「放於利而行、多怨」(“もし自分の利益のためだけに行動すれば、人々の恨みを買うだろう”孔子『論語』里仁第四の十二)と、各国の取引所を運営するには現地政府や企業との協業がカギだと語るのは、世界最大級のデータ資産引取プラットフォームをもつHuobiの嘉伟COO。
今回、嘉伟COOとAIre VOICEの編集長大坂氏が対談。一時的に全世界の50%以上のデータ資産貿易額を占めていたこともあるグローバル企業として世界を視野に入れた協業の行く先について伺った。
取引所業務はセキュリティが最も重要
──本日はお時間いただきありがとうございました。まずは、グローバル企業として各国に取引所を設置されておられる御社について教えてください。
嘉伟COO:私たちは、世界130ヶ国以上に数百万のお客様にサービスを提供するデータ資産金融サービス会社です。
2013年の創業以来、一度も破られたことのない強固なセキュリティを保っています。2018年9月にはBitTrade(ビットトレード/仮想通貨交換業者 関東財務局第00007号)を傘下に入れ、フォビジャパン株式会社として日本でも仮想通貨の取引所を運営しています。
万が一の時に、投資家を守る保護基金を備えるなど、お客様が安心して安全にデータ資産を扱えるようなサービスの提供が売りです。
──世界で仮想通貨の取引所を展開している御社にトークン(企業通貨)を上場させたいと考えているところはたくさんあると思います。御社が上場の条件としている、トークンや会社の要件について教えてください。
嘉伟COO:私たちは指標に基づいて事業を評価し、高い評価を得たものが上場しています。
1 | 業界の問題点を解決し、価値をもたらすことができるかどうか。また、経済モデルに価値があるかどうか |
2 | 事業がスムーズに進んでいて、着実に行われているかどうか |
3 | チームの経歴がしっかりしているかどうか。チームの能力とこの事業が合っているかどうか |
4 | チームのリソースが十分かどうか、技術分野において十分な技術スキル、応用分野において十分な業界のリソースがあるか |
5 | どんな投資をしているか、一次資本に認められているかどうか、資本市場に認められているかどうか、ファンドに認められているかどうか |
6 | コミュニティ運営が完璧であるかどうか、コミュニティのメンバーに認められているかどうか |
7 | 事業の評価が妥当かどうか、 市場の動向と一致しているかどうか |
8 | トークンの割り当てが妥当かどうか、資金の調達、流れ、および在庫管理が合理的かどうか |
9 | 二次市場に認められているかどうか。もし二次市場に上場している場合、根付けが妥当かどうか |
10 | チームの資金調達能力がどのくらい強いか。もしそのチームがずっと二次市場に上場していない場合は、それが出来るかどうか |
この10の指標によって判断をしています。
──今お話いただいた10の指標は上場する時の要件でしたが、投資家やファンドはどのように投資先を選んだらよいと考えていらっしゃいますか?
嘉伟COO:一次市場であれば、投資先を選ぶ条件は上場要件と同じです。二次市場であれば、話は変わってきますが。
一次市場で私たちが設定している基準は他の取引所とも変わりないのではないかと思います。ですので、どこの取引所でも先程挙げた要件をクリアしていれば上場する確率も高くなるといえるでしょう。
──仮想通貨の取引所というのは、比較的新しい産業形態ですが、取引所の管理や運営において重要となるのはどんなものでしょうか?
嘉伟COO:最も難しいのは、“セキュリティ”です。取引所業務において最重要視しています。その次に規範の準拠・安定性・流動性・良質な資産が必要です。
どれがなくても取引所としてはよくない。ただ、Huobiでは仲介業も行って、取引業務と仲介業務それぞれが別のことに注意を払っていくことで、全体を動かしていますよ。
──日本には、自社の技術開発を最重要視しマーケティングにはあまり目を向けていない会社もあります。私は事業者側でもありますが、メディア側の人間でもあるので、マーケティングやブランディングも気になるのですが、仲介業務の中でマーケティングなどもやられているのでしょうか?それとも協力企業や広告会社に依頼されていますか?
嘉伟COO:マーケティングは、仲介業務のひとつとして扱っていてマーケティングチームもあります。
取引所業務では、セキュリティや技術、安定性を重要視し、仲介業では、マーケティングやブランディングに意識を向けるなど、業務によって注力するところを変えている形です。
例えば、仮想通貨の財布機能を果たすウォレットや通貨の新規発行を目指し報酬を分け合う集団であるマイニングプールについては、より研究開発や技術力強化に注力しています。一方で、日本のLINEのようなIM(インスタントメッセンジャー)などのリアルタイムコミュニケーションツールについてはマーケティングを重視して進めている、などです。
マーケティングチームは、ブランド展開や市場の開拓について企画し、新しい製品を作って市場に出していますよ。
専門分野以外の教育分野や研究開発分野では、他企業や大学と積極的に協力しています。メディア分野では、既存メディアと協力関係を結んでいますし、技術分野でもウォレットやIM、マイニングプールの3つは主に自社で対応していますが、協業している部分もあります。
今度、日本企業とも協力の機会があるのでよかったらご見学ください。
各国の政策や背景に合わせた戦略をもって協業を目指す
──先ほど、日本とも協力の機会があるとお話されておられましたが、日本の子会社での事業はこれからどう推進されるご予定ですか。
嘉伟COO:私たちは日本の事業展開をするうえで、金融庁の規制という難題に遭遇しました。規制が厳しくできることが限られている中で、現在2つの取組みをしています。
1つ目が、新しい貨幣を許可してもらえるよう金融庁に働きかけること。
取引所に資産がなければ、人間に血液がないようなもので、まずは資産運営の基礎を築かなければなりません。そのための第一歩と考えています。
2つ目は、日本の機関や企業と連携して、現地の強みを活かした取引所の共同運営です。
いずれにしても、金融庁が日本国内のデジタル通貨をもっと許可し、上場して取引されることを推進してほしいと願っています。
私たちも日本に取引所を持ち、事業を行っていますので、できればこうした活動を日本の関連機関・企業の方と一緒にやりたいですね。
──日本では、地域通貨を発行して持続可能なビジネスを作る資本の流通を推進すると同時に人々の消費行動を把握しよう、という動きも出てきています。ただ日本では、先ほど嘉伟COOもおっしゃっていたように、金融庁の規制が厳しく短期的には実現できなさそうではあるのですが、日本以外では何か動きがありそうですか?
嘉伟COO:例えば、アルゼンチン政府が自分たちで貨幣を発行して社会保障の問題を解決しようと取り組んでいますが、私たちがアルゼンチン政府に協力するなら、まず技術サポートを提供します。
私たちの技術サポートではうまくいかない場合は、数百いるパートナー企業に協力を要請しますね。
パートナー企業の技術力は非常に高いので、技術面については、協力する余地は世界にもまだたくさんあると思っています。それ以外の政治面や金融面については、それぞれの国の事情が異なるため難しいところではあります。
STOはブロックチェーンのナスダック
──少し話を戻して、法体制についての質問です。日本では、証券(セキュリティ)をトークンとしてブロックチェーン上に発行するSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)の企業上場についてまだ法律が整っていない状況です。
楊弁護士にお伺いしたいのですが、ブロックチェーンの発展において、今世界の先端を走っている中国では、STOに対して規制や法律などはどうなっていますか?
楊弁護士:STOに関しては、『証券に相当するトークンを発行する』ということになるので、適用する法律の大部分が証券法と非常によく似ています。
わかりやすく言えば、STOはブロックチェーンにおけるナスダックのようなものになりえるものです。世界各国の政策を見てみると、アメリカの政策は成熟していますが、中国を始め、日本やその他の多くの国ではまだ法律が未成熟な状態だといえます。
私たちも中国の規制緩和はまだまだ時間がかかると見ています。
──グローバルに見て今後はどうされるご予定でしょうか?
楊弁護士:アメリカ、ヨーロッパ、シンガポール、香港では、規制が緩和されることが予想される政策がいくつか出ていて、タイや台湾では実質緩和されてきています。
こうした世界の国々の政策をチェックし、規制が緩和されるところを狙い優先的に戦略を立てていますよ。日本でもいくつか協業パートナーを探しています。
(後編へ続く)
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ライター/土屋菜々 編集/YOSCA 撮影/倉持涼