ビットコインのために最初のブロックチェーンが考案、実装されて、その後ずっと稼働しているので、ビットコインのブロックチェーンが一番歴史の長い、実績のあるブロックチェーンとなっています。
ビットコインとブロックチェーンはイコールでないという説明がよくされています。それも事実ですが、ビットコインのブロックチェーンこそ、当初の理想通りオープン(パブリック型で)運用され一番実績のあるブロックチェーンなので、ブロックチェーンの生きた歴史そのものになっています。
そのため、ビットコインの歴史(そのブロックチェーンの歴史)を見ることはブロックチェーン自体への理解を助けます。
Bitcoin(2008.10.31) 論文 Satoshi Nakamoto
リーマンショックにより、株価が暴落し約90日かけて底を打った時を狙いすましたかのように、このビットコインの論文は発表されているのです。
この論文を作った人物は今も不明のままだが、既存技術を組み合わせて画期的なことを作り出した技術の天才というだけでなく、経済問題を知り尽くしています。
リーマン・ショックは、2008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングス(Lehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した事象を総括的に呼んだものです。
論文のページ数はわずか10ページほどですが、内容が考え尽くされたアイデアの集合体のような論文なので、このタイミングにあわせて突然作られたとは考えにくいです。
ですから、この論文はこの経済的大ピンチを迎えるタイミングまで発表を待っていたと考えるのが自然に思えます。
ビットコインの論文発表をこの時期にした理由
それはこの論文に共鳴して熱狂的な協力者を多く期待できるタイミングを狙っていたのかもしれません。
現にビットコインの論文で最初に参照論文として掲載されている。b-money の論文のW.Dai氏は
[W.Dai,”b-money,” http://www.weidai.com/bmoney.txt]
「ビットコインで一番驚いたのは熱狂的な支持者がたくさん出てきたことだ。」
と述べています。B-money自体が、ビットコインが一番に参照しているほどの先進的なアイデアを含んでいました。
ひょっとするとその普及には初期に熱狂的な支持者を集めることが必須事項であることを理解して狙って、ビットコインの論文はこのタイミングで提出されていたのかもしれません。
仮にそうでないとしてもSatoshi Nakamotoは、このタイミングが、既存の資本主義の大きな転換点であることを理解していたと思われます。
大袈裟に思われるかもしれませんが、その後の経済発展は、各国中央銀行による法定通貨の際限のない大量発行に依存する部分が多いのです。
日本円のマネタリーベース(通貨発行量)はリーマンショック後、約5倍になっていることが日銀のデータからわかります。本来の価値は希少でないと維持できないものなので、実は法定通貨の価値は、少なくともリーマンショックより、かなり怪しいものになっています。
将来、今の資本主義の精度が大きく変更を迫られることになった場合、現在のシステムへの歴史的転換点はリーマンショックの時点であったと、あとから見なされる可能性が高いです。
ビットコインはそのタイミングをねらって発表されたのです。
Bitcoin genesis block(2009.1.3)
最初のブロックがこの日に作られ、それから10分に一個の新しいブロックが作られることが、継続されている。一番実績のあるブロックチェーンとなっている。(2019年4月25日現在)
このときも、Satoshi Nakamotoは神がかった聡明さをもってあることを行っています。
ブロックチェーン最初のブロック、ジェネシスブロックには以下の2009年1月3日のイギリスのTimes紙という新聞の記事がSatoshi Nakamotoにより刻まれています。
「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for bank」
日本語にするとこのような内容です。
「イギリスの財務大臣が二度目の銀行救済の瀬戸際にいる」
これも、現行の資本主義の歴史的転換点を表現しているかのような記事です。
日本でも、大手金融機関の多くが不良債権(回収できない超大型借用証書のようなもの)を抱えて、危機を迎えていました。
結果的に多くの金融機関は公的資金を注入し延命されたのですが、これは資本主義が公平なものでないことを、公的に認めたことにもなります。
大手金融機関をつぶしてしまうと、リーマンショックのような大問題を引き起こすので救済せざるをえないという側面があります。
ところが、救済された金融機関にいる人達の多くは、自分たちの失敗を帳消しにしてもらって、また高給を得ることができてきました。
また、金融機関から融資を受けてきた企業は、強引な融資の回収により、危機を迎え、リストラによって失業者も増えました。
このような不公平意を容認する救済の上に今の資本主義と金融システムはなりたっていること、その端緒となる、公的資金による金融機関支援の記事をビットコインのブロックチェーンの最初のブロックに刻んできたことの意味は語り継がれる神話になるほど深いです。
Satoshi Nakamotoを想像する
以上のことから想像できることは、Satoshi Nakamotoはエンジニアとして天才的であっただけでなく、それを上回る経済通であること。
さらにそれすら上回る思想家・本物の哲学者としての側面があったであろうことなのです。
だからこそ、人でなくネットワークに信用、信頼が累積的に蓄積・構築されていくブロックチェーン(彼は論文の中でこの言葉を使ってないのだが)と呼ばれるシステムを考案しそれによってやりとりされる価値媒体であるビットコインを作ることへの熱狂的な欲望を持ったのではないかと。
人間がより平等で公平であるべきものならば、資本主義の仕組みが、その信頼(Trust)が一部の人たちに握られるべきでない。
だから少数の人達の信頼に依存しない、より民主的で公平な信頼がネットワーク上に蓄積されるシステム(Trustlessブロックチェーンに関わる人はこの言葉をよく使います)を構築することを夢見ていて、こういうものをつくりだせたのではないかと。
撮影/倉持涼