2020年代の金融業界はどうなるか。ブロックチェーンとAIでコスト削減

2019.05.22 [水]

2020年代の金融業界はどうなるか。ブロックチェーンとAIでコスト削減

中链科技有限公司を立ち上げ、独自の仮想通貨取引所を運営する楊志武氏は、中国のブロックチェーン業界をけん引する有識者だ。

ブロックチェーン技術を導入し、信用構築に苦戦している中国の食品業界に革命をもたらそうと活動している。

今回、IFA社は楊志武氏にインタビューを敢行。ブロックチェーン事業を成功させるためには何が必要なのか、2020年代の金融業界はどうなるのか。後編では、ブロックチェーン技術がさまざまな業界に与える影響について紹介する。

 

ブロックチェーン事業成功のカギは事前準備

楊:ブロックチェーンの可能性は、IoTの幅が広がることです。私たちはブロックチェーンの「改ざん不可能」「トレーサビリティ(追跡可能)」という特徴を活用して、全ての食品から、工程や原材料を追跡できるようにしたいと考えています。

大坂:ブロックチェーンをうまく活用するには、インターネット、IoTとの連携が不可欠ですね。
ブロックチェーン技術を活用したサービスを成功させるために必要なことは何でしょうか。

楊:コミュニティを育て上げ、資金調達することです。

小規模のブロックチェーン事業であっても、開発には莫大な資金が必要になります。

シリコンバレーで工業製品の開発に携わっている知人は、前期投資だけで数千万ドルかかりました。

ブロックチェーンは計画的な事前準備が必要なビジネスなんですね。

 

大坂:貴社はどんな事前準備を行っているのですか?

楊:業界団体と関係会社に対して、私たちのビジネスに注目してもらえるようアピールしたり、政府要員と交渉して経済的サポートを求めたりしています。

ブロックチェーンビジネスの競合企業はたくさんありますから、自社技術の評価を獲得して他社からの融資・参加を促して独自のコミュニティを拡大し、勝率を高めることを目指しています。

 

大坂:政府要員とも交渉なさっているのですね。中国のブロックチェーン事業は、国からのサポートが得られるのですか?

2020年代の金融業界はどうなるか。ブロックチェーンとAIでコスト削減2

楊:現段階では競合企業が多く、サポートが得られるかどうかはわかりません。

ただ、公信力を獲得するために政府から形のあるサポートが必要なので、働きかけていかなければなりませんね。

それに将来的には、私たち企業と政府がブロックチェーン事業を分業する可能性もあると考えています。

 

大坂:というと?

楊:たとえば、ブロックチェーンの運用は企業が担当しますが、データのアップデートの正確性を担保するために、政府へ政策や法律の制定を依頼するなどです。法律や政策によってブロックチェーン技術でカバーしきれないデータの改ざんを防止できるかもしれません。技術だけで実現できたらベストですが、法律や政策で補強するのもひとつの方法です。

 

中間コストになるヒトとカネが削減される未来

大坂:今後、ブロックチェーン技術を使って取り組みたい計画などはありますか?

楊:やはり、食品業界におけるブロックチェーン技術の導入ですね。

ただオープンソースのブロックチェーンビジネスは他社から真似されるリスクがあるため、注意しなければなりません。

もし私たちがブロックチェーン技術を用いて食品の新しいサプライチェーンを開発できたとしても、すぐに競合企業に技術を真似される可能性があるんですね。

どれだけ時間とコストをかけて開発しても、すぐに追い抜かれてしまうかもしれません。

 

大坂:オープンソースだからこそのリスクですね。協力して成長を加速させることもできますが、お互いに潰し合ってしまうリスクもある。

楊:そうです。だからサプライチェーンを開発すると同時に、できるだけ早く参入障壁を構築しなければなりません。

これは難易度の高い仕事だと思います。ビットコインもオープンソースなので誰でもビットコインのソースコードをコピーでき、同様のコインを作成できますが、当初はまだビットコインは注目されていなかったため、競合がしのぎを削ることなく静かに発展しました。

ビットコインが人気になり人々がコピーしたいと思った時には、すでに規模が大きくなって手遅れになっていたのです。

現在はブロックチェーンに注目が集まりつつあるので、何らかの方法で参入障壁を構築しなければなりませんね。

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大坂:もっと広義の話になりますが、新規技術の応用、たとえばAIやブロックチェーンは私たちの社会にどのような影響を与えるでしょうか。

楊:AIもブロックチェーンも、労働力の削減につながるでしょうね。

生産工場など、労働集中型の領域では人間よりも人工知能の優位性が高くなっています。

中央集権型のシステムだと中間に立つ企業が生まれがちですが、各ユーザーが管理する分散型のブロックチェーン技術が浸透すれば、中間業者を省きやすくなります。

 

大坂:金融業界でイメージするとわかりやすいですね。
本来、金融は中間業者・融資の必要性が低いのですが、実際はたくさんの仲介を経て消費者の手元にお金が届く構造になっており、金融チェーンが必要以上に長くなっています。
ブロックチェーン技術を応用すれば、金融チェーンを本来の長さに短縮することができる。

楊:はい。ブロックチェーン技術を通じて、他銀行間の即時決算も実現できます。従来の方法だと特定期間の決算に大量のヒトとカネが費やされますが、ブロックチェーンの技術を使えば自動的に暗号化してデータの安全を保証できるようになります。

また、分散型の帳簿であるブロックチェーンであれば、帳簿の記入と同時にネットで帳簿がアップデートされるため、即時決算ができる。コストを削減しながら、効率化も実現できるということです。

 

大坂:食品業界でも同じことが言えそうですね。

楊:ブロックチェーン技術によってセキュリティを強化することで、食品流通時における検査機関の立会いや政府側の監視など、人の仲介を省けるようになりますね。

結果的に、無駄な労働力を削減できるようになるはずです。

どの業界であっても、ブロックチェーン技術はコスト削減と効率化に貢献する可能性を秘めていますね。

 

大坂:貴重なお話をありがとうございました。

 

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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