規制か?イノベーションか? G20で議論された暗号資産の未来

2019.07.23 [火]

規制か?イノベーションか? G20で議論された暗号資産の未来

世界経済が抱える課題に一丸となって取り組まないと、永続的な経済成長は見込めません。

6月28日・29日に行われたG20大阪サミットでは各国の思惑が錯綜する中、「大阪首脳宣言」が採択されました。この宣言の中で暗号資産について「現時点でグローバル金融システムの安定に脅威をもたらしていないが、(中略)リスクに警戒を続ける」と否定的な表現がされています。

G20で議論されたことを整理しつつ、暗号資産への影響を考えてみましょう。

 

議論された4つのテーマは最新の経済テーマでもある

そもそもG20は2008年に起こった「リーマン・ショック」を契機とし、世界経済危機に対応するための緊急会合が格上げされたものです。

会合の対象となるG20の加盟国のGDPは全世界の約9割、人口比では全世界人口の3分の2を占めています。そのため、経済関連で日々のニュースでよく目にするキーワードが、サミットのテーマにも並んでいます。

以下の表に今回の大阪サミットで議論された4つのセッション・テーマを整理しました。順に見ていきましょう。

 

【G20大阪サミットで議論されたセッション・テーマ】

世界経済、貿易、投資

・国際貿易
・投資の公平な競争条件の確保
・WTO(世界貿易機関)の改革機運を政治的に後押しすべき

米中の貿易摩擦を意識したようにWTOの機能を改善する方針が打ち出されました。「紛争解決制度の機能」などの権限強化を目論んだWTO改革を進めていくと宣言されています。

WTOはそもそも、「世界貿易機関」といい、貿易に関する様々なルールを定めている機関です。米中貿易摩擦では、アメリカが紛争解決委員の選定を反対しているため、介入ができていないのが実情です。

実際にWTOの改革がどのように推し進められるかはまだわかりませんが、少なくともWTOの権限を強化しないと、貿易摩擦は解決に向かわず、摩擦が解決しなければ経済成長がいつか止まってしまいます。

 

イノベーション(デジタル経済・AI)

・データの自由な流通の考え方
・AI原則の重要性
・テロ行為やテロ行為に通ずるようなインターネットの悪用防止

ITの高度化が進むにつれ、より多くのデータが生まれ、活用されていくことになります。消費者とビジネスの信頼を強化して、データの自由な流通を促進する「Data Free Flow with Trust(DFFT)」がイノベーションのキーワードです。

自由な流通には、プライバシーや改ざん防止、知的財産権管理やセキュリティに関する課題があります。経済のデジタル化が進む中で、データの活用の仕方と、データを守る方法の両面を考える必要があることを再認識したといえるでしょう。

データの活用には「人工知能(AI)」が欠かせませんが、AIの人間中心の開発を目指す原則を宣言に含めています。人間中心とは、例えば「人間のよる最終的な意思決定の余地を残しておくこと」などです。

経済の電子化の観点では、課税税率が低い国への租税回避を防ぐ施策や、暗号資産に注目よるマネーロンダリング防止や、テロ資金供与の防止などが議論されています。

 

格差への対象、包摂的かつ持続可能な世界

・女性の労働参画や起業支援、女児教育支援
・包摂的かつ持続可能な世界の実現のための途上国の問題や、質の高いインフラ投資などの重要性

女性の教育や社会進出、包摂的で持続可能な世界の実現のための行動、質の高いインフラ投資の3つがキーワードです。

女性の教育や社会進出とインフラ投資はイメージが湧きやすいですが、「包摂的」「持続可能な世界」とはどういうことなのでしょうか。まず包摂的というのは、社会的に弱い立場のある人にもまんべんなく、社会の一員として支え合うこと。

例えば貧困のために金融サービスを受けられない人に、預金やローンのサービスを提供しようという考え方です。

持続可能な世界は、誰ひとりとして取り残されない世界を作るための目標を達成し続ける世界です。「SDGs」という言葉を聞いたことがありますか?

貧困や飢餓、性差別などを解決する17の目標があります。実際に被害がでている途上国だけでなく先進国も一丸となって取り組む目標です。この目標をかかげ持続可能な世界を維持することで、経済も成長し続けるといえるでしょう。

 

気候変動、環境、エネルギー

・海洋汚染やスペースデブリなどのごみ問題
・気候変動問題
・再生可能エネルギーの活用

環境汚染、異常気候問題への対処と、再生可能エネルギーの活用課題で、環境改善と経済成長の循環が重要です。

環境汚染は海洋汚染に加えて、宇宙汚染によるごみ問題にも言及しています。「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」というプラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにする目標や、宇宙汚染にたいして日本が率先して大型デブリ除去プロジェクトを進めている考えなどが議論されました。

参考資料:外務省/G20大阪サミット
(結果概要)https://g20.org/pdf/overview/jp/overview.pdf

 

 

とにかくマネーロンダリングとテロ資金供与を防止するための規制を求めている

冒頭で書いたようにサミットでは暗号資産に対する目線はネガティブでした。大阪首脳宣言では43項目の宣言がされていますが、暗号資産関連は2つ。金融システムを混乱させるもの、マネーロンダリングとテロ資金供与用の道具であるという解釈がされています。

規制か?イノベーションか? G20で議論された暗号資産の未来

国際的なマネーロンダリングやテロ資金供与対策のための会合が「FATF」。サミットではFATFが2019年2月に発表した勧告・解釈ノートを歓迎しています。

 

具体的には、1000ドルまたは1000ユーロ以上の暗号資産の送金を行なう時は、送り手と受け手のそれぞれが利用する仮想通貨交換所に、厳格な身元確認を要求しています。

正確な情報を補完することで、マネーロンダリングやテロ資金供与の疑いが発生したときに当局が利用できるようにすべきである。というように、送金に関わる人の個人情報を特定できるようにすべきという内容が含まれています。

 

暗号資産の仕組みの特性上、送り先のウォレットのアドレスが誰のものかを特定するのは難しいです。

もし、厳格な身元確認が必要となるならば、送り手となる業者が、送り先のウォレットアドレスを持つ人の本人確認を行なう必要があります。本来匿名であるはずのウォレットアドレスと、個人情報とを紐づけ、かつ、その個人情報が正しいかどうか検証するのはコストがかかります。業者によっては廃業を余儀なくされるでしょう。

 

また、「格差への対象,包摂的かつ持続可能な世界」の実現に暗号資産が活用できる可能性は高いといえます。中央管理者が不在でサービス構築できるのが暗号資産・ブロックチェーンの特徴だからです。

例えば、貧困層の人でもスマートフォンを持っていれば、金融サービスを利用できます。スマートフォンを分割払いで購入できない人でも、ブロックチェーン上で分割代金の管理を行ない、支払が滞ったら通信機能などを止めるといったように、より利用者の行動に合わせたサービスを提供することも可能となります。

 

まとめ

国際的な経済情勢が悪化しないように、どのような課題解決ができるかというポジティブ目線で話し合われていた中で、暗号資産だけがなぜかネガティブな方向にのみ議論されていたように思えます。

暗号資産が犯罪に使われていた事実があるのは致し方ないですが、既存の金融システムを混乱させるだけでデメリットしかないというのは、間違いでしょう。

G20サミットは、2020年にサウジアラビア、2021年にはイタリア、2022年にはインドでの開催が予定されていますが、金融ソリューションとしての暗号資産が前向きに議論されることを願います。

 

取材・文/久我吉史

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