「中国のゲーム業界では、プロバイダーへの賃金滞納が深刻な問題になっている」と述べるのは、大手ブロックチェーンゲームを開発するTonArtsの宋阳氏だ。
宋阳氏は、ブロックチェーンゲームの可能性に魅せられて多くのブロックチェーンゲームを生み出している。
今回、AIre VOICE編集長の大坂氏が宋阳氏と対談した。
後編では、仮想通貨の価値を跳ね上げ、一般消費者へダイレクトにアプローチできるゲームの影響力や、ゲーム業界を健全化するための解決策について伺う。
ゲームが仮想通貨「イーサリアム」の起爆剤に
大坂:トークンや仮想通貨、暗号資産などは今後どうなっていくでしょうか?
宋:利益の分配メカニズムや暗号化技術を持ったブロックチェーンは、必ずトレンドになるでしょう。
現在の中国ではブロックチェーンがまだ普及していませんが、技術と文化を融合させれば浸透すると思います。たとえば、ブロックチェーンゲーム「CryptoKitties」は仮想通貨「イーサリアム」で猫を購入するため、流行してからはイーサリアムの認知度が上がり、ユーザ数も増えました。
「CryptoKitties」はイーサリアムが受け入れられる土壌を作ったのです。このことからも、ゲームにはブロックチェーンの普及させる力があることがわかります。
大坂:ゲームであれば、自然にブロックチェーンを普及させられそうですね。
宋:ゲームは一般消費者がブロックチェーンを知るきっかけになります。あと、政策や法律の変化も重要です。
ゲームの規約は可否がはっきりしているのでわかりやすいですが、政策や法律はまだ不明瞭な部分があり、発展の足かせになっています。
今はできることとできないことを分けて、できることに注力すべき時期です。政策・法律面の監督が完備されれば、ブロックチェーンが普及するでしょう。
大坂:今までの政策はブロックチェーンの普及の後押しになりましたか?
宋:なりました。コピー(模倣)の道を歩んできた中国は、すでに他人が持っているもの、他人が検証に成功したものをやり続ける傾向がありますが、今は暗号化市場で新しいものを生み出そうと模索しています。
これからは模倣サービスではなく独自のサービスを生み出せるようになるのではないでしょうか。こうした動きを政府もサポートしています。
大坂:国力につながりますね。最近は中国のペイメントサービスの発展が著しい印象があります。
宋:特に杭州での発展が早いです。杭州は中国の科学技術の基盤で、ブロックチェーン分野を完全に支持しています。
杭州には網易、アリババなどの大手会社があり、高い科学技術とイノベーション文化があるんです。科学技術への理解が深く、杭州政府のサポートも厚いですね。
スマートコントラクトでゲーム業界を健全化
大坂:お互いに代替することができないトークン「NFT(Non-Fungible Token)」についての見解をお聞かせください。
宋:NFTは素晴らしい技術だと思います。トークンに似ていますが、付加価値をつけられる点が優れていますね。
トークンがお金だったらNFTは道具みたいなもので、ゲームを含め多様なニーズに対応できます。
将来的には、NFTはごくわずかの個人や機構に発行権利を握られているトークンを超える存在になるでしょう。
大坂:NFTはトークンに固有の値を持たせ、特定の値に希少性があるように調整できますから、ブロックチェーンゲーム「CryptoKitties」でも活用されていますね。ところで、中国のゲーム業界に課題はありますか?
宋:ゲーム業界では、コンテント プロバイダー(Content Provider)への賃金滞納が問題になっています。
ゲームで1億元の売り上げを出した場合、ゲームの製作チームへ3000万元を分配するべきだとします。
そこでゲーム発行側が利益の分配を一年引き延ばしても、制作チーム側はどうしようもないんです。
賃金滞納現象はサプライチェーンでは頻発していてしょうがない部分もありますが、やはり問題ですよね。これを解決するために重要なのがスマートコントラクトではないかと。
大坂:スマートコントラクトで双方を制約するということですね。はじめから利益分配の方法をコントラクトの形式でチェーンに書き込み、あとで直接実行されるようにすれば、賃金滞納が発生しなくなる、と。
宋:そうです。ゲームのリリース後に儲けた利益はゲームの発行側が握っていますから、発行側がゲームのコンテント プロバイダーに分配していますが、スマートコントラクトがあれば自動的に分配でき、余計な確認や待ち時間が要らなくなります。
これにより法律面の審査も不要になるため、法務コストが削減できます。
ビジネスを展開しやすい環境を選ぶべき
大坂:ブロックチェーンと仮想通貨には、どんなことを期待していますか?
宋:より多くの人々からブロックチェーンの概念が受け入れられるようになり、仮想通貨の価値が向上することを期待しています。
去年はブロックチェーン市場が冷え込み、みんなブロックチェーンのことを避けていましたが、これは本当にもったいない状況です。
技術面では基礎建設に力を入れて、暗号化技術の強化、暗号通貨の応用ができるようになってほしいですね。こうした基盤ができれば、良質なサービスが生まれると思います。
大坂:中国の取引所についてはどう考えていますか?
宋:現在は取引が混乱しているので、監督が必要だと思います。
幅広い分野で応用できる暗号化技術とブロックチェーンが、このような小さな混乱で誤解されてしまうのはもったいない。
仮想通貨の取引には政策や監督を完備させるべきでしょう。
大坂:なるほど。最近は中国の取引所が国外に移っていますよね。こうした傾向についてどう思われますか。
宋:中国政府の政策はまだ不明瞭なので、会社を国外に移すことは賢明な判断だと思います。
企業は生き残る土壌を見つけなければなりませんから。極論「どの国で仕事をするか」は重要ではなく、しっかりと基礎建設をして対応力を身につけ、一般消費者の生活を向上させようとする姿勢が最も大切なのではないでしょうか。
大坂:仰るとおりですね。本日はおもしろいお話をありがとうございました。
AIre VOICEではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。
ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼