多くのネットサービスを利用する際、人々は個人情報を登録する。データシェアも活発化する今、個人情報保護はどこまで実現できるのか。500万ポンド(約6億8000万円)の資金調達に成功したイギリス企業「Gospel(ゴスペル)」は、ブロックチェーンを使ったデータベースサービス「Gospel Technology」を提供し、多くの世界的企業を顧客に抱えている。
高い技術力をもってヨーロッパのGDPR(EU一般データ保護規則)に適応したオリジナルチェーンの開発に成功し、確固たる地位を確立した。
今回、同社のReuben Thompson(VP Technology)とAIre VOICE編集長の大坂氏が対談。前編では、テクノロジーの進化に伴ってデータの行き来が活発化するなか、これからはどのようにデータを取り扱っていけばいいのかを伺った。
データシェアの大きな課題
大坂:ブロックチェーンを使ったデータベースサービス「Gospel Technology」は高い技術力があり、世界的企業も多く利用しています。
今日は、それだけの実力と人気を生み出した理由を伺いたいです。そもそも、なぜデータベースにブロックチェーンを利用しようと思ったのですか?
Reuben:ブロックチェーンを使ったサービスを作りたかったわけではなく、データサービスの課題に着目してGospel Technologyを開発しました。会社同士がデータをシェアするとメリットはたくさんありますが、シェアしたデータが他社にどう使われているかコントロールできないのがデメリットです。
大坂:なるほど。データのシェアには大きな課題があり、その課題解決のために生まれたのがGospel Technologyだと。
Reuben:はい、これまでもデータ利用の課題についてよく考えていて、セキュリティを強化できないか模索していたんですが、有効な手段が見つかりませんでした。
ブロックチェーン技術が誕生して「ブロックチェーンを使えばシェアしたデータのコントロールが可能になり、企業が持つデータを外部パートナーと安全にシェアできるようになる」と思いました。そこからサービスの開発に着手したんです。
大坂:これまでもサービスの構想は持っていたものの、ブロックチェーン技術がない段階では実現できなかったということですね。満を持して開発に踏み切ったと。
Reuben:ええ。データの使い方について合意を得ることで信頼を形成するという、比較的ユニークなブロックチェーンアプローチを行っています。
イメージとしては、Aさんに仕事を依頼するときに全部のデータを渡すのではなく、必要なデータだけ渡して悪用されないように予防するという感じです。必要なデータだけをパッケージにして渡すことができます。これがGospel Technologyの大きな特長ですね。
データベース会社が個人情報保護時代を乗り切るには
大坂:2016年に、ヨーロッパではGDPR(EU一般データ保護規則)が定められ、個人情報保護が強化されました。多くの個人情報を持つ企業はデータ保護オフィサーの任命が必要ですし、個人情報の保持期間も必要最低限までとされています。
EU以外への輸出においても適用されるとあってデータの取り扱いはかなり厳しくなりましたよね。
GDPRの規則に基づいてデータを取り扱っているかと思いますが、どういった点に気を付けているのか、対応方法について教えていただけますか。
Reuben:データベース会社はGDPRのトラブルに多く直面しています。データの取り扱いがしづらくなりますし、制限も多いですからね。しかし、私たちはほかのデータベース会社と違ってGDPRを肯定的に捉えていますし、トラブルもありません。
大坂:確かにデータベース会社はGDPRを嫌うものですよね。どういった点がほかのデータベース会社と異なっているのでしょうか。
Reuben:もともと他社とは考えが違っていて、真逆の取り組みをしていたんです。非改ざん性を持つブロックチェーンは基本的に書き換えができず、チェーンに一度載せた情報は消去できませんが、オリジナルで開発したゴスペルチェーンはブロックチェーンでありながらデータのアクセスを永久に禁止することができます。
ブロックチェーンの本質とは矛盾しているようですが、何のデータを提供するか指定できるうえに、削除する権利、つまり忘れる権利も持っているんです。そのため、個人情報の取り扱いに関してユーザーの合意が必要なGDPRにも適していました。
データを改ざんせず忘れられる点が、特にGDPRにマッチしたポイントです。
大坂:それはすばらしいですね。データは残っているけど、アクセスは永久にできない。情報の気密性が保たれています。高い技術力がなければ実現できないことですが、どのような仕組みなのでしょうか?
Reuben:弊社の製品には、「誰もこのデータにアクセスできない」という保証がチェーン上に存在します。
なおかつチェーンを変えない技術があり、チェーン自体を変えることなく誰もデータにアクセスできない状態を作ることに成功しました。「そんなことは不可能だ」という人もいるのですが、数学的に証明してアナリストや投資家にも説明できています。
大坂:ブロックチェーンはアルゴリズムやプロトコルで数式がたくさん出てくるものですが、数学的にきちんと証明できるオリジナルチェーンを作っているとは相当の技術レベルです。
後編では、ゴスペルチェーンの強みをさらに詳しく聞かせてください。
(後編へ続く)
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼