コンピュータソフトウェアと著作権

2019.07.04 [木]

コンピュータソフトウェアと著作権

コンピュータソフトウェアを販売する場合その権利は著作権で保護されることがほとんどです。

現代ではこれを当然のこととして受け止めていますが、よく考えると当然とは言えません。

これには歴史的な、国家間の権力争いにより、このようになった経緯があります。

また後付けですが、人類が価値を認めるものが発明に代表される経済活動から、文化や芸術を体験、鑑賞することに移転しつつあることも関係しています。

知的活動について資産価値を認めるための権利を総称して知的財産権と呼びます。

その内容から説明していきます。

知的財産権とは?

以下にWikipediaの説明を引用します。

知的財産権(ちてきざいさんけん、英語:intellectual property rights)とは、著作物(著作権)や工業所有権などといった無体物について、その著作者などが、それに対する複製など多くの行為に関して(無体物であるにもかかわらず、あたかも有体物として財産としている、あるいは所有しているが如く)専有することができるという権利である。専門用語的な解釈としては専有権とされることもある。

その性質から、「知的創作物(産業上の創作・文化的な創作・生物資源における創作)」と「営業上の標識(商標・商号等の識別情報・イメージ等を含む商品形態)」および、「それ以外の営業上・技術上のノウハウなど、有用な情報」の3種類に大別される。(Wikipediaより)

上記のこの部分がこの記事のポイントです。

>「知的創作物(産業上の創作・文化的な創作・生物資源における創作)」

産業上の創作は発明を保護する特許権
文化的な創作を保護するのは著作権

をそれぞれ指していることになります。

コンピュータソフトウェアはどうみても巨大産業ですね。このビジネスの根本の権利を文化的な創作を保護する著作権で保護することは無理があります。

文化的な保護を目的とする法律で巨大産業の利益を保護していることになるからです。

別の観点では

コンピュータソフトウェアを特許でどの程度保護できるか?

という問題もあります。特許は発明を保護するための権利なので、以下の要件があります。

1.新規性:それまでに知られてない技術であること
2.進歩性:先行技術に基づいてその技術分野の専門家が容易に成し遂げることができたものではないこと
3.産業上利用可能性:特許法の目的が発明を保護することによる産業育成にあるからことからくる要件
4.先願主義:先に特許出願した発明者に特許権を与える主義、その発明を最初にしたかの証明は容易ではなく、また3.の産業利用の観点からも先に公開することが望ましいため

特許要件とコンピュータソフトウェア

コンピューターのソフトウェアはこの要件に当てはまる場合もありますが、発明と見なされるほどのものはごく少数になります。

当てはまる例としては、例えば、画期的に短時間で綺麗にできる洗濯機があるとして、その洗濯方法がコンピュータソフトウェアで表現され、それがその発明のポイントになっている場合を考え見ます。その場合はソフトも含めた洗濯機全般が発明と見なされるでしょう。その場合は全体に対して特許権が付与されるでしょうから、単体のソフトウェアについての特許権の是非は問われないで発明と見なされます。

ソフトウェア単体で発明と見なしてもらい特許を付与されることは、少なくとも著作物と見なされるより遥かにハードルが高いことになります。

著作権法が保護する著作物とは少なくとも伝統的には、鑑賞できる芸術物、文化物を対象としてきました。具体例としては絵画、音楽、小説、映画です。コンピュータソフトウェアは鑑賞物とは言えません。

なぜ、著作権で保護されるようになったのでしょう?

アメリカの特許戦略

アメリカは、1970年頃から、インフレ、失業者の増大、いわゆる双子の赤字、財政赤字と貿易赤字に苦しむようになりました。

先進国になってから40年もたつと必ずどの国も同様の状況になります。国が豊かになると、国民はハングリー精神や開拓精神を失い、人件費は新興国に比べて相対的に高くなり、産業競争力は低下して、国家的な危機を迎えることになります。

1970年代のアメリカにはその兆候が出てきました。1970年代終わりに、カーター大統領は、技術開発の促進による経済の再生を訴えました。

1980年にレーガン大統領が登場すると、「強いアメリカの再生」をスローガンに、積極的に特許政策をとってきました。

特許政策の目的は、アメリカ人労働者の人件費が高くなって、多くの製造業で日本をはじめとする他国(特にこの時期は強かった日本)にコストパフォーマンスで対抗できなくなった現状の打破を知的所有権による収益で補うことです。

技術開発力を発展させて知的財産権を主張できる製品を開発し、その技術を特許法や著作権法など知的財産権法を強化して国内で保護すると同時に、知的財産権法を世界各国に制定させ、輸出したアメリカ製品を特許で保護して、特許収入を得るというものです。

このような政策の中で、プログラムが著作物とされました。

アメリカは実質上コンピューターを発明した国です。IBMという強力なコンピューターメーカーやマイクロソフトのような強力なソフト企業のあるコンピューター産業先進国です。

自国の得意とするコンピューターソフトウェアを著作権で保護すると以下のメリットがあることをアメリカは理解して特許戦略(知的財産権戦略)をとってきました。

  • 特許権に比べて著作権による保護は、権利成立が簡単です。特許成立には厳しい要件が必要なことは先ほど述べました。
  • 著作権は保護期間が70年間、特許権は20年間の存続期間の上でも有利です。
  • 特許料のような維持費はいりません。
  • 一国で著作権が成立すると、同時にほぼ全世界の国でも保護が認められる利点があります。

アメリカの戦略上の都合から、コンピュータソフトウェアの成り立ちが著作物の条件にあてはまっていないとの諸外国の反対を押し切って、プログラムを著作権法で保護しました。

著作権で同様の保護をしない諸外国のコンピュータソフトウェアは、アメリカでは保護しないと宣言しました。このため日本は、1985年に著作権法を改正して、コンピュータソフトウェアを著作物であるとし、諸外国もこれに続きました。

ヤングレポートと先端技術保護

1985年には、先端科学技術分野における総合的な戦略を立案する通称「ヤングレポート」が発表されました。

「ヤングレポート」とは、アメリカのレーガン政権下の1985年に産業競争力委員会により提出された米国の産業競争力に関する提言報告書のことです。ヤングさんはヒューレットパッカードの社長も勤めたかたです。「ヤングレポート」によると米国の産業力の低下は製造業の競争力の低下にあるとされ、それらを改善するために「新しい技術の創造と実用化そして保護」、「資本コストの低減」、「人的資源の開発」、「通商政策の重視」が必要と提言されています。

「ヤングレポート」はアメリカの政策のバイブルとなりました。翌年、レーガン政権はヤング報告書に基づいて、次のような知的財産の保護強化政策を発表しました。①情報公開法を改正して、企業秘密の保護範囲を拡大する。②NASA等公的機関よりの外国人の情報入手を制限する。これらの措置により米国で研究した外国人の研究成果の持ち出しが著しく制限されることになりました。

この政策は、ブッシュ、クリントン大統領にも踏襲されました。その後「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」が成立しました。これは、WTO全加盟国に同協定の定める基準の知的財産権を保護する法律の制定を義務付け(協定一条)、コンピュータソフトウェアが文学的著作物として保護されること(同10条1号)、特許の対象は全ての産業分野の発明に与えられること(同27条1号)を明確にしました。

インターネットの発達で、世界が共通の情報網で結ばれた現在、コンピュータソフトウェアが文学的著作物(ベルヌ条約の適用される著作物)として国際的に認知され、著作権による保護が確立したことは、アメリカの世界戦略の成功を決定づけるものでした。

当時のマイクロソフトでの経験

筆者は、1989年から1996年までマイクロソフト社日本法人で働いておりました。当時はまるで、日本が税金をアメリカに収めるがごとく莫大な売上げとしてマイクロソフトに収めることに関わっていたのです。アジア全体のマイクロソフト製品の売上の大半(記憶が不確かですがたしか90%以上)は、なんと、マジメな日本が払っていたのです。

そして、それは、その後の日本のコンピューター産業に多大なネガティブの影響を与えることになりました。ただ、2019年現在においてこの著作権の利用方法をよくよく考えなおせば、私の目標『個人が活躍できる世界を作る』に活用できると思っております。次回以降の記事でそれを書いていきたいと思います。

 

参考文献

『著作権の考え方』 著者:岡本薫
岩波書店〈岩波新書 (新赤版) 869〉、2003年。ISBN 4-00-430869-0。

『著作権法概説』 著者:田村善之
有斐閣、1998年。ISBN 4-641-04473-2。

『知的財産に関する新たな国際的枠組の発足』 『ジュリスト』第1071号 著者:玉井克哉
有斐閣、1995年7月。

『著作権法入門 2007』 著者:文化庁
社団法人 著作権情報センター (CRIC)、2007年。ISBN 978-4-88526-057-5。

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