ネットサービスや金融サービスを使う時、一般消費者は個人情報を登録して企業のサービスを利用する。
当たり前で疑問に思わないかもしれないが、これは個人が何かに依存している状態だ。自分の個人情報は、はたして誰のものなのか。
ブロックチェーンを活用してサーバーを通さず個人デバイス間でデータをやり取りできる技術を開発した台湾・ioeX社CEOのAryan Hung氏は「企業や組織を介することなく、個人が直接サービスを利用できるようになる」と述べる。
今回、AIre VOICE編集長の大坂氏がAryan Hung氏と対談し、ブロックチェーンやIoTシステムが一般消費者にもたらす恩恵について伺った。
IoTシステムで個人のデバイス同士がつながる
大坂:ioeXのシステムを使うメリットは何でしょうか?
Aryan Hung:大きく2つあり、まずはどこにいても個人のデバイスを操作できるようになることです。
IoTシステムをデバイスに入れるとモノ同士がインターネットでつながり、家にいても外にいても、他の端末装置、いわゆるエンドデバイスを使って他のデバイスを操作できるようになるんです。
たとえば、個人のパソコンやスマートフォンでGoogleドライブが使えますよね。それをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。
大坂:エンドデバイスで他のデバイスをコントロールできる、と。
Aryan Hung:これは恩恵が大きくて、大きなサーバーを作ってデバイスにつなげるのは手間とコストがかかりますが、IoTシステムを入れるとデバイス自体がサーバーのような役割を果たし、他のデバイスと直接つなげられます。
プライベートクラウド、プライベートサーバーのような立ち位置ですね。これが1つめの大きな特徴であり、メリットです。
大坂:個人ユーザーが大きな恩恵を受けられますね。
Aryan Hung:1つめのメリットは個人ユーザーを想定したものですが、2つめのメリットは個人ユーザーありきのビジネスを行っている企業にとってのメリットです。
個人ユーザーがIoTシステムをデバイスに入れることで、どんなデバイスでもデータをネットワーク上にのせられるようになります。
個人ユーザーが新しいネットワークに加入した、とイメージしてもらうとわかりやすいでしょうか。
大坂:なるほど。具体的に、企業はそのシステムをどう活用できるのでしょうか?
Aryan Hung:アップロードデータのセキュリティを強化した状態で、複数のデバイスにデータを分散させられます。
パスワードをかけてデータを保護してからネットワーク上にアップロードし、データを細分化するという流れです。
アップロードデータを100台のデバイスに入れておけば、誰かがデータをアップデートしたい時に100台のうち1台からデータを取り出して作業できます。
大坂:その時、どのデバイスからデータを取り出すことになるのですか?
Aryan Hung:対象となるデバイスの中で一番処理スピードが速いであろうデバイスからデータを取り出します。
どれかのデバイスが処理中で忙しかったら、他のデバイスからデータを引っぱってくるんです。たとえば5ギガバイトのストレージがあったとして、ストレージの共有部を使って1ギガをシステムに供給するとしたら、スーパーノートと呼ばれるシステムを使って「ストレージ上で誰がどれくらい使っているか」を計算します。
それによってストレージをどう配分するか調整できるわけです。
大坂:効率的に作業できるデバイスを選ぶんですね。
Aryan Hung:画面上で他のデバイスのデータ受け取り状況など過程が表示されるので、進捗も確認できます。
ネットワーク状況にもよりますが、7メガバイトのデータにパスワードをかけて分割し、各デバイスへ配布するのに15秒前後かかるでしょうか。
データを取り出す際も、どのデバイスだと早く処理できるか計算しながら取り出すので同じくらいスムーズです。
大坂:データを回収する作業は計算に基づいて行われるんですか?
Aryan Hung:常に距離を計算しながら作業しています。距離と言っても、物理的な距離ではなく数学的なスピードの距離なのですが。
システムを通じて各デバイスと常時つながっていて、指示が来たら距離が一番近いデバイスから即時データを引っぱってくるイメージです。
大坂:計算する早さは何によって決まりますか?
Aryan Hung:ノートが増えれば早くなりますね。ioeXは非中央集権型のシステムなので、中央集権型のシステムと真逆の仕組みになっています。分散先が増えれば増えるほど早くなる、ということです。
大坂:ブロックチェーン技術を導入したことにより、どんなことが可能になりましたか。
Aryan Hung:契約を自動化するスマートコントラクトでデータを受け取った側、データのストレージを供給した側、企業側の3方に取引情報を書き込むことで、不正な改ざんを防ぐことができます。
ioeXでは、リモートシステムにブロックチェーン技術を導入しました。
大坂:個人がioeXを使う時、トークンを発行していますよね。トークンはどんな役割を果たしているのでしょうか。
Aryan Hung:ネットバンキングを使う際は、指紋認証に対応したUSBが必要です。
その認証システム自体がトークンだと考えてください。認証するのは、「リワード(投資によって得られる価値)によって、誰がどれくらいのデータを取って分散するか」「もらったリワードがどれくらい自分のウォレットに入っているか(貯金)」「デバイスとサーバーがコミュニケーションするネットワークにどんなエンドユーザーが入っているか(身分)」の3つです。
個人情報を流出させず、自分で管理できる社会に
大坂:比較的新しいブロックチェーン業界は若い人が多いですが、Aryan Hungさんは多種多様なご経歴を積まれている印象があります。ioeXの開発において、これまでの経験はプラスに働きましたか?
Aryan Hung:ビックデータやオペレーションシステムの仕事経験が活きましたね。これらの仕事では、オペレーションシステムとIoTをどうつなげるかをずっと研究していました。
こうした経験をベースにしながら、インターネットビジネスとIoTの良いつなげ方を模索しています。
確かな技術を土台にしながら、しっかりビジネスとして機能させる。これがあらゆるサービスの肝だと思っています。
大坂:これからブロックチェーン業界で働く人が知っておくべきことを教えてください。
Aryan Hung:特に若い人々に伝えたいのは、ブロックチェーンを活用することはおすすめですが、単なる投機マネーなどのお金儲けではなく、ブロックチェーン技術をどうやって生活に溶けこませるかを考えてほしいということです。
そこまで設計しないと、本来の価値を発揮できません。
大坂:ブロックチェーン技術が生活に浸透すると、どんなことが期待できるでしょうか。
Aryan Hung:企業や組織を介することなく、個人が直接サービスを利用できるようになります。
これまでのネットサービスは中央集権化されたものばかりで、Googleや銀行などの巨大組織に個人情報が集中する構造が問題視されるようになりました。
ATMで自分のお金を引き出すのに、なぜ手数料を取られるのか。
なぜサービスにログインする際に自分のメールアドレスを登録する必要があるのか。個人が何かに依存することなく情報を扱える世界を目指したいですね。
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼