「貨幣の発行権を国が独占している限り、私たちは国が権力を乱用するリスクと隣り合わせで生きていかなければならない」。ブロックチェーンに触れられるオンラインゲームや金融商品を提供する中国企業CoinUp / CRYPTO Currencyの創業者である罗一哲(ロウ イゼ)氏は、中央集権型の社会からの脱却を提唱する。それを実現するのが、ブロックチェーンだ。
今回、AIre VOICE編集長の大坂氏が罗氏と対談。ブロックチェーンによる社会や経済の自由化、独占組織からの独立といったテーマについて徹底討論した。
国に頼らない自治組織が生まれる可能性
大坂:本日はありがとうございます。さっそくですが、自己紹介をお願いできますか。
罗:中国最大のECプラットフォームを提供する「アリババ」で働いた後、イギリスの上場会社GMCでコンサルタントを務め、主に海外市場を担当していました。起業してからはソーシャルメディアを作り、約100万人のユーザーを獲得して約2億元の価値を生み出すことに成功しています。
2016年末から2017年初にかけてはパブリックチェーンのプロジェクトに投資し、そこからブロックチェーン業界に入りました。2017の下半期にデジタル通貨に関する金融商品「CoinUp」を作り、現在はより多くの投資ルート創出を目指して活動しています。
大坂:「CoinUp」はどんな金融商品ですか?
罗:デジタル通貨の監視、資金の動向分析などの機能があり、ユーザーに「どのデジタル通貨に投資すればいいか」を提案できます。投資·金融に関するデータをもとに合理的な提案ができるのが特徴です。
大坂:それは魅力的ですね。ブロックチェーンの可能性については、どのようにお考えでしょうか。
罗:経済は大きく自由主義と独占主義の2つに分けられるのですが、前者は自由な発展、後者は国による関与が基盤になります。中央集権型のモデルから分散型のモデルへと切り替えられるブロックチェーン技術は、自由主義を推進する存在です。国に頼らず機能する「自治組織」が実現できるでしょう。
デジタル通貨の発展を阻む政府と法律
大坂:ブロックチェーンを活用すれば、今よりも自由な経済発展が期待できるということですね。
罗:ええ。ブロックチェーン技術によってデジタル通貨やトークンが誕生し、経済の発展を後押ししています。これからも金融市場がより活発化するでしょう。その一方で、国による関与、つまり政府が作る法律が発展の足かせになっています。
大坂:というと?
罗:現在、ユーザーが所有するデジタル通貨は千万もの取引所で取引されていますが、各国の法律によって取引に制限が生まれているのです。たとえば、日本で売買できないデジタル通貨が他国で売買されていることはよくあります。要するに、政府が法的に支持するかどうかで取引所、デジタル通貨の普及度が大きく左右されるということです。政府からの認可を受けられずに困っている取引所はたくさんあります。政府が法律面から積極的に支持する姿勢を持てば、ブロックチェーン業界の成長スピードは一気に上がるでしょう。
大坂:なぜ政府はブロックチェーン技術に対して消極的なのでしょうか。
罗:ブロックチェーンなど新技術の発展は支持しているものの、投機的売買によってバブルが起きないように警戒しているんです。巨大な中国市場では、多くの詐欺師が大金を儲ける機会を狙っています。隙あらば個人投資家の金を騙し取るので、社会にも悪い影響をもたらすリスクがある。こうした不正が起きないように、極端なバブルを押さえ込まないといけないわけです。
大坂:なるほど、中国ならではの事情ですね。会社のプロジェクトでブロックチェーン技術を活用したことはありますか。
罗:自社のウォレットにブロックチェーンを導入しています。私たちが提供しているウォレットサービスではたくさんのデジタル通貨を扱っていて、US、EDH、BDCという3つのデジタル通貨がメインです。こうしたデジタル通貨の売買に加えて、ブロックチェーンの投資ゲームも開発しました。投資をゲーム化すればユーザーの興味を引きつけやすくなり、より多くの人に「試しに参加したい」と思わせることができます。
大坂:ゲーム化するとハードルが低くなるので、生活者がブロックチェーンを知るきっかけを創出できますね。
罗:そのとおりです。ゲーム性があると、最初はあまり興味がなくてもだんだんとのめり込むようになる。そしてゲームの根幹となっているブロックチェーンに触れ、暗号通貨への投資を促すことができるのです。
個人情報が守られ、貨幣が国から解放される時代へ
罗:経済を発展させるには貨幣のパワーが必要不可欠ですが、むやみに大量発行すると貨幣の価値が低くなり、人々が持っている資産の価値まで下がってしまいます。それだけの影響力を持つ貨幣の発行権を国が独占している限り、私たちは国が権力を乱用するリスクと隣り合わせで生きていかなければいけません。デジタル通貨が普及して貨幣としての価値が上がれば、国が発行する貨幣だけに頼らず生活できるようになり、こうした問題を解決できるはずです。
大坂:デジタル通貨が普及するにあたって、何か課題はありますか?
罗:データプライバシーを守ることです。中国では、アリペイなどモバイル決済が使われていて、個人の購買記録がデータベースに保存されています。自分は何を買ったのか覚えていなくても、アリペイには個人のデータが記録されていて、その所有権は自分ではなく企業側にあるわけです。データの保存そのものには価値がありますが、データの権利をだれが持つかは議論の余地があるでしょう。個人のデータプライバシーは守られるべきですから。
大坂:データを所有している企業が、個人のデータを売買したり、不当に公開したりといったことが問題視されていますよね。
罗:ええ。ブロックチェーンはデータプライバシーの保護に役立ちます。インターネットが生み出したビッグデータによって侵害されているプライバシーも、ブロックチェーンがデータの所有権を個人に戻すことで守れるようになるからです。「インターネットの弱点がブロックチェーンのチャンスになる」という言葉があるように、ブロックチェーンには今インターネットが抱えている課題を解決するポテンシャルが秘められています。
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼