ブロックチェーン

2019.04.02 [火]

ブロックチェーンは、アートの歴史や物語を保証する血統書になりうる

飛沫や素手などの前衛的な手法で唯一無二の作品をつくる現代アーティスト・KOSUKE MOTOHASHI。

彼の独創的な思想が生み出す作品は、ギャラリーだけでなくレストランなどイノベーティブな感性を求める空間からの引き合いが多い。

どのようにして彼は作品と向き合い、そして思考を重ねてきたのか。また、彼の見据える未来とはどんな姿なのだろうか。

アート系プロジェクトチーム〈ArtHub.jp〉代表の野呂 翔悟氏が、彼の死を強く意識した表現を生んだ背景と、価値観が大きく変容していくこれからの時代におけるアートの価値について訊いた。

 

ーまずは自己紹介をお願いします。

アーティストのKOSUKE MOTOHASHIです。真実を形にするというテーマでアートワークを制作をしています。

ブロックチェーンは、アートの歴史や物語を保証する血統書になりうる

ー真実とは具体的にどう言うことでしょうか?

確かなもの、人間が受け入れざるを得ないものと捉えています。

例えば生命体にとっての「死」、個体にとっての「衝動」、宇宙にとっての「ミクロがマクロを構成する構図」などです。

最後の例だと、心臓の数が命の数なら私たちは1つの命ですが、細胞で数えると1人に対して何兆もの命がある。素粒子の存在も含め「小さなものが集まって全体を構成している」という構図は、人類が生まれる前も滅びた後も、ずっと存在し続ける、

1つの真実なのだろうと。そういった信じても良さそうな、確かなものを真実と呼んでいます。

ブロックチェーンは、アートの歴史や物語を保証する血統書になりうる

ーなぜ真実を形にすることをテーマにしているのでしょうか?

そもそもアートって、人間が何かを確認する儀式として、宗教や学問より昔から存在していたと思うんです。

誰かが作ったものを誰かが観て楽しむという一連の営みによって、信仰対象や権威、アイデンティティ、表現力や技術力を確認してきた。例えばコンテンポラリー・アートならその時代の様子や社会背景が反映されているし、日本だと古来から神を宿す”モノ”をつくってきました。

無意識かもしれませんが、そんなふうに人間はアートを媒介とした確認の儀式を昔から続けているように感じたんです。

そこで自分なら何を確認の対象にしたいか考えたとき、ローカルにだけ通用するものでなく、人間全体が受け入れざるを得ないものや、信じて良いものを形にしたいと思ったんです。

 

ー作品を通して、見る人に何を訴えたいのでしょう。

訴えたいというより「媒体になりたい」と言うほうが近いですね。

例えば死は誰にでも訪れるものですし、僕が「死は真実だ」と言わなくても、当たり前に存在しています。

それを改めて認識・確認することに役立つ媒体が作品や、アーティストの存在です。自分にとっての「真実」を模索している中で見つけたものをアートで表現して、共有していきたいと思っています。

 

ーアーティストとして活動を始めたきっかけは?

気づいたときには絵を描いていたので、きっかけというと難しいのですが、アーティストとして活動し始めたのは2013年頃です。

昔から死を強く意識していたため、自分のエネルギーを何かに渡したいと思って作品を描き始めました。人間の身体は死に向かって全力疾走している。

人生はエネルギーが消えるまでのその一瞬に、どれだけ自分のエネルギーを誰かに渡せるか勝負!みたいなゲームだと思っていて。

 

ー生きている間はそのエネルギーを渡せる期間だと。

そう思ってアートを始めました。自分のエネルギーを最も純粋に伝えられるのはアートだと思ったし、もし僕が神様だとして「KOSUKE MOTOHASHIの身体をどう使えば世の中に最適か?」と考えたとき、やっぱりアーティストだろうと。

 

ー次にアートとお金という切り口でお話をお聞きしたいと思います。資本主義経済の中では、一般的にアートはギャラリストや批評家などの評価によって価値が決まります。自らの表現と見る人の評価のバランスをどのように考えますか?

どこまで人を信じるか、っていう話だと思っています。自分がいいと思ったものを、他の人もそう感じる能力を持っていると信じるかどうか。自分にとって良いことは世界にとっても良いことだと僕は信じてますから。

個展でも感じますが、自分がエネルギーをかけた作品って、観る人には分かる。欲や下心を持ったり、間違った方向に進んでいなければ、命をかけているものに感動しない人はいないと思います。

 

ーMOTOHASHIさんの話を伺っていると、人間に対して、表現を通して貢献しようという強い意志が感じられます。その使命感はどこから来てるのでしょう?

使命感というより、自分が楽しいだけじゃ満足できないだけです。

例えば、自分が明日死ぬことになったら、自分の持っている何かを誰かにあげるじゃないですか。それが明日なのか、何十年後なのか、という違いなだけです。僕は特に死を意識する経験が多かったからじゃないですかね。

ブロックチェーンは、アートの歴史や物語を保証する血統書になりうる

ーいつからそのように考えるようになったんですか?

昔からです。小さい頃動物をたくさん飼ってたり、阪神・淡路大震災や、東日本大震災を通して死を実際に目にしたことや、僕自身も死の危機に瀕した経験が人生で2、3回あって。

 

ーその体験から影響を受けていると。

そうですね。同時に、身体の有限性も感じました。例えば怪我をしても皮膚が再生することも、意識や思考が空中分解しないことも、身体中が命を続ける為にエネルギーを使っているおかげなんだなと感じて。

そんな中で、自分の命の使い方を考えると、しょうもないことやってたらだめだなと思いました。そのときからアーティストとしての方向性が決まっていった気がします。

 

ーMOTOHASHIさんの活動の意味やアートの価値について、どう捉えていますか?

アートというか、何かを感じるための媒体が無くなると、人はその対象を心の中から失うんじゃないでしょうか。

例えば神棚がなくなると、神様の存在を認識するのが難しくなるかもしれない。ダミアン・ハーストも動物の死を扱ってますが、こうした作品がなくなると、人と真実との間に何かしらのロスが生まれるのではないかと思っています。

 

ーこの先の時代におけるアートの必要性について教えてください。

僕は20世紀と21世紀で「人間らしさ」の基準が変わると思います。

20世紀は自然に対して人間が理性的であること、賢いことが誇りだった。21世紀を「人類と世界」という映画として想像すると、登場人物は自然と人間だけじゃなく、AIみたいなロボットも加わってくる。そんな時代になっていく中で、人間の自尊心は心があること、そして何かに感動できることになると思うんです。

アートは、その誇りを象徴する最上級のものになる。例えばもし地球に宇宙人が到来して、人間から何かプレゼントするとしたら、それはダイヤモンドとかじゃなく、美術史に残る巨匠のマスターピースや、バッハのカノンとかになると思うんです。

ブロックチェーンは、アートの歴史や物語を保証する血統書になりうる

ーその考え方はとてもおもしろいですね。人間として何が大事か、がイメージしやすいです。

漫画や映画は人間の願望の結晶だから、これからの世界は現実が漫画や映画を模倣していくんじゃないかと思っていて。

例えば「スターウォーズ」シリーズには、宇宙人と人間とロボットが登場しますよね。あの世界で描かれた社会が訪れたとき、人間の持ち味は、絵を描いたり、物語や音楽を作れることになるような気がしています。

 

ー落合陽一さんの提唱する「デジタルネイチャー」に近い考え方な気がします。ロボットも人間も垣根がないという。そこでの人間の持ち味は、芸術性や感性、つまり人の心を動かしたり感動したりできることだと。

はい。僕が「日本好き」だからかもしれませんが、これからの時代は「和をもって尊しとなす」が世界にとって大切な価値観になると思っています。

コンピューターや自然との共存が進んでプレイヤーの数が増えて、いろんな価値観の物差しが生まれ始めている時代に、「でも結局”和”が大事だよね」という思想はパーフェクトだって。

 

ー「和をもって尊しをなす」という考え方が重要になってくると、ブロックチェーンは外せない技術になると思っています。お金の在り方が変わってきて、やがてお金がいらない時代がくるかもしれませんね。

お金が要らない時代になるんじゃないですか。みんなお金のこと嫌だって言うから(笑)。みんなが嫌なら、いずれなくなると思います。

ブロックチェーンとアートということで考えると、ブロックチェーンはあくまでインフラですから、表現そのものには直接的に関係するかどうか僕は分かりません。

ただ、産業としてアートの価値を考えたとき、ブロックチェーンがアートのメタな「経年の美」、つまり歴史や物語を保証する血統書になりうる。

それが信頼できるようになったら、より「信頼が重要なビジネス」においては大きな役割を果たすと思います。

 

ートレーサビリティにおけるメリットですね。他にもおもしろいことが起こるのではないかと考えいて、例えばアート作品を買うときって、お金を払って買うわけじゃないですか。でも、これからはアーティストがSNSに作品の写真をアップすると、そこに集まってくる「いいね」がお金の代わりになる、というような時代もあり得るのではないかと思うんですよね。

まさに評価経済ですね。

 

ーそうですね。これまで作品を売らなければ生活できなかったアーティストが、SNSなどWEB上で作品を発表するだけで生活できるようになってくると、アーティストの数もアートを楽しめる場も増えると思います。そんななめらかな世界になれば、人間の感情的な刺激が増えるのではと。

僕も思いますよ。最近心がけていることは、作品を「才能払い」で買ってもらうこと。

例えば、花屋さんに作品を買ってもらうときは、お金の代わりに作品の価値に相当する花をもらう。バーなら作品の価値に応じてお酒を飲ませてもらう。

お互いの才能を交換すると、僕も相手もハッピーです。まだちょっとしか試せていませんが。

 

ーいずれブロックチェーンによるインフラが整って価値を交換できるシステムが生まれることで「才能払い」を広められるかもしれません。最後に、今後の目標を教えてください。

人間の感性を覚醒させたいと思っています。

感性がなければ、人生ってただの「現象」になっちゃうじゃないですか。おいしいものを食べても感性がないとただ「エネルギーを得た」だけでしかない。

感動する能力・感じる能力って、守らないと失われがちだと思うんです。

子どもの頃は何にでも感動できるけど、大人になるにつれてどんどん感性が乏しくなっていく。その能力をアートを通して、覚醒させる。極端な話、将来人間が知識や理論を忘れて、ただ感性だけが豊かな、子どものような存在になったら面白いなぁと思ってます。

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