消費者のデータは誰のものか。電子決済の普及による新しい課題

2019.05.17 [金]

消費者のデータは誰のものか。電子決済の普及による新しい課題

「消費者は多くのデータを保有している機関にコントロールされてしまうのが現状です」と問題提起するのは、元テック系起業家であり、現在は若手2年目の国会議員として活躍するKaren Yu氏だ。

新米議員でありながら、ブロックチェーン関連の法案策定のために台湾政府にアプローチしている彼女は、台湾トップの大学・台湾大学卒のエリートでもある。

今回AIre VOICE編集長の大坂氏が対談し、電子決済時に直面する個人情報保護問題の解決策や、今後のベンチャー企業の基盤となる投資方法などと伺った。

 

電子決済にみる個人情報の保護問題

大坂:日本も電子決済が普及し、東京オリンピックまでに電子決済の割合を40%程度に伸ばそうとしています。

さまざまな企業が電子決済ビジネスに参入しつつあり、それ自体は良いことなんですが、コンビニエンスストアなどのお店にはたくさんの決算システムがあり、コンビニエンスストアのスタッフ側が困っているというのが現状なんですね。

Karen:台湾でも似た問題が起きています。国が株式を持っている銀行といっしょに開発したQRコードで決済できるシステムがあるんですが、アップルペイやラインペイと競合するためシェア率は低くなっていて。

ただ、QRコード式のシステムは他の銀行にも開放していて、どの銀行を使ってどのアカウントからお金が引き落とされるかは明確に把握できます。

 

大坂:日本だとポイントシステムが普及していて、物を買ったときに付与されるポイントを貯めて買い物に利用できます。

これは現金をダイレクトに電子決済化するのとは別の話なんですよね。国民性のあらわれだと感じます。

Karen:台湾でも同じような問題が起きています。

台湾には、もともとクレジットカードと日本で言うSuicaのようなイージーカードがあり、国民2300万人に対してクレジットカードは4000万枚、イージーカードは6000万枚発行されています。

国民が複数のカードを持って使い分けている状態なんですね。小さいお店だと税金逃れや決済費用の節約といった理由から、なかなか電子化が進みません。

もともと持っているクレジットカードを使う人は多いものの、イージーカードを普及させるのは難しいんです。

 

大坂:電子決済が進むと、モノのお金自体をデジタル上でやり取りするようになりますから、ヨーロッパ中心にGDPR(欧州連合EU一般データ保護規則。全ての個人のためにデータ保護を強化し、統合することを目指すもの)に関する問題が取り沙汰されるようになりました。

デジタル上の取引ではお金の“価値”そのものに加えて、個人情報もいっしょに移動すると思うんですね。個人的には電子決済でお金がデジタル化することより、GDPRのほうが重要なのではないかと考えています。

というのも、デジタル上でお金の管理ができることは便利なのですが、個人情報の移動対策を考えないと問題になってしまいますから。

Karen:将来的に、金融業界はデータによって経済が良くなっていくのではないかと予測していますが、そこで絶対に出てくる問題が個人情報ですよね。

GDPRにおいて一番大事な精神は他の人でもアクセスできるオープンソースだと思います。大きい銀行だけが権限を持ち、データを扱う構造は良くありません。

台湾でもオープンソースの銀行を推奨しています。どうしてもたくさんのデータを扱っている機関にコントロールされてしまうのが現状ですが。

大坂:銀行が中央集権化していると、どんなデメリットが生まれますか?

Karen:もっと良い金融サービスが生まれたとき、消費者が「自分のデータを他の新しいサービスに移行させたい」と考えても、消費者にデータの権限がなく自由に動かせない可能性があります。

これは健全ではありませんよね。今の銀行ができることは「貯金」「引き出し」「ローンを組む」といった伝統的な仕組みだけ。金融にはそれ以外にも資産形成などさまざまな用途があるのにもったいないです。

金融データがどこか特定の機関に握られていると、新しい方法で金融データを活用できるベンチャーが出てきても発展しにくくなります。

だから消費者ファーストでデータ構築できる社会を目指したいです。GDPRも積極的に進めていきます。

消費者のデータは誰のものか。電子決済の普及による新しい課題2

ベンチャー企業に合った新しい資金調達方法

大坂:これまで、起業するときはベンチャーキャピタルや銀行から融資を受けるのが一般的でしたが、今後はブロックチェーン技術により仮想通貨やトークンで資金調達する手法「ICO(Initial Coin Offering)」が活用されるようになると思うんですね。

でも、今の日本では「日本国内でICOをやってはいけない」とされ、投機的な価値を持つトークンを各規制機関のルールのもと投資商品として発行する「STO(Security Token Offering)」を重視しつつあり、年内にSTOを緩和するかもしれません。

台湾ではICOやSTOの取り組みはどのように行っていますか?

Karen:去年から国会に「金融庁でICOの監督を入れてほしい」と提案しているのですが、金融庁はどちらかと言うと監督したくないと考えています。

というのも、セキュリティトークンは法律上誰かが訴えたときに罰金などでは済まずに刑法違反になってしまう。厳重な監督になるかもしれない、というリスクがあるんです。

 

大坂:STOに対してはいかがですか?

Karen:ICO同様に、手を入れたくないようですね。今の金融庁長官は、フィンテックがトレンドとして止められないのでオープンな態度を取っていたのですが、明確なレギュレーションがあったほうが投資が活発になり市場としても望ましいのではないかと考えています。

最近金融庁のもとにさまざまな業者が集まってSTOに関する会議を行ったので、今年6月にはSTOの金融対策がまとまる予定です。

消費者のデータは誰のものか。電子決済の普及による新しい課題1

大坂:かなりスピーディーですね。

Karen:STOやクラウドファンディングはベンチャー企業にとって重要な資金調達方法だと思っているのですが、それでも法律は必要なので、金融庁に監督として入ってほしいんです。

金融庁は伝統的な金融の法律でレギュレーションを作っているので、現段階では一定金額を超えなければレジストレーションはいらない、という緩めの設定をしています。3000万台湾ドル以上であればサンドボックスに入る必要がありますが、それ以下は入らなくて大丈夫なんです。

日本円に換算すると1億円から1億2000万円くらいがボーダーラインですね。

大坂:それはおもしろいですね。日本は融資含めて調達しやすい状況ではあるものの、資金調達の方法は限られています。上限を設け「これより下であれば自由にやっていい」と豊富な選択肢をスタートアップ企業に与えることは、とても有意義だと思います。

Karen:証券取引の名義がないとできないので、これまでは成功例がありませんでした。今は資本金が一億円以上ないとクラウドファンディングができない状態で、ハードルが高すぎるので政府と調整しているところです。

また、STO本来の目的は資産の分散ですが、台湾の専門投資家、日本で言う指定投資家でないとSTOに入れないことも課題で、そこも調整中です。

一般的な収入の人々はトップ企業の株を買えませんが、STOなら普通の若者でも資産構成できるようになりますから。

大坂:楽しい話が伺えました。本日はありがとうございました。

 

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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