ビジネスチャンスを掴むには、法律が整っている必要がある。
元テック系起業家であり、現在は若手2年目の国会議員として活躍するKaren Yu氏は「中国のペイメントサービスが台湾中で使われていて、なぜ自国のサービスを拡大させられなかったのかと悔やまれる」と述べた。
新米議員でありながら、ブロックチェーン関連法案策定のために台湾政府にアプローチしている彼女は、台湾トップの大学・台湾大学卒のエリートでもある。
今回AIre VOICE編集長の大坂氏が対談し、新しいビジネスモデルを立ち上げるときに気を付けるべき法律の重要性や、新技術を生かしたビジネス展開を促進させるサンドボックスについて伺った。
法整備が間に合わず、大きなビジネスチャンスが中国のものに
大坂:Karenさんはブロックチェーンに関する法案の策定など、デジタル経済を活性させる取り組みを積極的に行っていらっしゃいますが、もともとIT業界への興味があったのですか?
Karen:実は、1999年から2000年までのITバブル時代に起業した経験があります。
ITは変化が速い産業なので、そこで多くの課題を感じました。私の世代はすべての産業でITやテクノロジーが使われている世代で、いろいろな起業家がいます。
海外のビジネスモデルをコピーする人もいれば新しいビジネスモデルを立ち上げる人もいますが、どのビジネスモデルであっても法律が追いついていないことが課題になっていますね。
大坂:変化が速いIT業界に法律が追いつかなかったと。
Karen:ええ。起業したばかりで一気にスタートダッシュを切るべき大事な時期に、現状だと法律違反になって国内展開できないことを知るなど、苦い経験をしました。法律が整備されていないと、本来自国で活躍できた優秀な人材が海外に出てしまうこともあります。これはどう考えても台湾にとって良くないことですし、就職のチャンスが平等とは言えません。シリコンバレーでできることが台湾ではできないとなれば、若者にとっても不公平でしょう。だから台湾でもっといい環境を作りたいと考えています。
大坂:その経験があったからこそ、サンドボックス特別法の推進を行っているんですね。
Karen:はい。サンドボックスとは、実際に法整備が定まっていなかったり、ガイドラインがなかったりする新しいビジネスモデルを国がサポートし、取り組みを推奨することです。
人々の生活を便利にする新しいテクノロジーが出てきても、法律がないまま広まっていくと野放しになってしまって混乱を招きます。
混乱を防ぐには、国が枠組みを作り「この中で自由にやってください」と推奨するのが理想的でしょう。だから台湾の金融庁へ法の策定をするように提言しています。
大坂:議員2年目、38歳という若さで台湾の金融庁へアプローチなさっているのは本当に素晴らしいことだと思います。
Karen:私は若い年代の起業推進を担当しているのですが、自分自身が若手議員なので少ない人員しか避けません。
財政委員会にも入っていて、中央銀行や金融庁や財政部と仕事をしています。
台湾のペイメントサービスを推進すべきタイミングがあったんですが、法整備が間に合っていないためにサービスを立ち上げられず、乗り遅れてしまったなと感じています。
大坂:本来は国内のサービスを普及させられたはずなのに、法が足かせになってうまくいかなかったということですね。
Karen:今では中国のペイメントサービスがあちこちで使われていて、なぜ自国のサービスを拡大させられなかったのかと悔やまれます。
デジタライゼーション(IoTの進化によってあらゆるものにデジタルを適用すること)の面で法律が整っていなかったのが致命的でした。
特に金融業界は伝統的な考え方を持っている人が多くて、「銀行は銀行、保険は保険」というように明確な区別をしていて、エフェクターやインターセクターがくっきりと分かれています。
「金融業界内で違う部門をつなげられるようにしたい、そうしたらもっと可能性が広がるはずだ」と考え、サンドボックスを進めたいと思うようになりました。
大坂:とはいえ、革命的なものは反発が強く受け入れられにくいのではないでしょうか?
Karen:そのとおりです。
こうした反発を解消するために、海外の法律を勉強してケースごとの対処法を学び、台湾に適したサンドボックスを模索しています。
一番のコンセプトは「責任のあるイノベーション」で、サンドボックスによって参入したい人がどんどん参入できる枠組みを作り、それを監督する人も存在する環境を作りたいんです。
また、イノベーションを起こす場合はブレーンを変える必要があるので、監督を随時変えることがサンドボックスの核になっています。
580億円を失って生まれた日本の変化
Karen:台湾人は日本のほうが進んでいると思っているので、日本の産業状況が気になりますね。
大坂:テクノロジーの分野で言えば、日本は遅れています。
なかなか挑戦しない国民性があるので、新しい技術を開発しても会社の承認が下りないこともあり、さほど発展していないと思いますよ。
Karen:それは意外です。
大坂:日本ではコインチェックの件が有名ですが、仮想通貨取引所にハッカーが侵入し、580億円相当の仮想通貨が不正に出金されました。
そのときに、日本国内ではブロックチェーンに対するネガティブなイメージがついたと感じています。
Karen:その事件のことはよく知っています。その頃、日本の取引所が急に厳しくなった印象を受けました。
大坂:そうですね。ただ、今の金融庁のスタッフは以前に比べてかなり柔軟になってきました。
インターネットが広まりだした頃、日本でもベンチャー企業が一気に出てきたのですが、国がテクノロジーにうまく対応できなかったんです。
だから今は「これからは民間と行政が一体になって取り組んでいこう」という意識が生まれています。
(後編へ続く)
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼