VALU 個人の価値とトレードの衝撃
私は、2年前VALUというサービスを体験して、ブロックチェーンに急速に興味を持ちました。
VALUはビットコインから派生的に作られた(Open Assets Protocolを使用)トークンをユーザーごとに発行してもらい、それを使って個人の価値を株やトレーディングカードのように売買できるサービスです。
この斬新なサービスに爆発的な人気が出て、一部の人たちに熱狂的な関心を呼びました。
2017年8月の“ヒカル事件”(人気YouTuberのヒカルが自分のVALUで期待をあおって、いきなり売り浴びせることで問題となった事件)で人気は下火になりましたが、今もVALU社はユーザーを増やし続けて現在は12万人を突破しています(2019年7月現在)。
この出来事は、個人の価値というものを改めて多くの人に意識させてくれました。
何故ここまでの熱狂が起きたかというと、個人の価値を、まるで仕手株のように急上昇して大儲けできる期待を膨らませたからです。
それは期待が期待を呼んだバブルのようななものでしたが、この現象を見て、個人が価値の尺度、証拠、トレードできるトークンを持つと、社会に大変化が起こりえるということを目の当たりにできたのです。
ところが、VALU自体、実際は株のような権利があるわけではなく、有名スポーツ選手のトレーディングカードのようなものとしか言いようがなく、その権利、財産としての価値は説明しにくいものでした。
私自身は、自分が興味を持った人のVALUを買う、私に何らかの価値を見出してもらいVALUを買ってもらうということを通じて、貴重な出会いを経験できたので、大きな意味がありましたが、それを客観的経済価値としては説明しにくいものでした。
そのため、個人が法的な保護を受ける権利、価値を持つ方法はないものかと、ずっと気になっていたのです。
個人発明を特許で財産とする可能性
前回、アメリカがコンピュータソフトウェアをなぜ発明のための特許権でなく、著作権で保護しようとしたかを書きましたが、簡単に、こちらでも書きます。
特許は、新規性、進歩性、産業有用性等を判断されるので、個人が発明を狙って取ろうとしても、相当の労力がかかります。
ほとんどの人にとって、現代では一個人として、自分の価値を高めるために発明をして特許を取りましょうというのは現実的でないと思われます。
個人の創作活動を著作権で保護できる可能性
著作権は、著作物を作った人に自動的に与えられる権利です。
著作物とは日本の法律では以下のように定義されています。
第2条第1項第1号「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」
アイデアや事実では認められず、自分の心に生じたもの、それを創作的に表現したものは芸術性が高い低い等に関係せず著作物と見なされるということです。私も色々調べてそれで間違いないとわかってきました。
産業の発展に寄与することを目的とするのが特許法ですが、著作権は文化の発展に寄与することを目的としているので、性格が全然違うのです。
ですから、著作権は個人でも著作物を作る(表現できる)ことができれば簡単に持つことができます。
私が今書いているこの文章ですら、自分の感情と思想の表現が入っているので、著作物と見なされるはずです。
ただ、念のために書きますが、誰にも読まれない文章、誰にも見られない動画、誰にも聴かれない楽曲、これらは少なくともそのままでは経済的な価値は発生しません。
権利は簡単に取れるが、それにどのようにして価値を付けていくかはまた別の大きな仕事となります。
ヒット曲を調べるとその多くが、CM曲、ドラマの主題歌や映画の主題歌など、最初の段階で多くの人に知ってもらえるようにプロモーションされ、その曲を好きな人が増えてきて、価値を持っていることがわかります。
著作権は、自分で著作物を作れば取れるが、多くの人に価値を認めてもらえる著作物を作るのは、多くの場合簡単ではないということかと思われます。
ただ、映画、小説、漫画、音楽、ひとたびヒットすると、その作品の著作権は高い価値を持つ権利の集合体となるので、それを狙っている企業はたくさんいます。
VALUを通じて知って驚いたことの一つに、私が見た限り、世の中には一流のプロと見分けの付かない漫画家、イラストレーター等がたくさんいることでした。絵だけでなく、ストーリーでも唸らせられる程のものを書かれている方がいました。
ところが、その著作権を取ることへの意識をきちんと持っている人にはまだ出会えていません。
個人で良い著作物を作れる人は、自分のためだけなく、大企業から個人へ活躍の原資を取り戻すためにも、同様の立場にあるクリエイターの地位と収入向上のためにも、もっと著作権を取ることを大切にしてほしいと思います。
ブロックチェーンが著作権者に与える可能性
例えば今までは、音楽で考えると、ミュージシャンの楽曲の著作権の管理はかなり複雑で、それなりの売上がある、または期待できる場合でないとプロの支援を受けて活動することは、ほとんどの場合出来ていなかったっと思われます。
インディーズ系や、ニコ生から有名になった歌手(例 米津玄師、DAOKO) や、YouTubeから有名になった歌手(例 あいみょん)もいますが、現在はプロダクションに所属しています。
ここからは将来への期待や夢ですが、ブロックチェーンで著作権をトークンで発行できるように環境が整備されたら、
マイナーミュージシャンの中から、生活費くらいは好きな音楽で稼げる人が増えるのではないでしょうか?
小説のように他の分野でも。
今でもYouTube上で活躍している歌手の人もいますが、自分の財産として自分の著作権を自動的に収益化できるトークンを持てたら、意識が変わると思うのです。
そしてそのための取り組みが、日本でも始まっています。次回はそれについて書きたいと思います。
撮影/倉持涼