2020年を目処に、メガバンク数社が数万人単位のリストラ計画を発表しました。
バブルの時代には、銀行員になれば一生安泰とも言われていましたが、地方銀行や信用組合だけでなくメガバンクの銀行員にもリストラの危機が迫っています。
その理由は様々ありますが、AIの発達などにより人ができる作業が減少したことは特に大きな要因です。アナログな作業の大半を機械に任せることにより、人間に作業をさせる必要がなくなったためです。
金融業界へのAIの台頭を象徴するのが、イギリスで生まれたオープンバンキングです。オープンバンキングの登場および普及により、従来型の金融システムを大きく変える可能性があります。
オープンバンキングを理解しよう
オープンバンキングは、フィンテック先進国のイギリスが国策として推進している仕組みです。
イギリスだけでなく多くの先進国でオープンバンキングは急速に広まり、日本でも具体的な取り組みが開始されています。
オープンバンキングとは「顧客の同意を得た後に、銀行が保有する顧客データを提携企業が利用可能となる仕組み」で、API連携と呼ばれます。
銀行が自らの顧客データを、銀行が作成した「合鍵」を用いることで第三者が取得できる方法です。
オープンバンキングの登場が意味するのは、オープンAPIの活用により従来は銀行などに限定されていた金融サービスが、様々な競合相手が増えることによる競争の激化です。
事実、オープンバンキングの登場により、GoogleやAmazonなどの巨大グローバルプラットフォーム企業が金融サービス事業に参加しはじめています。
利用者も、オープンバンキングに好意的になりつつあります。オープンAPIを導入するとIDやパスワードを入力することなく利用できるようになるため、オープンバンキングの普及は歓迎すべきことです。
ただし、オープンバンキングにはまだ一般の理解が不足しています。今後は、利用者への意識改革や利用法のレクチャーをしていくことが大事です。
世界のオープンバンキングに関する動向
イギリスでは、長らく大手4銀行(バークレイズ、HSBC、ロイズ、RBS)による寡占化が続いていました。そして、金利の不正操作やマネーロンダリングなどが度々起こり、イギリス政府はこの寡占化に危機感を抱いていました。
そこで誕生したのが、オープンバンキングです。イギリス政府は寡占化状況の改善、金融サービス利用者の利便性の追求、さらにはフィンテック先進国であることのアピールのために、オープンバンキングを推進しています。
イギリスでは2016年2月に「オープンバンキング・スタンダード」という報告書を示しました。この報告書では
① 銀行の商品・サービスのデータを「オープンデータ」として利用可能とすること
② 顧客データを活用するために「オープンAPI」を開発すること
が記されています。
この報告書で、オープンバンキングの基本的な考え方やルール、開発の流れなどが示されました。
イギリス政府主導の下、銀行や多くの金融機関でAPIが導入されています。ただし、イギリスにおいてもまだ一般国民の理解が進んでいません。標準技術の整備やエコシステムの構築が課題となっています。
イギリスでオープンバンキングが進む中、欧州でもオープンAPIを義務づける流れができつつあります。
ただ、その取り組みには国によって差があります。例えばドイツは、政府による積極的なオープンバンキングの導入をする予定はないとしています。
アメリカは世界でも最先端のフィンテック先進国ですが、オープンバンキングに関する取り組みがやや遅れています。
これは、アメリカ国内で連邦政府と州政府とでフィンテック企業に対する主導権争いがあるためだと考えられます。
ただし、アメリカはオープンAPIに取り組んでいる銀行が多いこと、すでにGoogleやAmazonなどが金融サービスに参入しているため、急速に発達する可能性も否定できません。
その他、日本以外のアジアではシンガポールが独自のフレームワーク作りをしている他、インドなど数多くの国でオープンAPIを国策として進めています。
事実、中国など多くの国で日本をはるかに上回るレベルでアジアではキャッシュレス化が進んでいます。スマートフォン普及率も高いため、ますます広がっていく可能性があります。
日本のオープンバンキングに向けた取り組み
日本では銀行法の改正を続けて行い、オープンバンキングが導入されやすい環境が整いつつあります。
2016年5月の銀行法改正は、銀行による出資上限が緩和されました。つまり、金融機関がフィンテック企業に対し、出資しやすくなったのです。異次元の金融緩和の一環であるとも言えるでしょう。
さらに2017年5月の銀行法改正により、日本の銀行はオープンAPIに対応することが義務づけられました。
これにより、メガバンクやネット銀行大手の住信SBIネット銀行などはすでにオープンバンキングの仕組みを取り入れています。2020年ごろには、80行以上の銀行が、オープンバンキングのサービスを開始する見込みです。
この流れは、顧客情報などを囲い込むことが独占禁止法にあたる可能性があるとの、公正取引委員会からの指針が影響しています。
そのため、日本においては銀行を含めいわゆるビッグデータを持っている企業は独占禁止法に違反しないか、注意する必要がある時代になっています。
オープンバンキング以前にも、「スクレイピング」という方法で金融機関からデータを得る方法がありましたが、これには顧客が企業にIDとパスワードを伝える必要があること、さらに銀行側が顧客データにアクセスされていることを認識できないことなどの問題点がありました。
一方オープンバンキングは、オープンAPIを利用することにより、あらかじめ銀行と契約するため利用者はIDやパスワードを伝える必要がなく、より利便性が高まります。
日本におけるオープンバンキングがすでに活用されている例として、家計簿アプリがあげられます。
家計簿アプリは年々多機能化し、手動入力だけでなくレシート撮影による自動入力機能も備わっています。
さらに、銀行やクレジットカード・電子マネーなどを登録することにより、利用履歴や残高を自動取得し、家計簿に反映されます。すでに数百万のユーザー数をほこる家計簿アプリもあります。
これまで、家計簿アプリはスクレイピングを利用していました。しかし、上述のように銀行法が改正・施行されたことから、家計簿アプリを提供する企業が電子決済などの代行業者をしての位置づけが明確になりました。
すでに銀行との連携が進んでいる家計簿アプリにおいて、オープンAPIが普及するきっかけとなる可能性は高いです。
現時点ではオープンAPIの導入は「努力義務」とされているため、不透明な部分もあります。しかし、日本政府はオープンAPIの制度的枠組みを整備することに意欲を高めています。
総務省が発行する平成30年度版の情報通信白書にも、世界的にフィンテックの動きが加速していることから、日本においても利用者保護を確保しつつも銀行などの金融機関とフィンテック企業との連携や協働による革新を、制度的・体系的に進めていく必要性を強調しています。
このようにオープンバンキング導入を広まっていますが、様々な懸念を解消することが、日本において一気にオープンバンキングが普及するでしょう。
どのような懸念の声があるかというと、大きく分けて2つのパターンに集約されます。
1つめは、「だれでも自由に接続できるようになって、セキュリティやプライバシーは大丈夫?」というものです。2つめは、「オープンAPIを導入してしまうと、誰もが同じサービスを提供できてしまうので、自社の優位性が出せないのではないか?」というものです。
これは、普通に考えれば当然の懸念かもしれません。顧客データや取引履歴などの情報は、できるだけクローズドな状態で囲い込みたいというのが常識だからです。
しかし、これらの懸念には誤解があります。まず、1つめのセキュリティやプライバシー面ですが、仮にオープンAPIを導入したところで、外部にサービス情報などが流出するわけではありません。
むしろ、情報をオープンにすることにより、自社の情報への接続可能性が高まり、ビジネスチャンスが広がることにつながるとも考えられます。
2つめは、情報がクローズドな状態だと全ての情報を自社で管理できることからくる懸念です。
しかし、オープンAPIにすることにより、新たなサービスが生まれる余地が生じます。これは、AIによりますます自動化していくインターネット社会や金融業界に対応するために、従来型の金融業界に変革を迫る意味をも持っています。
まとめ
オープンバンキングの流れは、イギリスに始まり、欧州各国や日本など多くの国において国策として進められています。
これにより、従来型の金融システム自体が大きな転換を迫られています。オープンバンキングはとても便利な反面、利用者教育など数多くの課題も残しているため、それらの解消がさらなるオープンバンキングの普及につながります。