てられるので資金調達を行いやすい特徴がある。
「ビジネスは形にならないと意味がないのは誰もが思っていますよね。そこでTECHFUNDでは、ビジネスアイディアの壁打ちからシステム開発までを丸ごと支援しています。そうすることで、新規事業の事業化の確度が高まります」(松山氏)
新規ビジネスの立ち上げに限らず、事業投資家の要求水準はいつも高いところにある。ビジネスアイディアを練っている段階なのに早くプロトタイプが欲しいとか、開発がスケジュール通りに行える算段を早く立てないと投資をしないとか。会社を起こしたり新規事業を企画したりしようとした人ならば一度は体験したことがあるだろう。
TECHFUND社はITエンジニアやウェブマーケティングに長けたメンバーなど、プロフェッショナルな人材を数十名揃えている。2014年の創業から5年ほどで、内外含めたスタートアップ企業300社以上、国内の上場企業など大手30社以上の新規事業立ち上げを支援しているのも頷ける。
そんなTECHFUNDがブロックチェーンに目を付けたのはなぜなのだろうか。
ブロックチェーンはオンライン上で「公正性」を実現できるソリューション
「やはりブロックチェーンに将来性を感じたのが大きいですね。私たちが新規事業立ち上げた際に常に意識するのは、ユーザー目線で不満や不便といった『不』になる部分。そういった『不』の中に存在するユーザーの課題を解決するときに、ブロックチェーンの特徴である『公正性』が役に立つことが多いなと思っています」(松山氏)
松山氏は自身もエンジニアとして活動しながら、ユーザー目線に立った課題をITの力を使って解決してきた。その経験からブロックチェーンには非常に大きな可能性を感じているという。
特に注目しているのがブロックチェーンで実現できる「公正性」だ。
例えばテレビ番組などでよく見る応募者への抽選サービス。海外旅行商品が当たる企画があったときに「当選は発送を以って代えさせていただきます」と表示がされた。このとき、本当に商品は当せん者に発送されているのだろうか。抽選と言いながら出来レースのように、内部の優遇すべき人を当せん者に仕立てているのではないか。と疑問に思うことがある。
しかし、実情は確認する手段がない。実際に当せんして発送されたかどうかなんてわからないのである。
このような人間が操作できる事柄をブロックチェーンで実装することでデータのトレーサビリティを確保し、データを追跡して正しさを検証できる。インターネット上でネットワークに参加し、データの維持・検証のためにCPUパワーを使うだけで「正しいということ」を表現できる。
「特にブロックチェーンはユーザー目線の『不』の一つである『不正』に対するソリューションになり得ると思っています。抽選だけでなく、投票や決済など、不正が行われる可能性のある様々なシーンで利用可能性があるはずです」(松山氏)
このようなブロックチェーンの特徴とビジネスへの可能性が松山氏の原動力であり、培ってきた技術とビジネス探求力の成果なのであろう。
ブロックチェーンは本業でなく斜め上に位置するビジネスに活用すべし
ブロックチェーンをビジネスで活用したいと思ったとき、特に大企業の新規事業企画部門が気を付けることは何だろうか。
「本業にブロックチェーンを実装することで、自社のリソースを全てユーザーに開放してしまうことを頻繁に見かけます。これは多くの場合、ビジネス的によくありません」(松山氏)
例えば中途採用向けの人材紹介を行っている企業が、人材のデータを管理するシステムにブロックチェーンを実装してしまうと、せっかく自社で集めたデータを公に公開してしまうことになる。
「自社から見て斜め上のビジネスを考えるとうまく行くことが多いです。中途採用向けの人材ビジネスの例でいうなら、人材の評価情報を共有するシステムだったり、給与支払いのためにトークンを使って分払いするシステムだったりと、自社ビジネスに対して間接的にメリットとなるシステムを考えるとよいでしょう」(松山氏)
5年間で数百以上のブロックチェーンビジネス案件を実際の目で見てきた経験からのアドバイスだけに説得力がある。皆さんも本業をさらに強化するようなプラスαの要素、ビジネスをさらに拡大させることにブロックチェーンを活用できないか考えてみてはどうだろうか?
ゆくゆくはAIを使ったビジネスデューデリジェンスなど決裁者や投資家の判断を支援するビジネスに手を広げて行き、ブロックチェーンビジネスを手掛ける起業家の成功者をますます増やして行きたいという松山氏。10年後には「ブロックチェーンビジネスの相談はTECHFUNDへ」というデファクトスタンダードが出来上がっているかもしれない。
松山雄太氏
9歳よりプログラミングを独学。前職株式会社サイバーエージェントでは人事および新規事業の立ち上げに従事し、2013年に全社MVP「ベストスタッフ賞」を受賞。2014年に株式会社TECHFUNDを設立、代表取締役に就任。
取材・文/久我吉史