歴史と伝統の希薄化は日本に限ったことではない。4000年の歴史を持つ中国ですら、自国の文化に興味を持つ若者の数が減っている。
浙江求是魚管理有限公司の会長を務める甘露氏は、こうした現状に危機感を覚え、中国国学の継承に向けてビジネスを立ち上げた。
ブロックチェーンを活用したプラットフォームに識者を集め、活動の基盤としている。
今回、AIre VOICE編集長の大坂氏が甘露氏と対談。「ブロックチェーンで守るもの」と「ブロックチェーンで攻めるもの」の両方を伺った。
海外文化に塗り潰されつつある中国文化
大坂:本日はお時間いただきありがとうございます。さっそくですが、甘露さんの経歴と仕事内容について教えてください。
甘:中国建設銀行で8年間働き、2015年にIT企業を立ち上げて企業向けのソフトウェアやシステムの開発をしていましたが、2016年末に求是魚という会社を設立してブロックチェーン分野の投資に着手しました。
2018年には仮想通貨バブルが到来して仮想通貨の投資も多数行い、現在はブロックチェーンと従来の産業を組み合わせたビジネスを展開しています。
たとえば、中国国学のプラットフォームにブロックチェーンを組み込んだサービスの開発などです。
大坂:中国国学とブロックチェーンを組み合わせたビジネスを展開している会社が、共同代表を務めてらっしゃる浙江大道聖賢文化マスコミ有限公司ですね。なぜ中国国学に興味を持たれたのですか?
甘:現在の若者は海外文化に触れる機会が多く、中国国学に興味を持っている人はごくわずかです。
このままだと中国の文化が希薄になってしまうと危機感を覚え、中国国学文化を守り、継承する使命を感じるようになりました。
とはいえ、単に昔の文化を丸のみにして受け継ぐのではなく、正しい部分とそうでない部分を取捨選択しなければならない。
良くない部分を排除しないと、今の国民には受け入れられません。そこで、ブロックチェーンを通じて文化のイノベーションを起こしたいと考えています。
大坂:どうやってブロックチェーンと中国国学を融合させるのですか?
甘:中国国学に精通した中国医学や易経などの専門家を自社のプラットフォームに集め、そのプラットフォームを通じて、各人の研究成果を社会に発信していく仕組みを構築したいと考えています。
プラットフォームの収益はプラットフォームに貢献した人に還元し、公平で透明性のあるメカニズムを導入する予定です。
さらに、株の99%を先生や生徒が所有し、残りの1%を弊社が所有することで、プラットフォームを活性化させてすべての参加者が所有者になれるコミュニティを作っていきます。
大坂:なるほど、プラットフォームを基盤にすると。このプロジェクトはすでに進行していますか?
甘:2回ほどイベントを開き、国内の易経・中国国学関係者から多くの支持を得ています。
プラットフォームを通じて多くの成功事例を発信することで、10~20代の若者が中国国学に興味を持つきっかけを提供できるでしょう。
今年は十数人の事業主がクライアントになったので、企業向けの企画サービスを提供している段階です。文化教育業界への進出などを経て、2020年には飛躍的に発展させていきます。
ブロックチェーンは世界の流通スピードを加速させる
大坂:ブロックチェーンの魅力は何だと思われますか?
甘:効率的で安全性の高い情報伝達力です。ブロックチェーン技術は脱中心化された透明性のある安全な記帳技術ですが、ここ数年間大きな進化が見られませんでした。
仮想通貨と結び付けなければ、広く浸透することはなかったでしょう。一方で、ブロックチェーンはネットワークを通じてモノの価値を伝達する効果があります。
情報通信の効率が非常に高く、インターネット上のサービスで大いに活躍するポテンシャルを秘めています。たとえば、ブロックチェーンは情報の価値や所有権を確保したまま、情報をコピーして伝達することができます。
大坂:世界規模でブロックチェーンを展開すれば、インターネットを通じて資産や資本を自由に流通させられますね。ブロックチェーン上に記載されたデータを活用してアメリカの物件を日本で購入し、即時契約して所有権を得ることもできるようになります。
甘:弊社の事業は社会活動に関わるため、改ざんできないブロックチェーンの特性を活かして人と人の間に生まれる不信感を払しょくし、信頼関係を構築しやすいプラットフォームを創造したいとも考えています。
特に最近は社長が債務不履行を起こすなどの社会問題が多発しているので、ブロックチェーンの力で一般市民の権利を確保したいという気持ちもあります。
大坂:ブロックチェーンが信用を作るということですね。
甘:また、組織の形も大きく変わるのではないでしょうか。現在の会社組織は母体となる会社に個人が紐づく形で成り立っていますが、会社は母体ではなくなり、個人と個人の関係に転換していくと思います。
これはブロックチェーンの脱中心化によるもので、組織に限らず、プラットフォームに依存しないサプライチェーンが出来上がっていくでしょう。
大坂:AIについてはいかがでしょうか。
甘:将来的には、人工知能が人それぞれの特徴に応じてスケジューリングをしてくれるようになると思います。
たとえば「今日何をして、どのスマートカーに乗るか」といったことです。常に最適化したスケジューリングができ、より効率的に日常生活を送れるようになるのではないでしょうか。
AIre VOICEではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。
ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼