台湾のエリートが集う台湾大学には、国内大学初のブロックチェーン委員会がある。
台湾学生以外の学生もいれば、社会人もいるハイレベルな団体だ。台湾の政界で活躍する議員が足しげく訪れ、学生たちに相談しながら提言書を製作し、政策に反映している。ブロックチェーン業界をけん引する企業を招待してディスカッションを行ったり、ブロックチェーン技術を広める講義を開催したりと活動内容は多岐にわたる。
今回、AIre VOICE編集長が台湾大学ブロックチェーン研究会のメンバーと対談し、政策にまで影響を与える学生たちの取り組みや、これからテクノロジー業界で活躍する人材像について伺った。
議員が意見を仰ぐ。大学の部活動が政策に影響を与えた
大坂:台湾大学ブロックチェーン研究会はいつ設立されたのでしょうか。
Leo:2018年2月です。国内大学初のブロックチェーン委員会で、設立当時から私が指導しています。
メンバーには技術関係の学部生だけでなく、昆虫学などさまざまな学部生がいて、ブロックチェーンに興味があればだれでも受け入れています。台湾大学以外の学生もいますし、メンバーの4割は社会人と間口が広いのも特徴ですね。
大坂:社会人も在籍しているんですね。設立の背景について教えてください。
Leo:台湾大学にはブロックチェーンに興味を持っている学生が一定数いたのですが、別々で研究を行っていたので「せっかくならチームを作って、ブロックチェーン本来の価値を世間に発信しよう」と考えて設立に至りました。
まだブロックチェーンは投資目的に使われる、といったネガティブなイメージが強く残っているので、こうしたイメージを改善したいという思いもあります。
大坂:実際にはどんな取り組みをなさっていますか。
Chelsea:今学期からは、ブロックチェーンの知識が一切ない人に対してブロックチェーンや仮想通貨の講義を行っています。
講義の特徴は、最後に自分で操作してブロックチェーン技術を体験することです。
たとえばウォレットの分け方や送金の仕方、買い方や売り方などをレクチャーし、実践します。反響も良く、50~60人が参加していますね。
教授:講師は研究所のメンバーで、学内で開催しています。
あるメンバーはまだ高校1年生なのですが、小学校6年生からビットコイン売買でお金を稼いでいて、中学3年生の時に教授に「いっしょに取引所を作りましょう」と提案し、今では4人もエンジニアを雇って活動しています。
必ずしも台湾大学の学生が講師になるわけではなく、彼のようにずば抜けた能力や知識を持つメンバーが講義を行います。
大坂:それはおもしろい取り組みですね。
Leo:ほかにも、ゲストスピーカーを招いたディスカッションを定期的に行っています。
ゲストスピーカーが来た時は、必ず質疑応答時間を30分以上設けます。学生は豊富な知識を持っているので、おかしいと思ったらどんどん質問していて、ゲストスピーカーのほうが緊張しているくらいです。今年に入ってからは法律面の研究をしていて、どうしたらもっと台湾のブロックチェーンが発展していくかを議論していますね。先週は金融庁の方を招き、ディスカッションしました。
大坂:ゲストスピーカーの方はどんな話をするのですか?
Leo:与党の議員さんが来た時は、新しい提案をする時にどんな問題があったかを具体的に教えてもらいました。
野党や与党からどんな意見が来るか、というようなことです。そこから新しい技術の予算を得るためにどう国会に提案するべきかを話し合いました。
議員さんの「金融業界での情報交換をブロックチェーンで行えるのではないか」という提案に対して、学生たちが「技術的にこういう問題が起きる」と指摘してフィードバックし、それが政策に活かされたこともあります。
大坂:実際に政策に反映されることがあるんですね。
Leo:あります。議員さんも学会は大事なコネクションだと考えていますし、台湾大学は国内一の大学ということもあってOB/OG議員も多く、深い関係性を築いていますよ。
若手がキャリアアップしやすいブロックチェーン業界
大坂:教授はブロックチェーン開発をなさっていますが、研究会も開発に関わっているのですか?
教授:現状はつながっていませんが、開発には人件費がかかるので、学生の協力も得られたらと考えています。
主要業務を担うエンジニア以外は、技術力よりブロックチェーンを信じているかが大事なので、今後はブロックチェーン研究に熱心な学生に協力してもらい、ブロックチェーン推進の肝は「技術・管理・法律」これら3つの知識を持つ学生は戦力になると思います。
大坂:台湾大学以外からも学生が集まっているんですよね。
Leo:ええ、約10の大学から学生が集まっています。
大学を統合するのは難しいですが、学生のクラブを統合するのは簡単です。大学ごとに違いがあるので、それぞれの学生が集まることで複数の強みが重なって相乗効果を発揮し、強いチームを作れると思います。
大坂:ブロックチェーン業界を志望する学生は多いですか?
Leo:正確な人数はわかりませんが、大学の企業説明会に訪れるブロックチェーン企業は増えてきました。
やはりブロックチェーン業界は人材不足で、企業から「こういう学生はいませんか?」と声をかけられることが多いですね。
ブロックチェーン業界に入りたい学生は大体この研究会に入りますし、主要幹部はブロックチェーン関係の会社に入社しているので、企業とのパイプがあります。
大坂:弊社もなかなか人が採用できず困っています。特にマーケティングに強い人材がいないですね。育てる必要性も感じています。
Leo:人材不足は世界共通ですね。私たちも、台湾の銀行からブロックチェーン研修を依頼されることが多いです。
ブロックチェーンは新しい業界なので、1~2年の経験があるだけでも取り合いになります。どんどんキャリアアップしたい学生は、ブロックチェーン業界に目を向けると良いかもしれません。
大坂:最後に、日本の学生へメッセージをいただけませんか。
Leo:ブロックチェーンを用いて成果を出すには時間がかかりますが、ひとたび成果が出ればあらゆる業界でブロックチェーンが活用されるようになります。
ブロックチェーンやビットコインが誕生した理由は、金融危機を受けて「世界中の富が平均的に行き渡り、みんなが安心して暮らせる社会を作りたい」という思想が強まったから。
現在は経済格差や情報格差がありますが、ブロックチェーンを活用すればもっと社会を良くできるはずです。そういう可能性についてもっと知ってほしいし、より良い社会の実現を目指して行動してほしいですね。私たちも政界に影響を与えられるチームとして、未来の活躍人材を育てていきます。
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼