「レベルが高い海外の芸術学校に転入したいと志願しても、中国の学生は門前払いされてしまう」-。
中国の芸術教育に課題を感じた湯偉骄氏は、杭州歩霊普教育科技を立ち上げ、IT技術とブロックチェーン技術を活用した芸術システムで世界レベルの教育を構築する。
後編では、中国教育の課題や打開策、ブロックチェーンの本当の価値、ブロックチェーン業界で求められるスキルについて伺った。
門前払いされる学生にトップレベルの教育を
大坂:湯さんが代表を務める杭州歩霊普教育科技では、どんな事業を行っているのですか。
湯:設立当初は、教育事業を中心に展開していました。私自身がIT出身なので、その経験を活かした教育システムを提供しています。
大坂:新しい教育システムを作ろうと思ったきっかけは何ですか?
湯:中国の芸術系学校の教育に課題を感じたからです。中国の芸術系学校の学生は、海外の芸術系専門校に転入する割合が低い傾向があります。
中国の芸術系学校の学生は創意工夫するスキルが不足していて、特に動画CGの分野において、レベルが高い海外の学校に転入したいと志願しても門前払いされてしまう。
「なんとかして学生たちのレベルを引き上げ、ハイレベルな海外学校に入るチャンスを手に入れてほしい」と思ってIT技術を駆使した教育システムを開発しました。
大坂:その教育システムの特徴はどのようなものでしょうか?
湯:学生の創意工夫能力向上を目指してITと伝統的な美術を融合させ、デジタル芸術について教育するシステムを構築しました。
海外の学生と同じように、バリエーションを富んだものを作りやすくなり、海外の芸術学校からも認められるスキルが身につく教育システムです。
大坂:海外の学校に留学せずとも、レベルが高い芸術教育が受けられるようになりますね。
湯さんはITの経験を積まれていたとのことですが、教育業界にも携わっていたのですか?
湯:1997年に浙江大学に入社してからずっと教育に携わり、中国のアニメーションや映画などの動画分野でも人材育成に心血を注ぎました。
私の学校では、教育・産業と研究開発を連携させた「産学研一体化」の位置づけを図っています。
ブロックチェーン技術を利用して中央集権型ではなく分散型のプラットフォームを創り出すことにより、多くの学生に新しい教育システムの利用するきっかけを提供したいです。
大坂:具体的にはどんな教育システムを提供するご予定ですか。
湯:海外の学校が中国の学生を募集する際に、ブロックチェーン技術に基づいたプラットフォームを通じて、学生の経歴を簡単に提示できる技術を開発しています。
これによってスムーズに選考できるようになり、学校と学生の両方にメリットが生まれるでしょう。
「ブロックチェーン=投機」ではない
大坂:貴社の展望について教えてください。
湯:ブロックチェーン技術を活用して、完全な付加価値を創り出したいです。
どんな人も物も企業も、必ず独自の付加価値を持っているもの。証券市場では、取引に使われるプロセスとして付加価値が存在します。
ブロックチェーン技術によって独自の付加価値を創出し、人々にブロックチェーンそのものの価値を理解してほしいと考えています。
大坂:利用者がブロックチェーンにより得られるメリットというと、トークンをイメージする人が多いと思いますが、また違った形での付加価値を提供したいとお考えなのですね。
湯:トークンはあくまで還元の一例です。
ブロックチェーン技術の活用方法は仮想通貨を作ることだけではありません。用途を仮想通貨だけに限定してしまったら、ブロックチェーン本来の価値がなくなってしまいます。
大坂:今の企業家は、ブロックチェーンに対してどんな考えを持っているのでしょうか?
過去のように、株の投機をするといった考え方なのか、湯さんと同じように新しい可能性に期待しているのか。
湯:新しい考え方を持つ企業家はもちろんいますが、まだ少ないと思います。
大体の人は過去の認識のまま投機目的でブロックチェーンを活用していて、仮想通貨の取引だけ行っています。
中国だけでなく、マレーシアやタイ、日本で仮想通貨の取引を行い、短期的な利益を追い求めるツールとしてブロックチェーンを捉えている。ブロックチェーンの理念が未熟なんです。
大坂:ブロックチェーンの話をすると、大抵は投機のイメージを持たれますね。
湯:「ブロックチェーン=投機」というイメージが強すぎて、ブロックチェーンの本質的なメリットも話せない状態でした。
私は教育だけがブロックチェーンのイメージを変えられると思っています。
去年、商務部の方々と会談した時に「ブロックチェーンの魅力を教育の切り口で伝え、世の中のブロックチェーンに対する考え方を根本から変えていこう」と決心しました。
提供している教育システムによって、ブロックチェーンの価値を周知させていきたいですね。
技術以外の知識がブロックチェーンを進化させる
大坂:2000年から技術開発なさっている湯さんの経験から、ブロックチェーンなどの先端技術を発展させるコツについて教えてください。
湯:どれだけ精通したブロックチェーンの専門家であっても、技術面においてはそれほど研究の余地が残されていない状態です。
だから技術開発だけに目を向けていても、さらなる発展は期待できないと思いますね。
今後はビジネスモデルや価値の分析に注目すべきフェーズに入るのではないでしょうか。
大坂:ビジネスモデルや価値の分析は、なぜこれから重要になるのでしょうか?
湯:ブロックチェーンなど先端技術の発展は、社会の認知や理解がなければ実現しません。
現在は技術力によってブロックチェーンの発展を促す流れがありますが、ブロックチェーンのことを正しく理解している人が少ないことが発展を阻害しています。
社会の認知や理解を促すためには、ビジネスモデルや価値を分析する必要があるでしょう。
大坂:技術面の知識だけでは、世間のブロックチェーン理解を促すことはできないのですね。
湯:はい。だから技術開発に留まらず、フレームワークやシステム、安全対策などの面からブロックチェーンの全貌を把握する視野を持つべきです。
私はブロックチェーンビジネスを始めてから、各分野の知識を総合的に身につけた人材が必要だと実感するようになりました。
大坂:技術に強い人は相場の価格などマーケティングに弱く、マーケティングに強い人は技術的なハードルが理解できない、といったことですね。
湯:一点特化型でバランスが悪いんです。
あらゆる要素を理解したうえでブロックチェーンを活用できる人材を生むことが、ブロックチェーン発展のカギになるでしょう。
大坂:さまざまな知識を網羅する人材の創出が課題である、と。
湯さんはブロックチェーン事業と教育事業、どちらに注力するご予定ですか。
湯:どちらかに絞るのではなく、教育とブロックチェーンを掛け合わせた独自のエコシステムを創り出したいです。
人材育成を行って専門知識がない人でもブロックチェーンが理解できるようになれば、私たちの目標が達成できますね。
大坂:なるほど。貴重なお話をありがとうございました。
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼