ユーザー弱者の金融業界にメスを。ブロックチェーンアプリ「Blockpass」で金融が変わる

2019.08.27 [火]

ユーザー弱者の金融業界にメスを。ブロックチェーンアプリ「Blockpass」で金融が変わる

金融業は大きな変化が生まれつつある。ファイナンス(金融)とテクノロジー(技術)を掛け合わせたフィンテックが発展し、ITを活用した新しい仕組みが導入されるようになったのだ。日本では複数の地方銀行や都市銀行が統合や撤退を繰り返し、メガバンク数社が拡大を続けているが、ブロックチェーン技術により集中化した構造が分散化されるかもしれない。
香港のBlockpassは、銀行手続き時の身元確認を行うアプリケーションを開発。ブロックチェーンを活用し、面倒な手続きを安全に効率化した。銀行に依存せずとも個人で取引できる仕組みで、個人情報が大企業に集中する従来の金融構造を覆す力を持つ。同社のCMOであるHans Lombardo(ハンス ロンバルド)氏とAIre VOICE編集長の大坂氏が対談し、現在の金融業が抱える課題と、ユーザー不利の構造を覆す方法について伺った。

企業が強者、ユーザーが弱者

大坂:もともとブロックチェーン業界に携わっていたのですか?

Hans Lombardoいえ、私は連続起業家(シリアルアントレプレナー)で、約20年の間さまざまな会社を買っては売っていました。良いビジネスモデルを発見する目利きとしてのキャリアがあり、ブロックチェーン業界には高いポテンシャルとニーズを感じて注目していました。

大坂:なるほど。それでは、ブロックチェーンで本人確認をするアプリケーション「Blockpass」について詳しく教えていただけますか。

Hans LombardoBlockpassは銀行で口座開設するための身元確認の書類手続き(KYC)を効率的に行うアプリケーションです。金融サービスでの本人確認は、さまざまな書類を提出したり複数回確認を繰り返したりと手間がかかり、非効率的です。ブロックチェーン技術を用いたBlockpassは、一度ユーザーから本人確認情報をもらえば他のサービスでも同じ情報を流用でき、何度も同じ確認工数を踏む必要がありません。

ユーザー弱者の金融業界にメスを。ブロックチェーンアプリ「Blockpass」で金融が変わる

大坂:これまでもデータベースに情報を格納するサービスがありましたが、Blockpassにはどういったメリットがあるのでしょうか。

Hans LombardoAmazonFacebookなどプラットフォームとなるデータベースに個人情報を格納すると、中央集権型の構造になり、そのプラットフォームから情報が流出するリスクがあります。さらに個人情報の所有権がプラットフォーム側に移ってしまい、ユーザー本人に主権がない状態に陥ります。Blockpassはブロックチェーン技術を使っているので、情報が分散化されて安全性が保たれ、ユーザー自身が個人情報の所有権を持てます。

大坂:自分以外の企業や組織に依存しない仕組みなので、自分の情報を守りやすくなりますね。

Hans Lombardoええ。ブロックチェーンによって各手続きが記録されるため、資金の出どころやお金の流れがわかりマネーロンダリングなどの不正や犯罪に巻き込まれなくなります。さらに、個人のデータ保護を強化するEU一般データ保護規則(GDPR)違反も防げるため、顧客データを扱う企業もリスクヘッジできるでしょう。

大坂:すばらしいですね。日本はレギュレーションが厳しいのでこうしたサービスを展開するのはハードルが高いのですが、香港や中国では順調に広まっている印象です。どの国も今はリテラシーを強化しているので、企業はリスクがあるものを避ける傾向があり、KYCには大きなビジネスチャンスがありそうですね。実際にBlockpassを利用する企業は増えていますか?

Hans Lombardo増えています。Blockpassの特長は、一度情報を登録してKYCを行えば、あとはクリックするだけで他のサービスでもKYCができることです。Blockpassには20名以上のアーリーアダプターがいて、そのほとんどが日本人でした。日本人はこうしたサービスへの感度が非常に高いと感じます。

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大坂:そうだったのですか。Blockpassが提供する「PASS」トークンについて詳しく教えてください。

Hans LombardoPASSトークンは、Blockpass社とInfinito Walletの間でパートナーシップを組んで配布しました。ユーザーが本人確認サービスを利用して個人情報を入力すると、その本人確認プロセスの報酬としてPASSトークンを受け取ることができます。こうした報酬を与えることで利用促進するトークンの仕組みはユニークで、パイオニア的存在です。ビジネスモデルとして設計しているので、トークンが上がったり下がったりすることは気にせず長期的な視野で取り組んでいます。

大きなビジネスチャンスが潜むブロックチェーン業界

大坂:香港は仮想通貨やブロックチェーンに対してどのような姿勢で取り組んでいますか?日本はこうした新技術に対して比較的慎重で、あまり発展スピードが速いとは言えません。

Hans Lombardo香港もあまりスピーディーではないですね。香港は北京の意向を踏まえてから動くので、個人的には政府の動きが遅いように思います。香港よりシンガポールの方が進んでいますね。シンガポールの後をついていくような感じです。

大坂:今はどの国の企業と交流がありますか?アジアが多いのでしょうか。

Hans Lombardo私はアメリカ人ですが、世界中にメンバーがいて複数の国と交流しています。顧客も世界中にいますね。さきほど日本の発展スピードが遅いとおっしゃっていましたが、Blockpassのアーリーアダプターに日本人が多かったように、日本はかなり進んでいる印象です。

ユーザー弱者の金融業界にメスを。ブロックチェーンアプリ「Blockpass」で金融が変わる

大坂:確かに規制は厳しいものの、日本でもブロックチェーンや仮想通貨は注目されていますし、ブロックチェーン業界にはスタートアップ企業が次々に誕生しています。ブロックチェーン業界のおもしろさはどこにあると思いますか?

Hans Lombardoこれから発展するだろうポテンシャルを持っている業界なので、やはりその伸びしろが最大の魅力なのではないでしょうか。特に創業者や開発者、マーケターやセールスなど市場ニーズに敏感な職種の方は、これから注目するべき業界だと思いますね。仮想通貨はかつて爆発的に価値が上がってからいったん落ち着いたものの、今もゆっくりと値上がりしています。

詐欺事件なども起きたので良い部分が見えにくいかもしれませんが、こうした傾向を持つ業界は非常に珍しく、起業者としても非常に興味深いです。ブロックチェーン業界でチャンスを掴めれば、今後活躍するビジネスパーソンになれますよ。

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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