「ビットコインの相場が下落すれば、コストの分だけ損失を被る」と語るのは、上海鏈宇科技有限公司の方旭初氏だ。
パソコンが約30万円もした時代に、1日数十万台と売り上げた実績を持つIT界の権威でもある方旭初氏は、現在ブロックチェーン業界で活躍している。
方旭初氏は「ビットコインの作業効率を上げるマイニングマシンには致命的な問題がある」と警鐘を鳴らす。
後編ではマイニングマシンの4大デメリットと、それらを解決するハードディスクの可能性、ブロックチェーンが普及した社会に起こるであろう変化について伺った。
電気代はビットコインのコストになる
方:最近になって、マイニングマシンの致命的な問題に気づきました。
まずは、巨大な電力消費です。現状だと値下がり傾向のブル・マーケット時はビットコインマイニングの電力消費が大きくなり、電気代に使う資金が高くなります。結果的にマイニングのコストも上がり、もしビットコインの相場が下落すれば、マイニングのコストの分だけ損失を受けてしまってマイニングマシンを止めるしかなくなります。
大坂:マイニングする際の電気代もビットコインのコストになりますから、マイニングマシンの大きな電力消費は負担になりますね。
方:はい。昨年はビットコインが何十万元と値上がりしましたから、そこでビットコインを売るのは正しい判断だと思います。
しかし、その時にビットコインを購入した人は損します。現在のビットコイン単価は2万7千元ほどなのに、マイニングのコストが2万元以上かかっているんです。
大坂:それでは利益がほとんど見込めませんね。
方:また、マイニングマシンメーカーによる市場独占も問題です。
マイニングマシンの大手メーカーは全て中国内陸にあり、全社とも大儲けしました。マイニングマシンを作ったら、自分のマイニングファームで採掘しながら売ることができます。
マイニングマシンのコストは1台4000元から、ブル・マーケット時には3万元にまで上がり、利益のほとんどはメーカーが独占しました。
メーカーが値段の決定権を握っているため、たくさんの利益が得られる価格設定を行っているのです。
大坂:ほかにも、マイニングマシンにまつわる問題があるのですか?
方:マイニングファームの独占問題もあります。
以前は1台3万元だったマシンが現在では700元に下落しましたが、それを購入して家でビットコインを採掘すれば必ず損します。
なぜなら、家庭での電気代が0.3元を超えると絶対損するからです。先進国の電気代はもっと高いので、さらに損するでしょう。
また、家で運用するとなるとマシンの騒音問題と放熱問題にも直面します。
大坂:となると、家では採掘できませんね。どうすれば良いでしょうか?
方:数万元から数千万元の資金を投入し、マイニングファームに管理を委託することです。
ただ、マイニングファームは国家政策の影響を受けやすく、連鎖詐欺事件が起きるなどのリスクもあります。
大坂:マイニングファームに委託しても、安全とは言えないと。
方:残念ながら。価値を維持できない点もマイニングマシンの課題で、かつて1台3万元だったマシンが700元までに下がったら、その損失はあまりにも大きい。
マイニングしかできないので、ただのガラクタになってしまいます。
マイニングマシンに代わるハードディスクの可能性
大坂:こうしたマイニングマシンの課題は、どうしたら解決できますか?
方:ハードディスクへの切り替えでしょう。
ハードディスクは勝手に値上げしにくく、価値を維持しやすいです。さらにマイニングマシンと比較して騒音と放熱も少なく、電力消費も抑えられるので電気代が激減します。
家でも簡単に運用できるため、脱中心化も実現できるでしょう。
大坂:ハードディスクでマイニングする原理を簡単に説明していただけますか。
方:騒音と放熱が少ない容量承認という方法を採用し、マイニングする前にCPUで計算したランダム数をハードディスクに保存します。
書き込みに時間が必要で、8Gのハードディスクに書き込むには十時間以上かかりますね。ハードディスクでマイニングする際は、ランダム数を保存することがポイントです。
大坂:合意形成においてはどんなことが重要ですか?
方:安全性です。安全性を確保するためにもランダム数を保存するプロセスが欠かせません。
さきほどお伝えしたとおり、1つのハードディスクに書き込むだけで何十時間もかかるので、最短でも半年ほどかかるでしょう。
実際に、BCHを攻撃するには6000万元のマイニングマシンが必要になり、ハードルが高くなります。
大坂:それほどの大金を持っている人はそうそういませんね。
方:良いビジネスモデルも求められます。
良いビジネスモデルがなければ、多くのワーカーがコインを購入して、相場が激しく変動して不安定になってしまうからです。
BHDは優秀なビジネスモデルでしっかりと株を固定し、1.3億元のハードディスクにランダム数を入れて安全性を確保しました。
BHDはリーズナブルなビットコインで、たくさんのユーザーが楽しめるように間口を広げており、安くて投資価値がある点が魅力です。
大坂:貴社でも、何か関連した取り組みは行っているのですか?
方:より良い容量承認の開発に取り組んでいます。容量承認は時差式な攻撃に襲われやすいため対策が必要ですが、容易に解決できる課題ではありません。
アカデミー派の数学学者が仮説を出して証明し、一流のプログラマーが実装しなければ実現しないでしょう。
世界にはこの問題解決に力を入れている会社がいくつかあり、オーストリア企業のchiaもそのひとつ。私たちも4月に新しい容量承認を発表する予定です。
大坂:難しい課題があるなか、どうやって新しい容量承認を開発したのですか?
方:弊社にはMIT大学のマルチメディア実験室のメンバーがいて、優秀な人材がそろっています。
CATCHという仮想通貨もこのマルチメディア実験室の研究員が開発しました。
そのほか、イギリスの帝国理工大学、清華大学と北京大学出身の二十名以上の院生、博士たちが研究開発をし、開発に漕ぎつけました。
とはいえ、時間はかかっています。より完璧なコンセンサスメカニズムを目指し、セキュリティの強化だけで2年以上かかりました。
大坂:良いコンセンサスメカニズムの特徴とは何でしょうか?
方:簡単かつ安全であることです。ビットコインはメカニズムが簡単なのにも関わらず安全性が非常に高い点が評価されていますが、RPFの原理は複雑すぎます。
コードがあまりにも複雑だと、エラーも出やすくなるため推奨できません。
もうひとつ大きな問題になっているのが、中国のパソコン販売店が普通のパソコンをRPFだと偽って高価で売っていることです。
定価5000元のパソコンが1~2万元で売られているなど、RPF詐欺商法が横行しています。こうした問題を防ぐためにも、安全性の確保が欠かせません。
ブロックチェーンがIoTを進化させる
大坂:ブロックチェーンやAIなどの先端技術を社会の発展に活かすためには、どんなことが必要でしょうか?
方:ブロックチェーンとモノのインターネット、IoTの結合は必至だと感じています。
家電や携帯電話など、たくさんのモノがインターネットで繋がった未来を想像してみてください。ブロックチェーンのコンセンサスメカニズムを通して誰でも自治権を持てるようになります。
政府ではなく国民の投票によって法律や政策が決められるようになるでしょう。
大坂:そうなると、国民投票が普及していくでしょうね。
方:AIについては、ブロックチェーン同様にまだまだ初期段階にあると思っています。
AIのキャッチコピーには「AIが人間の価値を脅かす」といった切り口の大胆なものが多くありますが、実際にはそれほどの影響力を持っているAIはまだ誕生していません。
顔認識などのレベルではまだAI、人工知能とは言えないでしょう。単なる一連の計算で実現したコンピュータロジックを利用して、対象の種別を認識するプロセスでしかないんです。
本当のAIには魂が必要で、もし機械に魂が宿れば人間にとって脅威となり得ます。ただ、これはあくまで未来の可能性。
人工的算法を用いて無条件に命令に従う現在のAIでは、社会に大きなインパクトを与える存在にはならないでしょう。社会の発展に活かすには、もっと技術を進化させるしかないですね。
大坂:これからの進化に期待しましょう。今日は取材にご協力していただき、本当にありがとうございました。
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼