古いしきたりが染みついているアナログな業界は、若者が出世しにくい。
シンガポールのブロックチェーン財団法人Gemark Networkの創業者である劉昱氏は「そんな悪習をブロックチェーンが打開するかもしれない」と述べる。
顧客数・取引量ともに世界トップクラスの取引所であり、世界No.1の金融サプライチェーンを目指す「Huobi」の開発リーダーも務めた劉昱氏に、中国のITエンジニア事情や、ブロックチェーン技術を社会に浸透させる際の課題を伺った。
ほとんどのITエンジニアがブロックチェーン知識を持つ中国
大坂:本日はお忙しいところありがとうございます。まず劉さんのお仕事についてお伺いできますか?
劉:シンガポールのブロックチェーン財団法人「Gemark Network」を立ち上げ、ブロックチェーン保管などの業務を展開しています。
2013年に創業した世界トップクラスの取引所「Huobi」におけるサプライチェーン(製造から物流までの流れ)の開発リーダーも務めており、去年からサプライチェーンのプロジェクトをスタートしました。
上海趣派科技のCEOにも任命され、インターネット企業に向けて技術サポートをしています。
大坂:「Huobi」は日本でも有名です。130か国以上展開していて、顧客数・取引量ともに世界トップクラスの取引所ですよね。
劉:「Huobi」は去年から世界No.1の金融サプライチェーンを目指しています。
私たちがサプライチェーンの開発担当になった理由は、「Huobi」コミュニティ内での選抜コンテストで優勝したからです。
企業や個人に向けて、資産所有権証明・流通・公証などに活用できるサプライチェーンを開発します。
大坂:「Huobi」コミュニティ内での選抜コンテストには、何人が参加なさったんですか?
劉:数百人程度参加していました。チームのメンバーは、公信宝(GXChain)の創立者である黄敏强さん、天风证券(TF SECURITIES)のブロックチェーン研究総監を務める徐坤さん、マクドナルド中国のデータ知能官である蔡栋さん、必达基金(Bida Holding Group)社長の沙溢伟さんと私です。
実際にはそれぞれの会社やチームも協力しているので、もっと大人数で取り組んでいるのですが。「Huobi」サプライチェーンの開発要求に応じて各社で工数や担当分野を調整しながら進めていきました。
大坂:なるほど。劉さんは、これまでどんなお仕事をなさっていたのですか。
劉:新卒の時にシリコンバレーでソフトウェアエンジニアを務めながら、テクノロジー企業を創立しました。
2015年に創立した会社の事業でブロックチェーン業界に参入し、翌2016年に上海へ戻ってブロックチェーン技術の開発を始めました。
2017年にシンガポールでブロックチェーン財団法人「Gemark Network」を設立したという流れです。
「Huobi」のサプライチェーンは2018年9月からスタートしたので、合算すると4年ほどブロックチェーン業界で仕事をしていますね。
大坂:現在の主要業務は何でしょうか?
劉:趣派科技という会社で、ブロックチェーン基盤技術の開発業務を行っています。
4~5年間、ビットコインにおけるコンセンサスアルゴリズムの開発などを経験し、国有企業資産の移転やインターネットマーケティング会社のデータ暗号化といった業務にも注力していますね。
シンガポールの非営利財団「Genaro」のサプライチェーンも開発し、2018年12月に公開しました。非営利組織なのでオープンソースにしています。
大坂:人材についてもお聞きしたいのですが、日本にはブロックチェーンを開発できる人材がほとんどおらず、開発を進めるのがとても大変です。大手の人材紹介サイトに求人を出しても、ひとりも採用できないのが悩みでして。
劉:ブロックチェーン業界の人気が高く、優秀な人材は他社からスカウトされているのではないでしょうか。
大坂:いえ、日本だとほとんどの人はブロックチェーンのことを知らないんです。仮想通貨やビットコインのことは知っているのですが。中国はいかがですか?
劉:中国だと、ITエンジニアの多くがブロックチェーン技術について理解しています。
ただブロックチェーン技術そのものはまだ初期段階にあり、発展の余地が残されていますね。以前サンフランシスコ・ベイエリアに住んでいたのですが、そこではブロックチェーン業界が活気づいていました。
古い慣習が残る業界を若者が働きやすい業界に
大坂:劉さんは個人と会社の両方で活躍なさっていますが、ブロックチェーンに対してどんなビジョンを持っていらっしゃいますか。
劉:個人としては、ブロックチェーン業界における最先端技術の開発者として一人前になり、先陣を切って活躍したいと思っています。
製造業や不動産業などのレガシーな業界だと古いしきたりが染みついていて、若者が出世しにくい点が課題です。
インターネットやブロックチェーンの技術を用いることで効率化したり風通しを良くしたりでき、若者も活躍しやすい業界にアップデートできるのではないでしょうか。
大坂:確かに、やり方が時代に合っていないと若い世代は働きにくいですね。会社としてはどんなビジョンがありますか?
劉:ブロックチェーン技術をだれでも使いやすいサービスにして、世の中に送り出すことが目標です。
ブロックチェーン技術は10年ほど前から進化し続けており、私も5年以上携わっていますが、いまだに衣食住や交通など、一般人の日常生活には浸透していません。
なぜかと言うと、いまだにブロックチェーン技術を使用するのが難しいからです。
大坂:というと?
劉:一般人は自分のプライベートキーすら把握・管理できない状況にあります。
ブロックチェーン技術の仕組みがわからないから、自分でコントロールできないんですね。
インターネットが普及しだした頃も、一般人は「インターネットとは何か」がよくわかっていない状態でしたが、それと同じような状況です。
そのため、弊社はブロックチェーンの基盤となる技術を進化させながら、いち早く人々の日常生活をサポートできる状態にまで浸透させたいと考えています。
(後編へ続く)
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼