固定観念を捨て、グローバルシティズンとして生きる

2019.08.02 [金]

固定観念を捨て、グローバルシティズンとして生きる

80年代カルチャーを彷彿とさせるノスタルジックな装いで、懐かしくも新しいエレクトロミュージックを奏でる「Satellite Young」。

レーベルに所属せず、インターネットでの楽曲配信とライブ活動のみにも関わらず、2017年にはアメリカの音楽フェス「SXSW」への出演を果たすなど世界中から熱狂的な視線が注がれている。

ボーカルと作詞、作曲を手がける草野絵美は自身がレトロカルチャーの大ファン。イノベーションが叫ばれる現代にあって、彼女はなぜノスタルジーな世界を追い求めるのか。

アート系プロジェクトチーム〈ArtHub.jp〉代表の野呂 翔悟氏と草野が、コンテンツの体験環境の変化などを語り合った。

 

ー音楽というカルチャーにおける環境は、ここ数年で大きく変化し、若い世代では音楽は無料で聞くものという価値観が浸透しています。

私たちの世代だと、小さい頃から「音楽はタダで聴けるもの」という感覚は強く持っている人が多いと思います。だからこそ、音楽を取り巻く環境の変化を実感してきました。

私の場合は、今となっては配信を止められてしまったオープンソースの某ソフトウェアで曲をディグり、無料動画サイトでMVを見まくる日々を経て、今はSpotifyにお世話になっています。

でもSpotifyが何故合法で基本無料を実現できたのかなどを例に挙げても分かるように、コンテンツホルダーやレーベルにいる人たちが音楽を聴くメディアの変化に順応していかないと、音楽業界が崩壊しますよね。「音楽はタダで聴けるもの」だと思っているユーザーを野放しにしていたらレーベルもアーティストも食べていけないけど、取り締まってもイタチごっこになるばかり。

そういう状況の中でSpotifyの考え方は、ユーザーもアーティストもハッピーにしました。こういった変化を希望の光と思えるアーティストもいるはずです。

私もメジャーデビューはしてないですけれど、レーベルには入る必要がないと感じています。

思うに、アーティストは、もっと起業家のようになっていかなければいけないのではないでしょうか。

もちろん、マネージャーのような存在がいて、自分が苦手なことを任せるというのも経営的な観点と言えると思いますが、活動をする上でのビジョンや市場に対してどうアプローチしていきたいかを自らが握っていく必要はあると思います。

 

ー音楽へのアクセスが容易になった一方で、違法なコピーコンテンツが溢れ、著作者に対価が支払われない問題も起きています。ブロックチェーンがそうした問題を解決するのではないか、という期待も抱いているのですが……。

先日「ゲーム・オブ・スローンズ」が「HBO」というアメリカのケーブルTV放送局だけで配信されました。

もちろん本編を観た人たちはすでにネタバレを含むミームを作って拡散したのですが、観れていない国の人たちにとっては、たまったもんじゃありません。。そういう流れは嫌ですよね。

しかも、アジア諸国では、自分の国の言葉の字幕を勝手に付けてアップして、その海賊版が数千万回再生されていました。

これはコンテンツが有料か無料かという話ではなくて、リアルタイムで全世界の人々が熱狂したかった、ということだと思うんです。

HBOにとっては機会損失だし、すごくもったいないですよね。限定するのではなくコンテンツを広げていくことでマネタイズするほうがいいなと思ってます。

そういう点で、マネタイズの考え方を変えるブロックチェーンはすごいソリューションになるんじゃないかなと、私も期待しています。

3〜4年前からブロックチェーンは次のインターネットにあたるくらいの革新的な技術だと理解はしています。

でも、まだ仮想通貨しか触ってないし、それもブームは終わっちゃいましたよね。自分自身はあんまりそれで稼いだりしていないんで、ブロックチェーンに対しては、すごいという理解はありつつ、今一歩実感がない状態です。

固定観念を捨て、グローバルシティズンとして生きる

ー価値は信用をベースに成り立っています。ブロックチェーンを信じるコミュニティが増えていくと、コンテンツビジネスも変わっていくのではないでしょうか。

まずは、人間共通の「ブロックチェーン神話」が必要っていうことですよね。いずれにしても、作り手へのリスペクトだったり、メディアが変わっていくことによってお金の発生の仕方も変わっていく、ということをレーベルやコンテンツホルダー、プラットフォーマーたちが理解しないとダメですよね。

そういう人たちが強欲ではなく、作り手への思いで神話を作っていってほしいなって思います。

 

ー効率化が進む現代は、どんどん個人の時代になっていると肌で感じています。草野さんのように、レーベルを必要としない個としてのアーティストが既存の体制を変えていくかもしれません。

ちょっと前に出版された「誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち」(早川書房)という本に書かれているんですけど、極端な話今、音楽が無料で聞けるのは、もともとある若者が、CDのプレス工場から流出させていたからなんです。

彼らはお金のためにやっていた訳ではなくて、あるビジョンを持ってやっていた。それによって、体制側が大きく揺らぐことになったし、私も中学生のときに無料で音楽を聞けていた、ということに繋がるんです。まさに、世界を変える行為だったわけですよね。

だって、彼らの行為がなければ、特定アーティストのチャートの順位を組織ぐるみで上げようとしていたビルボードの怪しい仕組みはそのままだったかもしれないし、Spotifyだって生まれなかったかもしれません。

若者たちが体制へのアンチテーゼでプロダクトを作ったことが、のちのGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)となって世界を変えていったように、ブロックチェーンも強い意志をもった若者たちが活用していくことで、今まで手に入らなかったものが手に入るような新たな世界が生まれるかもしれないですよね。

キャッシュレス化が進んでいるから、目に見える「お金」に対する信用とか、影響力も変わっていくかもしれない。

固定観念を捨て、グローバルシティズンとして生きる

ーこれからは、キャッシュが力を持たなくなって、資本以外でどうやって影響力をつけるかという時代になっていくと思います。例えば、フォロワーの数が影響力になったり。

そうですよね。影響力の指標として資本力があげられましたが、今後はレアなケースになってくるでしょうね。

フォロワーが影響力の指標になるかと言われると、「今はそういう側面があるけど、いずれ変わってくる」っていうのが私の意見かな。

そもそもフォロワーだSNSだっていうのは、GAFAの世界でしか通用しないんじゃないでしょうか。

そう考えると、既に体制側になってしまったGAFAが、中国勢BATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)に押される可能性もありますよね。GAFAがずっと続くっていう前提すら、疑わないといけない。

だって、ディープラーニングに関しては、機械学習する回数が圧倒的な物量を持つ中国に敵わないという可能性もあるから、力関係がどうなるかわからない。中華圏が大きくなっていくことに対しては、どんな世界になっていくのか、ドキドキしますよね。

 

ー草野さんが生きやすい、多様度の高い世界になっていくかもしれませんね。

確かに、そうですね。私には日本人というアイディンティティもあるけど、アジア人というアイディンティティもあるし、グローバル・シティズンっていうアイディンティティもあります。

ブロックチェーンによって、新たな世界が到来したら「日本人だから、アジアだから」っていう固定観念は捨てた方が楽に生きられるかもしれない。

どんなアイデンティティを持っていても、自然と暮らせるような多様度の高い世界が来るといいですね。

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