ファッションに関連するECブランドの立ち上げから運営までをトータルでサポートしている3rd株式会社。
昨年はインフルエンサーのブランド立ち上げを支援するプラットフォーム「タンジェリン」をリリースし、すでに5ブランドを立ち上げるなど、個人や小規模な法人のブランド立ち上げに実績がある。
ブロックチェーンが普及すると、ファッション業界にはどのような可能性が広がるのか。
同社の代表取締役である川村匡慶さんに、ファッション業界全体とインフルエンサーのブランド立ち上げという2つの視点から語っていただいた。
個人が気軽にブランドを立ち上げ、ビジネスができる世の中に
――本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは川村さんご自身のご経歴と、3rd株式会社の事業内容についてお聞かせいただけますか。
川村:初めはECの事業会社に勤め、事業の運営や新規事業の立ち上げなどを経験しました。
その後、韓国のファッション企業の日本進出を支援する企業の立ち上げに参画し、輸出入や日本国内でのブランディング、マーケティング、ECサイトの構築に携わりました。
ECに関する業務には広く関わらせてもらったため、その経験をもとに3年ほど前に3rd株式会社を設立しました。
3rdでは、ECブランドの立ち上げからブランディング、マーケティング、商品開発、物流までをトータルでサポートしています。
また、ブランディングやマーケティングのサポートから派生する形で、ECと直接関係のない企業のSNSアカウントについてもコンサルティングや戦略立案を行っています。
昨年は、インフルエンサーである個人のファッションブランドの立ち上げを支援するプラットフォーム「タンジェリン」をリリースし、半年間に5ブランドを立ち上げました。
インフルエンサーのビジネスは、企業からお金をもらってPR投稿をするというのが基本ですが、本当に自分がいいと思っているものだけを投稿することはなかなかできません。
一方でフォロワーの期待を裏切りたくないと考えるインフルエンサーも多いため、企業のPR投稿以外にも自分がいいと思っているものをつくって売りたいという需要が増えているんです。
しかしブランドの立ち上げは起業に似ていて、仕入れ、集客、物流、カスタマーサポートなどの一連の経済活動がすべて詰まっています。
そのハードルの高さゆえに、自分の好きなファッションアイテムを売りたい、ブランドをつくりたいというやる気や才能があっても手を出せないことが多い。
そこで僕らがその部分を受け持ち、やる気や才能のある人が自分のやりたいことに本当に集中できる環境をつくることで、お互い幸せになれるのではないかと思っています。
僕らの会社が目指しているのは、個人が好きなように自分のブランドを立ち上げて、一つのビジネスを回していける世の中にすること。
例えば、以前アーティストはレーベルに所属しなければ音楽を発信することはできませんでしたが、今では動画サイトやSNSなどで直接発信し、活躍できるようになりました。小売りでも同じように、個人のブランドを直接販売してファンをつくりたいです。
商品の生産経路が追えれば、新たな付加価値がつけられる
――ブロックチェーンはファッション業界にどのような可能性をもたらすと思われますか。
川村:ファッション業界の商品には、製造国や生産経路が曖昧なものが多くあります。
ブロックチェーンが普及して商品が手元に届くまでの履歴が明らかになれば、そもそも誰が企画をしたのか、どのような原料を使っているのか、どこの工場で生産されたのかが見えるようになる。
それは単純に消費者の安心につながるだけでなく、付加価値にできる部分が増えると考えています。
例えば、現時点で服の人気を主に左右しているのはブランドやデザイナーの人気ですが、ブロックチェーンによって、この工場で生産されたものは品質がいい、自分が着心地いいと感じる服にはこのパタンナーが関わっていると分かれば、工場やパタンナーの名前も付加価値になる。
平たく言えば、商品の単価がどんどん下がっている今のファッション業界で、新たな価値をつけて価格を上げられるかもしれません。
何を経由してきたかが見えれば見えるほど、そこに価値を見出せるので、きっと今感じていないことも価値になります。
選び方の基準も増えるでしょう。環境汚染にとても配慮されてつくられた服があったら、服には興味がないけれど環境保護には興味があるという人が価値を感じて買うかもしれません。
現状、服にお金をかけているのはファッションに興味がある人ばかりですが、環境に配慮されているのであれば高くても買う人が出てくるように、今までとは違う売り方ができるのではないでしょうか。
中古市場も変わるのではないでしょうか。今や質屋や中古販売店だけでなく、メルカリやヤフオクなど個人同士で売買ができる場所が活発になり、売られているブランド物の商品が本物なのかどうか見分けがつきにくい状況です。
ブロックチェーンによって最初に販売された場所が明確に分かれば本物かどうか簡単に判断でき、中古の売買は今よりももっと活発になるでしょう。
付加価値の可視化による市場の拡大に期待したい
――現在携わられている領域に関して、ブロックチェーンを使って取り組まれていることはありますか。
川村:具体的な活用とまではいっていませんが、ブロックチェーンによって買い手と売り手の情報交換をスムーズにしたいと考えています。
インフルエンサーや個人が立ち上げたブランドで最も大きな価値につながるのが、誰がどのような思いで販売しているのかを発信することです。
商品を企画した背景やこだわりなど、物を見ただけでは分からない情報を伝えると評価が上がり、売上につながります。今は売り手がSNSなどを通じて自ら発信していますが、ブロックチェーンによって買い手の方からも情報を取得できれば、もっと価値が伝わりやすくなるでしょう。
――ファッション業界にこだわらず、ブロックチェーンに期待することはありますか。
川村:今見えている商品の物理的な価値以外の商品情報が可視化されれば、新しい付加価値が生まれるでしょう。その結果、今まで以上に世の中の経済が活発になることを期待しています。
これからブロックチェーンが普及して商品の履歴がはっきりと追えるようになれば、商品の綺麗な経歴も重視される可能性があるため、商品の経歴をデザインする職業も生まれるかもしれません。
今は想像もつかないような職業が成り立ったらおもしろいですよね。
――貴重なお話をありがとうございました。
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ライター/三ツ井香菜