ブロックチェーンでオーナー登録の仕組みをつくり、ブランドファンのコミュニティを広げたい

2019.05.30 [木]

ブロックチェーンでオーナー登録の仕組みをつくり、ブランドファンのコミュニティを広げたい

海外ブランドのデザイナーとして経験を積み、現在は日本で自身の高級婦人服ブランド「HARUNOBUMURATA」を運営する村田晴信さん。

今年2月には2019秋冬ミラノコレクションの公式スケジュール上でデビューコレクションを発表した、世界からも注目を集める新進気鋭のデザイナーだ。

そんな村田さんに、ラグジュアリーファッションにおけるブロックチェーンの可能性と、大手高級ブランドが取り組み始めている事例について、話を聞いた。

 

シンプルで、質が高い。女性の姿勢や仕草を美しくするデザイン

――初めに、村田さんのご経歴をお聞かせください。

村田:ファッションの専門学校を卒業後、PR会社のインターンを経てイタリアに留学し、ミラノにあるマランゴーニ学院のファッションデザインマスターコースを修了しました。

留学中には、ミラノのコンペティションに勝利したことがきっかけで、2012-13年秋冬ミラノ・ファッション・ウィークでコレクションを発表しています。

30歳で自分のブランドを立ち上げることを目標に、2012年からはジョンリッチモンドのデザイナー、2015年からはジルサンダーのデザイナーとして経験を積み、昨年8月に帰国。

高級婦人服ブランド「HARUNOBUMURATA」とその運営会社であるAtrum Designを立ち上げ、今年2月には2019秋冬ミラノコレクション公式スケジュール上にてデビューコレクションを発表しました。

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現在はAtrum Designの代表、そして「HARUNOBUMURATA」のデザイナーとして、企画運営及びデザインコンサルタント業務を行っています。

 

――村田さんは現在30歳。計画通りにご自身のブランドを立ち上げられたのですね。「HARUNOBUMURATA」はどのようなブランドなのですか。

村田:「Luxury of Silence」をコンセプトに、国内外から集めた上質な素材を使用して女性の姿勢や仕草を美しく引き出す洋服小物をデザインし、販売しています。

「Luxury of Silence」をあえて日本語にすれば、静けさの中にあるラグジュアリー。

表面的にデコレーションするような豊かさではなく、見た目はシンプルだけれど、着ている本人だけはすごく質のいいものを身に纏っているという感覚が持てることを意味しています。

デザインにおいては、着ると背筋がすっと伸びて、自然と自分にスイッチが入ることを意識しています。

“女性の姿勢や仕草を美しく引き出す”というブランドの大きなテーマにもつながっているのですが、服が女性のスイッチを押す役割を担えればいいなと思っているんです。

同じような高価格帯を狙うブランドが日本にないことで、打ち出し方の難しさを感じている面もあります。

しかし裏を返せば、ブランドとして拡大の余地が十分にあるとも考えているんです。

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ゆくゆくは日本を代表するラグジュアリーブランドに

――今年3月にはバイヤー向けの展示会を開催されましたね。来場された方の反応はいかがでしたか。

村田:伊勢丹や高島屋などの大手百貨店や、バーニーズニューヨークなどの高価格帯を扱うセレクトショップからも足を運んでいただき、とても良い反応が得られました。

ただ、やはり打ち出し方に悩んでいるようだったので、今後はこちらからも提案していければと考えています。

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周囲の友人からの注文も受けたのですが、注文数は予想の3倍にものぼりました。

高価格のものもその理由に納得して買ってくれていたので、手ごたえを感じています。

振り返って思うのは、デザイナー自身がプロダクトの背景を説明し、その上での適正な価格であると納得していただいた上で注文を頂くプロセスが正しいと思えたこと。

今後もこのフィーリングを保ちながら、ブランドを拡大していくことが一番だと考えています。

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――今後の展望をお聞かせください。

村田:日本の生地やイタリアの職人技など、両国の強みを知っているのは僕の武器です。

今後も、使えるリソースはすべて注ぎ込み、一番いいものをつくっていきたいと考えています。

また、日本にはルイ・ヴィトンやシャネルに並ぶラグジュアリーブランドがまだありません。

日本にはその位置を狙えるだけのいいリソースがあるので、ゆくゆくは日本を代表するラグジュアリーブランドとしての地位を確立していきたいと考えています。

 

ラグジュアリーブランドとして、購買体験に付加価値をつけられる

――ファッション業界において、ブロックチェーンの可能性をどのように考えておられますか。

村田:生産の過程を改変不可能なブロックチェーン上に記録することで、プロダクトの真贋証明や生産背景のトラッキングができるようになるという面で、僕のブランドも含めたラグジュアリーファッションやグッズの分野での可能性を特に感じています。

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高価格帯のブランドはこれまでも偽物に悩まされ、プロダクトにシリアル番号をつけるといった対策も行われてきましたが、結局はいたちごっことなり解決には至っていません。

偽物が出回れば、ブランドはもちろん、偽物と知らないで購入した消費者も損害を被ります。

ブロックチェーンは、その問題をついに解決するツールになり得るのではないかと期待しています。

また、そのプロダクトの生産背景や生産に携わった人をトラッキングできるようになることも、高価格帯のブランドにとってのメリットです。

やはり生産背景は、価格が上がれば上がるほど知りたいもの。

それが購入の動機に直接つながるかと言うとそうではないと思いますが、最終的に購入をプッシュする一つの助けにはなるのではないでしょうか。

先ほど、デザイナー自身が説明し、納得して買ってもらうのはとてもフィーリングが良かったと話しましたが、ブロックチェーンで生産に携わった人をトラッキングできれば、時間や距離が離れていても購入者と生産者をつなげることができるようにもなります。

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僕がブランドの名前を自分の名前にしていることにも同じような意図があって、「この人から買おう」というフィーリングをつくりたいと思っているんです。

ラグジュアリーブランドには、つくっている人が好きで、その人から買いたいという購買動機もあると考えています。

それならば、ブロックチェーンによってその人から直接購入しているという体験をつくることができれば、それはラグジュアリーブランドとしての正しい購買体験と言えるのではないでしょうか。

 

――ブロックチェーンを活用して何か新しい取り組みはされていますか。

村田:まだ具体的に何かを始めているわけではありませんが、例えばエンドユーザーがプロダクトの生産背景をトラッキングできるサービスや、購入した人をオーナーとして生体認証などの方法で登録できるシステムの可能性を考えています。

オーナー登録は、フェラーリのオーナーをイメージしてもらえれば分かりやすいのですが、ブランドとしてオーナー同士の小さなコミュニティをいくつかつくれればいいなと思っています。

同じブランドのファンが購入した服を着て集まったり、情報を共有したりする場があれば、例えばそのコミュニティに入りたいからブランドとのつながりをつくろうなどと購入の新たな動機にもつながる。

ブランドの広げ方として、ブランドという一つの中心から広がっていく円のほかに、オーナーコミュニティという複数の小さな円も広がっていくイメージを描いているんです。

 

ブロックチェーンプラットフォームの開発に着手した大手ラグジュアリーブランドも

――ファッション業界で、実際にブロックチェーンを用いた新しい取り組みは行われていますか。

村田:ラグジュアリーファッションの分野では、先日、ルイ・ヴィトンの親会社であるLVMHが、傘下ブランドのプロダクトの追跡を行うブロックチェーンプラットフォーム「AURA」の開発に取り組んでいることを発表しました。

この運用が始まれば、プロダクトの出どころがトラッキングできるようになります。

また、ラグジュアリーファッションにおいては、メルカリやヤフオクなどの台頭でセカンダリー(中古販売)のマーケットも大きく広がっています。

プロダクトの追跡ができるようになれば、中古品の購入者でも発売元のブランドが提供する修理などのサービスが受けられるようになる。

これは中古品の購入者にとってのメリットでもあり、それが付加価値となることで、売る側もそれ相応の価格をつけることができるようになるでしょう。

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最初に購入するときにも次に売ることを前提にすれば、初めから売れる価格の分だけディスカウントされていると考えることができます。

そうなれば、購買体験や所有の意識が変わります。あるいは、次に売るときにはプロダクトの価値が上がっている可能性もあります。それは新たな購買動機にもなるでしょう。

ブロックチェーンへの投資は、バーバリーなども始めているようです。

大手のブランドが着手し始めれば、広がるのは早いでしょうね。

 

――業界を問わず、ブロックチェーンに期待することはありますか。

村田:ブロックチェーンに対する一般的なイメージは、まだあまりいいとは言えません。

ブロックチェーン自体はかなり可能性の大きい技術だと思いますので、そのイメージがなくなり、スタンダードなものとして広がってくれればいいですね。

 

――貴重なお話をありがとうございました。

 

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ライター/三ツ井香菜 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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