「ブロックチェーンプロジェクトの創業者は、事業に費やす時間の80%をコミュニティに使ったほうがいい」と語るのは、2017年設立の投資ファンドGenesisの丰 驰CEO。
大手の投資会社であるGenesisは、ブロックチェーン業界において投資だけでなく、スタートアップの支援や資金調達コンサルティングなども行っている。
今回、Genesis Groupの丰 驰CEO、ベトナム投資責任者黄 檬氏と、AIre VOICEの編集長大坂氏が対談。
ベンチャーキャピタルとして設けている投資基準や、ブロックチェーンプロジェクトが大切にすべきこと、今後の発展が気になるベトナム事情について伺った。
Genesisについて
——今日はお時間いただきましてありがとうございます。まずは、Genesisについて教えてください。
丰 驰:私たちGenesis(創生資本)は、2017年によりよいサービスで世界の創業者を変えていく、ということを目指して創業しました。主に3つの業務を行っておりまして、1つは投資を行っているジェネシスキャピタル。
2つ目は、スタートアップの支援(インキュベーター)を行うジェネシスラボ。3つ目は資金調達や資産管理などを行うジェネシスIBです。
2017年から今まで企業通貨トークンを通して投資したプロジェクトは200を超えており、株式で取得したプロジェクトも2~30個ほどあります。
仮想通貨で有名なトロン(TRON)には、エンジェルインベスター(エンジェル投資家)のような形で創業間もない頃に資金提供をしていました。インキュベーターとしては、2017~18年の間にトータル2億ドルの資金を集めていますし、協業している投資機関は200社以上あり、十数件の取引所にも投資をしています。
——これまでに多くの投資をされてきているとのことですが、投資先を選ぶ際はどのような基準を設けていらっしゃいますか?
丰 驰:投資先を選ぶ時は、getBTCというロジックに基づいて判断しています。getBTCとは、
g= governance(ガバナンス)
e=economy(エコノミー)
t=team(チーム)
B=business model(ビジネスモデル)
T=technology(テクノロジー)
C=community(コミュニティ)
の略で、それぞれの項目で投資すべきかチェックをしています。
g=ガバナンスでは、プロジェクト遂行時にトラブルが起きた時、どんな方法で問題を解決してくかを見ています。
次のe=エコノミーは、「エコシステム、つまり経済圏をどう広げていくか」のチェックですね。インターネットで例えるとどうやってトラフィックやユーザーを増やしていくか、というところです。
具体的な例としては、先日中国で登場したニュース配信アプリがわかりやすいと思います。そのアプリでは、ユーザーが記事を見るとリワードがもらえるだけでなく、記事をシェアし別の人に見てもらうと、さらにリワードがもらえる仕組みになっています。
つまり、ユーザーが読者を増やしてくれるので、経済圏がどんどん広がっていくようになっているということです。
今ご紹介した例は、ブロックチェーンのプロジェクトではありませんが、この話はブロックチェーンのエコシステムにつながっていくものだと考えています。
——なるほど、ではt=チームは何を見ているのでしょうか?
丰 驰:t=チームですが、ブロックチェーン業界での創業が株式会社としての創業よりも難しいと感じていることから掲げています。
なぜならこの業界で創業するには、ブロックチェーンの技術力をもち、3次元的に考えていく必要もあります。そのため、いかにチームとして力を持っているかがカギとなっているのです。
みなさん「ブロックチェーンでの創業は簡単だ」というイメージを持たれているかもしれませんが、実際には創業時から大きな上場会社をコントロールするような能力がないと運用していくのはとても難しいのです。
チーム力は、ビジネスモデル(B)、テクノロジー(T)、コミュニティ(C)、を見ればわかるため、getのあとにBTCを挙げています。特にCのコミュニティがブロックチェーンの中では、一番ユニークな部分かつ重要なところだと考えていますね。
ブロックチェーンプロジェクトの成功はコミュニティ運営次第
——先ほど、コミュニティが一番重要だとおっしゃっていましたが、コミュニティと一言で言ってもさまざまなものがありますよね。御社ではコミュニティはどう定義していらっしゃいますか?
丰 驰:コミュニティの定義は「誰が参加しているのか」がキーとなってきます。ただ、誰が参加しているべきかは「そのプロジェクトが何をやりたいのか」によって変わってきます。
コミュニティは、実際にそのプロジェクトを使う人がメインで参加しているのが望ましいので、開発業者がコミュニティに参加していたほうがいい場合もあれば、ユーザーが参加していたほうがいいプロジェクトもある、という形です。
まだ運用段階に入っていないプロジェクトでも、潜在的なユーザーをコミュニティに入れておく必要がありますし、完全に開発が終わっていないプロジェクトにはブロックチェーンの専門家をコミュニティに入れておくといいですね。
プロジェクトを立ち上げる人は、「コミュニティを使って、ユーザーをどれだけ巻き込んでサポートしていけるのか」を考えることが大切だと私たちは考えています。
——コミュニティは、ブロックチェーンにおいてなぜ重要なのでしょうか。
丰 驰:コミュニティによって、サポーターやフォロワーといったユーザーが増えていくためです。ユーザーが増えなければ、価値も上がっていきませんよね。
ブロックチェーンは、上場した瞬間に多くのフォロワーをつけられるシステムになっていると私は考えています。
その典型的な例がビットコインです。ビットコインの創業者であるナカモトサトシは未だに誰なのか不明な人物ですが、次々とサポーターやフォロワーが出てきています。そのフォロワーたちがコミュニティを使ってビットコインの良さを広めていることでさらにビットコインのユーザーが増えているんです。
ビットコインの例を見ても、ブロックチェーンのプロジェクトは、創業者は大きな投資家を団結させるよりも多くの時間をコミュニティに割いて、コミュニティにもっと団結力をもたせたほうがいいと思っています。
東南アジアで今後の発展に期待できる国はベトナム
黄 檬:私は今、東南アジアの主にベトナムの投資事業を担当しています。ベトナムに2~3ヶ月ほど滞在し、経済状況やブロックチェーンの発展について調査してきましたのでお話できればと思います。
——なぜ東南アジアの中でもベトナムに注目されているのですか?
黄 檬:今後、ベトナムが中国のように大成長する可能性が高いと見ているためです。
共産主義国家ではありますが、徐々に共産主義から解放されてきていて、人口も増加し若者が多くいること。また株式や不動産の価値も上がってきていることなどから、次はブロックチェーンが来るのではないかと予想しています。
また、ベトナムは2017~18年にかけて経済成長率が7%ほどアップするなど、東南アジア諸国の中でも、ものすごいスピードで成長してきています。
不動産投資も注目を集めていて、ベトナム政府が海外投資家の不動産投資を許可するようになった2015年から不動産成長率は10%ほどと飛躍的にアップしています。
ただ国内としては、若い方が多く労働力はあるものの1人あたりの収入は年収3,000USDほどと、とても低いのが現状です。
——1人あたりの年収は低いのに、どうして猛スピードで発展してきているのでしょう?
黄 檬:ベトナム人は、消費することが大好きなんです。収入自体は少ないのですが、所得の半分以上を消費に使う人が多く、また、若い人が多いので巨額の富を築こうという野心も持っている人も多いです。そのため、少額ながらもコインの売買をどんどんしていく傾向があり、ブロックチェーンへの投資にも積極的な姿勢が見られます。
私たちが滞在していた時は、コイン市場自体はそこまで活気づいているわけではありませんでしたが、投資に対する熱情や開発へのパッションはとても高いと感じました。
——ベトナムの若い人の間でブロックチェーンが流行り始めている、ということですね。政府としては何か法整備などは行っているのでしょうか?
黄 檬:ベトナム政府としては、ブロックチェーンについて禁止はしていないものの、サポートもルールもなく、まだ曖昧な段階にあるようです。そのあたりも中国と似ていますね。
——なるほど。現地の仮想通貨取引所の状況はいかがでしたか?
黄 檬:取引所は6~7件ほど回りましたが、現地発の大手取引所はないようでした。中国の大手取引所が参入していることや、現地では投資に対する熱情が高いことなどから、2019年度はベトナムの仮想通貨取引は競争が激しい1年になると見ています。
一方で、投資機関はまだ未成熟なので、私たちのような専門の投資機関はほとんどなく、コミュニティベースで投資をやっている印象でした。ブロックチェーン業界で著名な方もコミュニティをベースにしている方が多いと思います。
——やはりコミュニティが重要な役割を担っていると……?
黄 檬:そうですね。先ほどもお話しましたが、ベトナム人の平均年収は高くないので、1人1人の投資額は数百ドルほどと少なめです。しかし、参加者が多いコミュニティでは、全体で数百万ドルになることもあるなど、コミュニティが重要なカギを握っているといえます。
現在は、プロジェクトも発展してきていますが、同時に開発者コミュニティも増加してきていて、今後の発展が期待できますので、注目すべき国だと考えています。
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ライター/土屋菜々 編集/YOSCA 撮影/倉持涼