中国6万の産業圏をつなぐIoTシステム。約8000万円の費用を削減できるか

2019.07.05 [金]

中国6万の産業圏をつなぐIoTシステム。約8000万円の費用を削減できるか

中国全土には6万の産業園があり、何百社という企業が集まっている。この巨大な各産業圏の生産過剰問題を解決するには、約500万元(約8000万円)が必要だと言われている。

そこで産業圏をつなぐIoTシステムを開発したのが、上海千紙鶴物聯網有限公司だ。

上海千紙鶴物聯網有限公司の創始者であり、ブロックチェーン・IoT・クラウドテクノロジーという3つの分野に精通する姚建東氏と、その息子の姚之颖氏が、AIre VOICE編集長の大坂氏と対談。

ブロックチェーン技術をビジネスに活かすポイントや、社会主義国家である中国が抱える問題について伺った。

 

IoT×ブロックチェーンでビジネスの信頼性を向上

姚建東:IoTはクラウドコンピューティングの土台であり、IoTがなければクラウドコンピューティングもできません。

IoTとクラウドコンピューティングの大きな違いは、IoTのデータは設備から収集するのに対して、クラウドコンピューティングのデータはお金を支払って購入することです。

IoTのデータは一定のコンピュータロジックが作用して、端から端までデータが連鎖することで伝達されますが、単にデータが運ばれるだけで信頼性は保証されません。

IoTはデータを運ぶのと同時にエビデンスも提供しますから、将来的に信頼性を保証するのではないでしょうか。

 

大坂:信頼性をプラスするという点で、ブロックチェーンとの相性が良さそうです。

姚之颖:そうですね。ブロックチェーンはデータの改ざんを防ぎますが、データそのものの信頼性は保証できません。

最初からデータが間違っていた場合、改ざんを防いでも修正はできませんよね。データの流入元をコントロールすることで初めて信頼性を保証できるんです。

人力だとミスは避けられませんから、IoTのデータ収集を人ではなくコンピュータが行えば信頼できるようになるでしょう。工場の生産工程が自動化されて自動追跡が可能になり、信頼性が高まります。

中国6万の産業圏をつなぐIoTシステム。約8000万円の費用を削減できるか

姚建東:ブロックチェーンはうまく組み合わせて使うのがポイントです。私たちはブロックチェーン、クラウドテクノロジー、IoTの3つを兼ね備えていますから、コンテンツをシステムに入れ、クラウドコンピューティングによって合理性を検討し、IoTシステムによって物流を行うというように、独自のデータベースを中心に機能させられます。

しかし、ブロックチェーンはデータのアップデートまではサポートできません。そこは人に任せなければいけませんね。

姚之颖:なんでもブロックチェーンで自動化できるわけではないんです。たとえば、犯罪の証拠データをアップロードする場合は正確性を保証するために内容をチェックする必要がありますから、複数人が同時にデータ入力することはできません。データ入力の主導権は政府が握るでしょう。

 

大坂:ブロックチェーンは組み合わせと使い方が重要だと。ほかにもブロックチェーンで新しい付加価値を作れるポイントはありますか?

姚建東:サプライチェーン・ファイナンスのサポートです。

たとえば、資産所有権証明の改善。今はローンを申請するたびに不動産、銀行、公的機関などを歩き回って手続きしなければなりませんが、ブロックチェーン技術を活用すると、一回だけ審査結果をブロックチェーン上で記憶させれば2回目からは同じデータを流用できるようになります。

資産所有権証明の改善に加えて公務経費も節約でき、多くのコストや人的資源が削減できるでしょう。

 

大坂:それは便利ですね。導入課題はありますか?

姚建東:政府の協力です。どの国でも同じ課題を抱えていますが、中国は広大なので政府の力が強く、技術展開するには政府側の移行プロセスが求められます。

ブロックチェーン導入が実現すれば、遠く離れた人同士でも自宅から速やかに取引できて移動する必要がなくなりますから、国土が広い中国にとって大きなメリットがある。そこが理解されれば、積極的な協力を得られるのではないでしょうか。

中国6万の産業圏をつなぐIoTシステム。約8000万円の費用を削減できるか

約8000万円の経済効果が期待できるエンタープライズ・クラウド

大坂:こうしたお金の流動性向上が期待できる技術は、今のところブロックチェーンだけでしょうか。

姚建東:ブロックチェーン以外でサプライチェーン・ファイナンスを促進する方法は、今のところありませんね。

中国ではローン申請の審査に2ヶ月かかることもざらにあり、中国の中小企業にとって大きなネックになっていますが、ブロックチェーンとIoTが機能すればローン審査に10分もかからなくなるかもしれません。こうしたニーズもあってブロックチェーンは流行りつつありますし、普及すれば社会資源を節約できるようになるでしょう。

私たちも今後はエンタープライズ・クラウドに取り組むつもりです。

 

大坂:エンタープライズ・クラウドですか。運用やセキュリティ対策など、企業活動すべてに関連するシステムまで対応するサービスですね。
単に自社で用意した設備によるクラウドのサービス提供に留まらない点が強みですが、具体的には、エンタープライズ・クラウドをどのように活用するご予定ですか?

姚建東:複数の産業園をIoTシステムでつなげて、政府が管理しやすいようにサポートします。

現在、中国には6万を超える産業園があり、経済を発展させるために何百社という中国企業が集まって大規模な産業園を組んでいます。

そのほとんどが政府の支援を受けていますが、産業園が大きいため生産力が過剰になり、問題になっています。そこで複数の産業園をIoTシステムでつなげて管理しやすくする「パーククラウド」を大学と共同開発しました。

10年の月日と何億元もの資金をかけて作り上げた製品です。

 

大坂:それはかなり苦労なさいましたね。

姚建東:髪の毛も生えなくなったほど苦労しましたが、ビットコインよりも社会貢献する製品になったと自負しています。

特に製造業を進化させる技術サポートに長けているので、計り知れないビジネスチャンスを与えるでしょう。中国全土にある6万の各産業園をアップグレードさせるには、約500万元(約8000万円)が必要だと言われています。

この市場規模に対して効率的にアプローチできれば、かなり大きな経済効果が期待できるのではないでしょうか。

 

社会主義国家の中国は、民主主義的ブロックチェーンを受け入れられるか

大坂:ブロックチェーン技術の導入課題はありますか?

姚建東:中国人に中央集権的な固有観念があることです。

5000年前から中国は中央集権型政権の社会主義国家ですから、分散型で民主主義的なブロックチェーンの価値観は浸透にしくいかもしれません。反対に、アメリカなど欧米の民主主義国にとっては、道筋が通ったわかりやすいものでしょう。

 

大坂:なるほど。現状、ブロックチェーンに対する中国政府の姿勢はいかがでしょうか。

姚建東:クラウドコンピューティングは中央集権化をもたらす存在なので支持されていますが、ブロックチェーンは脱中心化、複数中心化をもたらすものですから、あまり支持されていません。

ブロックチェーンによって世界各国が連携するようになったら、現在パワーを持っているアメリカや中国の影響力は弱まります。

一方で、世界全体の利益は増大するでしょう。中国の社会構造に大きな影響を与えるでしょうから、政府も慎重になるでしょうね。

 

大坂:ブロックチェーンは、中国にとってプラスになるかマイナスになるかわからない存在だと。

姚建東:ええ。ブロックチェーンによってお金を稼げるようになる人もたくさんいるし、政府だって人件費をカットできる。

社会では複数中心的な分業が行われるようになるでしょう。平和的に共存できる世界になりますし、こうした点は中国にとってもメリットになるわけです。デメリットが大きいか、メリットが大きいかはまだわかりません。

 

大坂:実際に導入してみないとわからないですね。

姚建東:ただ、明日も中央テレビのインタビューを受ける予定があり、中国の主要メディアはブロックチェーン技術が社会に与える影響に関心を持つようになりました。

これは非常に良い徴候だと思います。一般消費者のブロックチェーンに対する理解が深まり、肯定的な捉え方をする風潮が生まれるのではないでしょうか。

 

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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