2万社ひしめく中国ブロックチェーン業界。勝ち抜く秘訣は「セキュリティ」

2019.05.23 [木]

2万社ひしめく中国ブロックチェーン業界。勝ち抜く秘訣は「セキュリティ」

中国唯一のブロックチェーン専門家委員会で副主任を務める湯偉骄氏は、杭州歩霊普教育科技を立ち上げ、ブロックチェーン技術と芸術教育を掛け合わせることで世界レベルの教育を実現する。

前編では、約2万社がしのぎを削る中国ブロックチェーン業界で生き残る方法や、ブロックチェーンビジネスの落とし穴について伺う。「通常の4~5倍のヒトとカネが必要」と言われるブロックチェーンビジネスを成功させるメソッドとは。

 

セキュリティが甘い先端技術は浸透しない

大坂:本日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。早速ですが、湯さんの仕事についてお聞かせいただけますか。

湯:中国の電子商取引センターでブロックチェーン専門家委員会の副主任を務めており、ブロックチェーンに関する先端技術の研究やビジネス開発、教育投資などに取り組んでいます。

 

大坂:ブロックチェーン専門家委員会を立ち上げた背景について教えてください。

湯:数多くの電子商取引を管轄している商務部が、イノベーションを推進するために委員会を創設しました。

現在は仮想通貨に対して「うさんくさい」「信用できない」といったネガティブな思い込みを抱いている人も多くいますが、電子商取引の産業園は広がりつつあり、影響力は大きくなっています。

ブロックチェーンの健全な発展を促し、社会に対して仮想通貨やブロックチェーンのポジティブな価値を提供することが委員会創立の目的です。

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大坂:現時点では、何社が委員会に参加していますか。

湯:中国唯一のブロックチェーン委員会なので、電子商取引産業園を中心に約2万社が参加しています。

電子商取引産業園の規模がとても大きいので、参加社数も多いですね。

 

大坂:すごい数ですね。さらにブロックチェーン技術を普及させてビジネスを成立させるためには、何が必要でしょうか?

湯:技術的な視点からみると、セキュリティだと思います。

ブロックチェーンに限らず、AIなど先端技術全般に言えることではないでしょうか。

システムのセキュリティ対策が確保できない限り、新しい技術は評価されませんし、率先して取り入れようとする企業もあらわれません。

どんなに素晴らしい先端技術が開発されても、社会に浸透しないでしょう。

 

大坂:なるほど。ところで中国は、比較的ブロックチェーン技術の発展が早いのではないですか?

湯:早いとは言われていますが、実用段階にまで入っているのは少数だと思います。

ブロックチェーンビジネスの約9割は投機目的とした仮想通貨業務などで、真の応用価値に着目していません。

ブロックチェーンの中核となるのはインテグリティのシステム(信頼性のシステム)の構築であり、投機目的で使用される仮想通貨はインテグリティシステムを構築できていません。

そういった意味では、セキュリティはまだまだ甘いんですね。

 

大坂:まだ発展途上である、と。

湯:はい。また、公平透明なネットワークであるブロックチェーンは、セキュリティだけでなく人間性も問われます。

実際にブロックチェーン事業を始めるとなると、良好なブロックチェーン運営やメンテナンスのために莫大な投資が必要です。

従来のインターネット事業の投資と比べると、5倍以上のお金がかかるでしょう。

膨大な初期投資はリスクが高く、多くの企業は仮想通貨を利用して投機に注力しています。

強い目的意識がなければ目先の投機に終始してしまうでしょうね。

 

仮想通貨に留まりがちなブロックチェーンの壁

大坂:中国に限らず、ほとんどの企業が仮想通貨の投機に注力し、ブロックチェーン技術の最大価値である信頼性、開示性、透明性、脱中央集権化といったコアの部分を後回しにしがちです。
なぜブロックチェーン技術を活用する分野は、仮想通貨に限定されやすいのでしょうか?

湯:ブロックチェーンの価値を踏まえたビジョンを掲げていても、実際にそのビジョンを実現したモデルケースはいまだに見たことがありません。

ブロックチェーン技術を基盤としたビジネスの運営には、通常の4~5倍のヒトとカネが必要だと考えたうえで取り組む必要がありますね。

中央集権化のシステムから抜け出すには、ソフトよりもハードウェアの構築に時間とお金がかかりますが、近い将来、ブロックチェーンビジネスが発展し浸透することを信じています。

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大坂:ブロックチェーンビジネスの普及にあたり、コスト面以外で何を課題に感じていますか?

湯:人材不足ですね。ブロックチェーンでもAIでも、先端技術の価値を発揮するには多くの人間の力が必要です。

どんなに優秀な開発者がいても、たったひとりの力では社会を変えることはできません。

有識者が共同で努力することに加えて、政府の支持を得ることが大事だと思います。

 

大坂:中国政府のサポートは期待できますか?

湯:中国政府は支持側に立っていると思います。

将来、ブロックチェーン、人工知能、AR、VRといった先端技術は、国にとっても未来発展のキーワードになるでしょう。

今から投資することで、将来大きな国力につながる可能性があります。

政府がサポートするだけの価値がある存在だと言えるでしょう。ただ、目の前の人材不足問題を先に解決しなければなりません。

 

大坂:人手がなければ先端技術の開発は難航しますね。ブロックチェーンの将来性については、どうお考えですか。

湯:ブロックチェーンの誕生はインターネット発展の一環だと思います。

これからさらにブロックチェーン技術を発展させるには、より多くの人にブロックチェーンビジネスへ参加してもらうべきでしょう。

共同価値、シェアシステムと自由価値を融合させれば「信頼性が高い分散型システム」というブロックチェーン本来の価値が引き出せます。

 

大坂:人手が足りないままだと、どんなリスクが考えられるでしょうか?

湯:ブロックチェーン技術は仮想通貨の基盤として使われるばかりで、短期的な利益を追い求める投機ツールに留まってしまうでしょう。

ブロックチェーンの核となる魅力は、完全な信頼システムと個人の価値を実現できることです。

その魅力が発揮できないままでいるのは非常にもったいないなと感じます。

 

大坂:ブロックチェーン技術が浸透して真の価値を発揮できれば、社会に還元されるメリットは大きそうですね。

湯:先端技術による変化を恐れる人もいますが、メリットはたくさん生まれると思いますよ。

AIが誕生してからは今まで人が担っていた仕事が縮小する傾向にあり「ブロックチェーンにも仕事を奪われるのでは」と考えるかもしれませんが、中央集権化のシステムを壊して個人の価値を生み出せるブロックチェーン技術が浸透すれば、人の価値を発揮するチャンスが増え、むしろ人が担う仕事は増えるのではないでしょうか。

 

(後編へ続く)

 

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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