ブロックチェーンと著作権 #1

2019.06.28 [金]

ブロックチェーンと著作権 #1

筆者(中村 KUMA 真人)は『個人が活躍できる世界を作ること』を目標としています。

そのために、個人が自分で作ったコンテンツの著作権で収益を得られる世界を作れる方法を調べています。
著作権がトークン化されたら、私が2018年後半から月一回講演しているSTO(Security Token Offering 有価証券のトークン化)にも似た資産価値を生じる可能性を想像できます。

STOだと、自分で上場しない限りは、まず誰かの有価証券としてのトークンを買い、その値上がりを期待することになるのに対して、自分で作ったコンテンツが著作権を得て資産価値を持てば、元手は自分の手間だけで、0から資産を持てる可能性を作れることに夢があります。

著作権の管理、メンテナンスをブロックチェーンで行えれば極めて相性がよく、管理が容易なだけでなく、新しい著作権を生み出すのにも絶大な効果を産みだすであろうと、私は予想しています。

しかし、ブロックチェーンと著作権を同時に説明するのは両方とも単純な概念ではないので少し無理があります。

そのため、この記事ではまず著作権を説明させてもらいます。

著作権の歴史的経緯

著作権の歴史はヨハネス・グーテンベルクによる活版印刷機の発明によって印刷物が大量生産できるようになって生まれた権利とされています。(出典:藤野仁三、鈴木公明『グローバル経営を推進する知財戦略の教科書』)

ブロックチェーンの説明でもグーテンベルクはしばしば取り上げられています。

それは、グーテンベルクの活版印刷により印刷革命が始まり、それにより、人類の情報の共有がより遥かに簡単になったことです。

それまでは聖書ですら手で書き写すしかありませんでした。コピーに制限を加えなくてもその書き写す労力が膨大なため、著作権(英語だとCopy Rightコピーする権利)として保護する必要がありませんでした。

“情報を正確かつ大量にコピーする技術”ができたことで、書作権(コピーする権利)という概念ができたのです。

著作物(著作権の対象)の日本の法律による定義

法律によって著作物の定義を行っている国は日本など少数の国に限られています。(出典「著作権特殊講義 日本音楽著作権協会(JASRAC)寄附講座 2003年度」成蹊大学法学部、2004年45頁)

日本の著作権法の定義を見ることで著作物を理解していきます。(諸外国の多くでは著作物を法的に定義しないでどのように対応しているかという疑問はここでは割愛させてもらいます。)

著作物は、日本の著作権法で、

「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項1号)と定義されています。

個別の用語の意味を考えてみます。

「思想又は感情」

思想(しそう、英: thought)は、人間が自分自身および自分の周囲について、あるいは自分が感じ思考できるものごとについて抱く、あるまとまった考えのことである。(Wikipediaより)

感情(かんじょう)とは、ヒトなどの動物がものごとや対象に対して抱く気持ちのこと。喜び、悲しみ、怒り、諦め、驚き、嫌悪、恐怖などがある。(Wikipediaより)

これらから、著作物は人の内面に根差したものを対象としていることになります。

逆に言えば、今日の最高気温は20度でしたというような、科学の対象となる客観的なデータや事実は対象にならず、妄想のほうが対象になりやすいということになります。

「創作的」

創作的とは、以下の創作の意味の傾向を有していることになります。

創作(そうさく)それまでに無かったものを新たにつくり出すこと

用例として「新式の工具を―する」(Wikipediaより)

人が思いつかない嘘は、独創的なので創作的と見なされるのでしょう。

逆に、自分では創作だと思っても、多くの人が同様のことを想像できる場合は、創作と見なされないのでしょう。

独創性に新規性、芸術性がある必要はなく、要件を満たし、表現者の個性が現れていれば、うまい・ヘタも関係ありません。幼稚園児の絵でも対象物と見なされていることからわかります。

「表現したもの」

表現(ひょうげん)とは、自分の感情や思想・意志などを形として残したり、態度や言語で示したりすることである。 (Wikipediaより)

表現されている必要があり、アイデアや頭の中で想像しただけでは著作物と見なされません。

見なされる例として、レシピはアイデアなので、著作物ではありません。

ただし、そのレシピを解説した料理本は表現物なので著作物とみなされると言う説明がされています。

コンピューターグラフィックスや、VR(バーチャルリアリティー)での表現が可能となった現代では、最新の判例も見ないと不明な部分がある様にも思われます。クリエイターとしては、他人に見てもらえる表現物になっているかを意識しておくことが大切でしょう。

「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」

この条件により、工業製品などが除外されます。工業製品の知的所有権は特許法等の工業所有権法で保護されます。

誰でも著作物自体はつくれることになります。保育園児でも一般人でも、誰が作ったものでも著作物の定義に該当すれば著作物ですし、アーティストや作家などのプロが創作したものでも著作物の定義に該当しなければ著作物ではなく、著作権法では保護されません。法の意味からすると当然ですが、一般的に芸術性や専門性が高くないといけないという誤解が多いようなので説明しました。

著作権法の条文だけでは明確に判別できないものは裁判で”著作物性”について争われます

著作物であっても、著作権法で保護されるのは、法人、個人を問わず日本国民が日本において発行した著作物、または条約により保護の義務を負う著作物、とされています。この条約により著昨年保護条約に加盟している国では即座に、かつ自動的に著作権が法的効力を持ちます。著作権に国境はないという考えに基づいています。(ベルヌ条約、万国著作権条約)

ここまできて、特許等の発明についての知的所有権とは非常に性格の異なる権利であることがわかります。

工業所有権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)の監督官庁は経済産業省 特許庁です。経済の発展を目的とした権利を付与するための法律です。

それに対して著作権は文化庁が監督官庁となっています。元々は文化の保護の目的の範疇に入る権利を付与するための法律でした。

それが現代で大きな違和感を覚えるのは、世界最大の会社の一つであるマイクロソフト社も含め、コンピューターソフトウェアの著作権を主な収入源として発展してきた巨大IT産業があるからです。

文化の保護が目的だったはずの著作権ですが、なぜかコンピューターのソフトウェアも著作物と見なすことになっています。

それによりコンピューターのソフトウェア産業は莫大な利益を得られるビジネスになりました。

このような不自然な状況が生まれてきたのには、明確で興味深い理由と歴史があります。それについては次回の記事で書かせてもらいます。

撮影/倉持涼

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