2019.08.06 [火]

価値が伝えられれば、お金が要らなくなる? 中西哲生が語る、ブロックチェーン時代の生き方

スポーツジャーナリスト・中西哲生×『AIre VOICE 1.0』編集長・大坂亮平 対談

 

テクノロジーは生活を便利にしてくれる一方、新たな問題や価値観の変化を生んでいる。特に金融の分野は今後テクノロジーの進化によるビジネス環境の変化が一番大きな分野と言えるだろう。我々はその変化にどう備えればいいのか? 国内最大級のブロックチェーンメディア「AIre VOICE 1.0」編集長で、次世代銀行「AIre」構想を掲げるIFA社のCMOを務める大坂亮平氏と、スポーツジャーナリストの中西哲生氏がブロックチェーンを活用した次世代の銀行とその可能性について語り合った。

 

いつもフラットでありたい

IFA 大坂亮平(以下、大坂):まず、私たちの会社の紹介を簡単にしますね。弊社はブロックチェーン(分散型台帳)技術などを使って次世代型銀行「AIre」を提供し、ひとりひとりがパーソナルデータに主権を持てるようにすることを目指しているFinTech系のスタートアップです。

次世代型銀行って、どんなもの? と聞かれたときには、こんな説明をしています。

いま銀行から融資を受ける際は、職業だったり、勤務先だったり、カードの支払い情報だったり、すでにある信用情報で融資額が決まると思うんです。けれど、これからの時代は例えばSNSのフォロワーだったり、その人がどんな人なのかも評価基準になるはず。評価の基準ってほかにもいろいろとあるはずなので、きちんと個人を評価し、それらを紐づけ、個人の資産とお金を評価する、そうした新しいスコアリングを行なうのが次世代銀行のイメージです。

ちなみに、私が編集長を務めている「AIre VOICE」は、新しい技術を使って変わっていく社会や未来像などを、様々な方々と語り合ったり、記事を配信して、多くの人に情報をお届けすることを目的としています。

中西:なるほど。そこで、私が呼ばれたというわけですね。

大坂:せっかく中西さんとお会い出来たので、サッカーに関連した具体例をお話します。先日ロンドンで情報交換してきたんですが、向こうにアーセナルとドルトムントと契約をしているゲーム会社で話を聞きました。その会社はブロックチェーンでファンとクラブチームの新しいコミュニティのあり方を作っているんです。

例えば、プレミアリーグでは、スタジアムのチケットが非常に高価です。なので、ファンはスタジアムで気軽に観戦ができない。また、スタジアムに入れる人数には限りがある。では、ファンはどうやって試合を見たり、情報を得ているかというと、試合はネット配信、情報収集にはSNSを使っている人がいる。ですが、ファンがアーセナルのFacebookページに「いいね」をしても、その「いいね」はFacebookに押されたものであり、アーセナルのチーム自体に「いいね」がされていない、と考えている。

中西:まぁ、そういうことですよね(笑)

大坂:はい。だから、Facebookが得をしているだけで、きちんとチームに還元されていない。

中西:フェアじゃないですよね。だから、どこかに仲介させずに直接やり取りする場を設けるということ?

大坂:おっしゃるとおりです。

 

中西:僕はいつも「フラットでありたい」と思っているんです。人間って、そう思っていても、意外とそうでないことがある。今日、ここに来るときにエレベーターに乗り合わせた女性が、利用するエレベーターを間違えちゃったんです。僕はこのフロアで一緒に降りて、別のエレベーターに案内をして、仕事があるからといってこちらに来たけれど、本当は彼女が行きたいところまで付き添ってあげたほうが良かったかもしれない。

また、僕はいま電車で移動するようにしているので、混んだ電車などに乗り合わせることもある。こういうときにも、自分がフラットでいられているかを考えたりしますね。

大坂:中西さんがおっしゃっている感覚って、わかる気がします。インターネットって、国を跨いで人と人が繋がれるようになり、スポーツ選手やアーティストなどを身近に感じることができるようになりました。その一方で、さっきのクラブチームとファンの関係に、第三者が介入するのって、アレっ? みたいなことを気づき始めている。

私たちが考えている次世代銀行やスコアリングについても、同じように、自分たちが主体的に使えるようなサービスが求められてきているように思うんです。

新しい時代に価値を生み出せる人になるには?

中西:少し話は変わるかもしれませんが、この先、もしかしたらお金が要らない生活ってありえるんじゃないかと感じているんです。いきなりそんなことを言われても驚くかもしれませんが、いま僕はいろいろなところにサッカーを教えに行っているんですけれど、お金はもらっていない。その代わり、ごはんを食べさせてもらえる。

大坂:なるほど、なるほど。それ、僕も似た経験があります。僕はこの会社でも、これまでの会社でもマーケティングを担当してきたので、それを教えてくれといわれることがあるんです。そういうときって、ごはんをごちそうしてもらえる。で、ある日、思ったんです。これ、もしずっと続けられたら、お金って要らないかもって。

中西:そう! これって中西哲生に価値があることを、直接会った人はわかってくれる。こういうのって、第三者にもうまく伝えられて、それを積み重ねておけたら良いですよね。この人は信用できるから、この人に教わると良いよ、とか。もちろん、そうしたことがすぐに来るわけではないけれど、そうした社会実験を大坂さんたちがやっているわけですね。

大坂:外国人は使えないんですけれど、中国だと既にそれに似たスコアリングシステムがあって、使われ始めています。

中西:要するに、人間の生きている通信簿みたいなもので、徳を積むとそれがちゃんと記録されていく。そういうことを資産として管理するのが、次世代の銀行ということなんですね。もちろん、そう簡単にお金はなくならないだろうけれど、今後お金が絶対という感覚を変えるサービスが出てくるということでしょうね。

ブロックチェーンなどを利用すると、様々なモノの価値をトークン化することができると聞いています。そのように積み重ねた人の行ないに価値が生まれるようになることで、さまざまな社会問題の解決の一歩となればいいですね

大坂:はい。最近はブロックチェーンなどの技術的な話よりも、中西さんがおっしゃったように社会がどう変化するか、どんな面白いことができるかを言葉にするようにしています。

中西:たとえば?

大坂:私は休日にギャラリー巡りをするのが好きなんです。将来は、自分が気に入った作家の美術作品を何人かで購入し、それを暗号資産で価値に変換して、自分のスマホのウォレットアプリで管理する、といったことが出来たらと思っています。

中西:いま、何か新しいことが起こりつつあるんですね。僕は古いものにしがみつくのではなく、新しいものを受け入れる感覚が好きなので、抵抗がないんですが、僕らの年代はこうした新しい時代の波から逃れきることができない。ならば、そうしたことをきちんと知り、自分の思考や振る舞いを早めに切り替える必要があると思う。今日の話を聞いて、改めて、自分がフラットであるかを大切にしていきたいと思いました。

 

  • 中西哲生(写真左)

1969年生まれ。同志社大学卒業後、出身地の名古屋グランパスエイトに入団し、複数のクラブチームでプレーして引退。サッカー解説者やスポーツジャーナリストとして、テレビや雑誌などで活動する傍らで、長友佑都、永里優季、久保建英らのパーソナルコーチを務める。2007年から2015年まで公益財団法人日本サッカー協会特任理事を務め、現在は日本サッカー協会参与。出雲観光大使などサッカー以外の活動にも積極的に取り組む。

  • 大坂亮平(写真右)

IFA株式会社CMO、AIre VOICE編集長。Live配信のスタートアップ、SPの広告代理店などでのプランナー、デジタルマーケティング職を経てIFA株式会社へジョイン。5つのプロダクト/プロジェクトで構成される「AIre」構想の最初のプロジェクト『AIre VOICE 1.0(アイレヴォイス)』を担当。デジタルマーケティングにおける経験を活かし、「AIre」全体のコミュニケーション戦略などの計画・実行責任者として活躍する。

取材・文/編集部 撮影/干川 修

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