イギリスのホームレスを再起させた新システム。寄付金詐欺を防ぐ「成果報酬型」募金

2019.08.21 [水]

イギリスのホームレスを再起させた新システム。寄付金詐欺を防ぐ「成果報酬型」募金

慈善活動にブロックチェーンが活用され、寄付金の使い道が追えるようになった。アメリカの公的慈善団体「Fidelity Charitable」は201511月から暗号通貨の受け入れをスタートし、2017年には1,350万ドルのビットコインが集まった。ビットコインでの寄付は節税になるうえに、どのように使われたかまで把握できる点が注目されている。後者はブロックチェーン技術の成せる業である。
イギリスのブロックチェーンの普及団体「ALICE」は、ブロックチェーンを通じたチャリティー募金を推進し、多くのホームレスを再起させている。今回、AIre VOICE編集長の大坂氏が同団体のDani Ismailov(ダニー イスマイロフ)氏と対談し、新しい成果報酬型の寄付システムについて伺った。

成果報酬型の寄付で慈善活動を透明化

Dani寄付金詐欺の事件を経て、チャリティーにも信用が求められるようになりました。寄付したお金がどのように使われているのかがわからないと、寄付を行う対象が信用されないのです。だから人々も寄付そのものよりも、行動そのものに注目するようになりました。
アイス・バケツ・チャレンジもそのひとつ。お金を寄付するか、バケツに入った氷水を頭から被るか、あるいはその両方を行うかを選択して実行するもので、結果的に頭から氷水をかぶる様子がSNS上で多く拡散されました。

大坂:実際に寄付していなくても、氷水をかぶる様子がSNSで広まることで認知度が上がり、慈善活動の普及につながったケースですね。お金よりも行動が影響力を持った良い例です。

Daniとはいえ、寄付したお金がどうやって使われるのかわかり、信用が高まればもっと積極的に寄付できるようになるでしょう。そこで私たちは、最初にお金の行き先を決めて支払うのではなく、慈善活動の結果次第でお金を支払えるシステムを生み出しました。実際には、お金ではなく仮想通貨を使っています。イーサリアムを使ったブロックチェーンとスマートコントラクト(契約の自動化)の仕組みによって可能にしました。

イギリスのホームレスを再起させた新システム。寄付金詐欺を防ぐ「成果報酬型」募金

大坂:寄付してからの利用プロセスが透明化されますね。具体的にはどのように導入したのでしょうか?

Dani一番大きなプロジェクトがホームレス支援で、「新しい家を見つける」「物理的・精神的なメディカルケアを手に入れる」という2つの大きなゴールを設定していて、それぞれ詳細なゴールの達成に金額が設定されています。「新しい家を見つける」場合、詳細なゴールが「一時的なホステルに1人移動させる」だと200ポンド、「長期的な住まいを1人に提供する」だと750ポンドです。スマートコントラクトによって送金されるので、達成状況に応じて自動的に寄付を行えます。

大坂:支援に成功した人数に応じて、インセンティブがついた寄付ができると。寄付金が無駄にならず、支援者にとって納得感の高い寄付が可能になります。イギリス政府もホームレス支援に力を入れているのでしょうか。

Daniええ。私たちの支援プロジェクトでは成果に応じて払われるシステムを導入しているので、外部の監査役にロンドン政府がいます。今後はロシアや日本でも同様のチャリティーシステムを導入する予定です。

大坂:従来の慈善活動では利益を出すことがタブーとされていましたが、このプロジェクトは支援者にも利益をもたらす点が大きな特長です。詳しく解説していただけますか。

Daniまず、ホームレス支援プロジェクトでは物件を買う投資家がいます。その物件にはホームレスが安い家賃で住むことができ、物件を良い状態で保てていれば維持費としてホームレスのアカウントに報酬が与えられます。また、良い状態に保った物件を価値が高い時に売れば投資家も儲かるでしょう。ホームレスも与えられた報酬を物件退去後の自立資金に充てられます。

大坂:支援プロジェクトで利用しているのは仮想通貨だけですか?

Dani最初は仮想通貨ベースでやろうとしたのですが、色々な人に使ってもらえるように簡単な仕組みにしたかったので、クレジットカードでも支払いできるようにしました。

イギリスのホームレスを再起させた新システム。寄付金詐欺を防ぐ「成果報酬型」募金

慈善活動にはだれかの人生を変える力がある

大坂:こうした取り組みのプロモーションはどのように行っているのですか?SNSなどで発信しているのでしょうか。

Dani私たちはわずか7名の小さなチームなんですが、幸運なことにニューヨークタイムズやイギリスの新聞などに多く取り上げられ、特にプロモーションをしなくても知名度が高められました。メディアに取り上げられたのは、チャリティーとブロックチェーンをつなげる取り組みが新しかったからです。

大坂:たった7名のチームなのですか。エンジニアは何人いますか?

Daniフルタイムで勤務するエンジニアは4人います。オープンソースなので、ほかのコミュニティに属しているエンジニアも部分的に参加してくれています。色々なコミュニティの人々がプロジェクトを進められるのは、オープンソースのメリットですね。

大坂:多様性のあるチームができますね。日本ではブロックチェーンなどの新しい技術に対して保守的になりやすい国民性があり、なかなかプロジェクトが進行しないといった問題があります。ロンドンでは、ブロックチェーンなどの新しい技術に積極的な風潮があるのですか?

Daniブロックチェーン業界は新しく未熟ですが、急成長している分野として注目されています。ここ数年、ブロックチェーン業界の人気は高まっていると感じますね。オックスフォード卒の日本人アドバイザーがいるので日本のブロックチェーン企業との交流もあり、最近では丸紅から声がかかりました。

イギリスのホームレスを再起させた新システム。寄付金詐欺を防ぐ「成果報酬型」募金

大坂:それは驚きです!日本人は慈善活動に対して消極的な傾向があるように思うので、読者に向けて慈善活動の大切さを伝えるメッセージをいただけますか。

Dani慈善活動にはだれかの人生を変える力があります。たとえば難民であったり、子どもの労働者であったり、ホームレスであったり……イギリスでは、政府予算の第三部門に慈善活動が入っているほど力を入れています。そのお金は、イギリス政府が民間の団体などに渡しています。最近では孤独な老人の支援団体なども増えてきましたね。

 

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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