「模倣品大国」中国はいまだに法規制が追いつかず、市場健全化に至っていない。
世界の模倣品による被害額は年間約46兆円と言われるが、日本税関が輸入差し止めをした製品の大半は中国から輸出されたものだった。多くは商標権を侵害しており、知的財産権が脅かされている。
デジタルリバー社でセールスマネージャーを務める仇氏は「ブロックチェーンを活用すれば知的財産権を保護し、中国市場を健全化できる」と提言する。
今回、AIre VOICE編集長の大坂氏が仇氏と対談し、無法地帯である中国市場の改善策や、ブロックチェーンやAIなどの最先端技術を消費者に浸透させる秘策を伺った。
無法地帯の中国市場を健全化するために
大坂:仇さんのキャリアについて教えてください。
仇:IT業界のデジタルマーケティング領域で活動しています。学生時代は日本語を専攻し、卒業後はソニーの北京事務所に入社して総務を担当しました。ソフトウェア企業に転職してからは日本市場で動画変換ソフトやDVDを販売し、その後にソフトウェア企業に海外向け支払いサービスを提供するデジタルリバー社に入ったのです。
大坂:具体的にはどんな支払いサービスを提供しているのですか?
仇:海外に商品を販売した時の決済をサポートし、レート問題などを解決するサービスです。グローバル企業が直面する課題にフォーカスし、お金のやり取りをスムーズにするものですね。
大坂:ブロックチェーンはどのように活用なさっているのですか。
仇:現段階ではまだ導入できていないのですが、これから模倣品問題の解決に向けて利用したいと考えています。
実は、当社の製品は中国市場には出していません。中国市場は大きな市場ではあるものの知的財産権が法的に守られておらず、模倣品が流通してビジネスが成り立たないからです。
法規制がされ出したのは最近のことで、いまだに管理や取り締まりが十分にできていません。多くのメーカーは中国市場での販売を諦め、良いサービスを開発しても国内ユーザーの手に届かないという悪循環が起きています。
大坂:昔から中国の模倣品問題はよく取り上げられますが、なぜ解決できないのでしょうか?
仇:消費者が有料サービスを好まず、個人情報が盗まれるリスクがあっても無料サービスを選ぶからです。だから市場でも高い正規品より安い模倣品が求められますが、若い世代は知的財産権を守ろうという意識を持つようになってきたので、これからブロックチェーンを利用して模倣品対策ができたらと思います。
脱中心化の性質を持つブロックチェーンは暗号化して情報を守るものですから、知的財産権の保護に適しています。人に管理されなくてもシステム上で自動管理できる点もメリットですね。
消費者を動かすのは感情である
大坂:AIやブロックチェーンなどの最先端技術は、どんな変化をもたらすと思いますか。
仇:AIは10年以内に人々のライフスタイルを変えると思います。ビッグデータ分析の分野では多くのAIが投入される見込みです。
特に自動運転、スマートホーム、自動カスタマーサービスなど、人の感情が不要なシーンでの適用が考えられます。
技術が進化すれば、脳波から直接的に信号を発してパソコンや機械を制御したり、言語コミュニケーションを省略したりできるのではないでしょうか。
大坂:テクノロジーの発達に伴って対面コミュニケーションが少なくなり、端末を介した通信が増えそうですね。
仇:とはいえ人間は感情で動く生き物ですから、コミュニケーションは重要です。AIやブロックチェーンなど、システムによる自動化を促進するテクノロジーが一定レベルにまで進化したら、人間の感情にも向き合う必要があると思っています。
消費者に感情面で受け入れられないサービスは普及しません。中国のブロックチェーンとAIは着々と進化していますが、実際にビジネスで成功したケースはほとんどないんです。
これは、消費者が新しいテクノロジーであるAIやブロックチェーンをまだ信頼していないからでしょう。
大坂:どの業界であっても、AIやブロックチェーンを導入したビジネスの成功事例は少ないですか?
仇:VRディスプレイ、アパートの電子キー、電気・水道・ガスの支払いシステムなどのホームオートメーションなど、さまざまなBtoCサービスがローンチされましたが、どれもうまくいきませんでした。
消費者が「このテクノロジーによって自分の生活が良くなる」と信じた時、初めて新しいテクノロジーが受け入れられます。リスクなどのデメリットよりも便利さなどのメリットが大きいと思われなければ、信頼されないでしょう。
新しく画期的なサービスであればあるほど、消費者にポジティブな感情を抱かせる必要があります。
メディアが業界をけん引する
大坂:ブロックチェーン業界の発展に必要なものは何だと思いますか?
仇:ブロックチェーンの概念と活用方法を伝えるメディアだと思います。たとえブロックチェーン技術の活用を検討していても、知識がなければ実装はおろか、計画を立てることもできません。
IT以外の業界でもブロックチェーンへの関心や期待は高まっていますが、ブロックチェーンとは何かを説明できる人は少なく、ビジネスチャンスを掴めないままです。
大坂:単なる基礎知識の習得に留まらず、どうすればビジネスとして成立し、企業に利益をもたらすかというプロセスまでイメージできなければなりませんね。こうした実用的な情報まで発信するメディアが求められると。
仇:どの分野でも、業界をけん引する専門メディアがあります。こうした専門メディアは業界における上位企業より影響力を持つことも多く、専門メディアの発展は業界の発展と比例するとすら思います。
発信力が高いメディアがあれば社会からの注目を集めやすくなり、業界が大きく育っていくでしょう。
大坂:AIre VOICEも日本のブロックチェーン業界をリードできるように情報発信していきます。本日は貴重なお話をありがとうございました。
AIre VOICEではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。
ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼