スペインを拠点に、ファッションブランド「SHOOP(シュープ)」のデザイナーや音楽アーティスト「YYIOY(ワイワイアイオーワイ)」として活動する大木葉平さん。
大木さんは、世界中のファッションやカルチャーを発信するオンラインメディア「HYPEBEAST」や、ファッション情報誌「i-D JAPAN」から取材を受けるなど、クリエイターとして注目を集めている。
そんな大木さんに、ファッションと音楽におけるブロックチェーンの可能性と、ヨーロッパにおける先進的なブロックチェーンの活用事例を聞いた。
唯一無二のディティールにこだわり、新しい価値観を創造
――大木さんはスペイン在住とのことで、わずかな日本滞在期間のお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。早速ですが、大木さんの活動内容とご経歴をお聞かせいただけますか。
大木:スペインのマドリードを拠点として、ファッションブランド「SHOOP(シュープ)」のデザイナーとして活動しています。
ほかのブランドやアーティストのグラフィック作成、YYIOY(ワイワイアイオーワイ)名義での音楽活動なども行っています。
日本からスペインに渡ったのは15歳のときです。スペインでは高校から専攻を選ばなければならないため、高校でアートを専攻し、大学へも同じくアート専攻としてマドリードの芸術大学Universidad compultense de Madridに進学しました。
「SHOOP」はその頃に立ち上がったブランドで、立ち上げ当初からグラフィックを手伝い、その後ブランドに正式加入しました。
――「SHOOP」はどのようなブランドなのですか。
大木:「SHOOP」のコンセプトは、ユニセックスなコンテンポラリーデザインです。
コレクションごとにテーマを決めながら、リアルクローズとして僕たちにしかできないディティールにこだわり、おもしろい見せ方や新しい価値観の提案を目指しています。
これまでに、音楽にインスピレーションを受けたコレクションや、フェイクニュースや“Post truth”を皮肉ったコレクションなどを発表しました。
ブランドを立ち上げたのは、スペイン人の相方であるMiriam Sanzです。Miriamはスペインのファッション業界でマークジェイコブズのバイヤーなどを経験したのち、自分のブランドを持つという子どもの頃からの夢を叶えるために独立しました。
現在「SHOOP」はMiriamと僕の2人で運営しており、デザインの企画から生産、卸しまで、すべて自社で行っています。日本では、ベイクルーズグループの「UNFOLLOW」や渋谷・神南にある「SULLEN」などで取り扱っていただいており、自社ECでも販売しています。
そのほか、グラフィックデザイナーや音楽アーティスト、雑誌などとコラボ商品の制作も積極的に行っています。
――音楽アーティストYYIOYとしての活動も教えてください。
大木:オリジナルの楽曲制作のほか、川谷絵音さんがプロデュースしているバンド「DADARAY」のリミックスや、エレクトロニカ系の音楽アーティストであるSeihoくんとの楽曲制作なども行っています。
音楽活動は5年ほど前から始めましたが、音楽は子どもの頃からずっと好きでした。ジャズピアノをずっとやっていて、その経験が今に活きています。
――ブランドとして、個人としての展望があれば、お聞かせください。
大木:ブランドとしては、「SHOOP」をファッションブランドではなくクリエイティブ集団として広めていきたいです。
もっといろいろなアーティストやグラフィックデザイナー、映像クリエイター、ITエンジニアなどと幅広くコラボし、これからの文化の一翼を担っていきたいと考えています。
ITエンジニアとであれば、コレクション発表でまだ誰もやったことがないような見せ方をしたり、VRやAIを使って、訪れること自体が楽しくなるようなECサイトをつくったりしたいですね。さらにビジネス自体ももっと世界に広げ、ゆくゆくは世界を代表するブランドになりたいです。
個人としての理想は、自分のお店を持つことです。また、今はブランドの方に時間を取られて音楽活動ができていないため、音楽制作の時間を確保して、近い将来に新作を発表したいと思っています。
スペインでは、生産背景がすべて見られるブランドも
――ヨーロッパのアパレルや音楽などの領域で、ブロックチェーンを用いた新しい動きはありますか?
大木:はい、少しずつ新たな動きが見られています。
アパレル領域ではスペインのブランドが5年ほど前からブロックチェーンを使用していました。
インドを拠点にフェアトレードで生地から縫製までの生産をすべて行っており、各商品にQRコードを付け、誰が生産に携わったのかを顔写真付きですべて見られるようにしています。
お客さんが商品へのリンクをSNSに貼ってほかの人に紹介し、誰かがそのリンクから商品を購入した場合、紹介した人に売上のインセンティブが入るという仕組みも導入しており、情報の拡散や顧客の獲得につなげています。
ヨーロッパでは、フェアトレードのためにブロックチェーンで生産背景を明らかにする取り組みを行っているブランドがあるようです。
僕たちのブランドはまだ小規模なので、今のところは生地の仕入れ先や生産工場に直接足を運んだり、密に連携を取ったりすることで生産を管理していますが、ブランドがもっと成長すれば同じように管理していくことは難しくなる。
そのときに、自分たちのブランドの服を最悪な環境、最低の賃金で子どもなどが労働してつくられたものにしないよう、テクノロジーを持つ企業との協業機会を利用して、生産背景を明らかにする取り組みから始めていければと考えています。
お客さんにとっても、自分たちの着ている服がどのように生産されたか分かるようになれば、多少高いお金を払ってでも劣悪な環境でつくられていない服を買ういいきっかけになると思います。少なくとも、ファストファッションを購入している人が「なぜそこまで安く売られているのか」を知ったうえで選択して購入できるようになるでしょう。
デザインや音楽のコピー防止に期待したい
――ほかに、大木さんの現在の活動領域において、ブロックチェーンに期待することはありますか。
大木:まず、デザインのコピーや模倣品販売の防止です。
特に、デザインのコピーは大手のファストファッションに何度もされてきました。
彼らの名目は今のトレンドを取り入れるというもので、周りのブランドからもコピーされたという話をしょっちゅう耳にします。最近はInstagramなどSNSで簡単にいろいろなブランドのデザインを見られるようになり、コピーされる機会も増えました。
本来は、デザインが欲しいのなら買うべきです。ブロックチェーンの活用によって、他のデザインを使うことへの代償がしっかりと払われ、デザイナーの権利が守られるようになってほしいですね。
模倣品対策は主に大手高級ブランドが抱えている問題ですが、じきにブロックチェーンを活用した対策を始めるところも出てくるのではないかと思います。
音楽においても、コピー防止には期待したいです。ただ、音楽にはサンプリングという文化があり、デザインや写真にもコラージュという手法があるため、あまりに厳しく規制されてしまうと表現が難しくなります。
あくまでも、お金目的でコピーされることをなくしたいという思いです。
ブロックチェーンにより、お金の流動が今よりもスムーズになることも期待しています。マスターカードがブロックチェーンを使った取引システムを開発していますが、入金のタイミングがもっと早くなれば支払いも楽になる。サービスが始まったら、ぜひ利用したいと思っています。
――最後に、業界にこだわらず、ブロックチェーンに期待することはありますか。
大木:時代の進化や社会への貢献です。ブロックチェーンが、みんなにとっての社会が良くなるためのツールになればと思っています。
――貴重なお話をありがとうございました。
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(取材・文/三ツ井香菜 編集/YOSCA)
(フォトグラファー/八木英里奈)