インシュアテックは、insurance(保険)とtechnology(技術)を掛け合わせた造語です。
金融分野とテクノロジーを掛け合わせたFinTechの保険版と言われており、AIやIoTなど最新のテクノロジーを利用することで、保険分野のビジネスに革新を起こすアプローチのことを指します。
保険商品の企画、販売、契約、保険料運用など、保険会社のビジネスにおける様々なフェーズでインシュアテックを取り入れ、テクノロジーを活用することで、効率を上げ、収益性を高めることができます。
本記事では、近年のインシュアテック市場の動向から、注目されているスタートアップ企業、保険業界の今後の展望などをまとめています。
「保険xテック」の動向について
インシュアテックは、北米を中心に海外から市場の広がりを見せています。
グローバルでの保険に関するマーケットは、日本円で520兆円(2016年度)ととてつもない数字で、近年成長を続けています。
その中で、2017年には、200社を超えるインシュアテックのスタートアップ企業が、併せて2420億円の資金調達に成功したというデータが出ています。いかにインシュアテック分野への期待が大きいかがわかります。
国内でも、特に2015年ごろから、大手、中小にかかわらず多くの保険会社がインシュアテックを取り入れ始めています。
保険は古くからあるビジネスモデルで、これまでの保険業界は、昔からある大手企業が市場を占めており、新しい企業の参入の障壁が高い業界でした。
しかし、近年技術が進化をとげ、インシュアテックの概念が広がったことで、スタートアップ企業の参入も増え、業界全体の変革のタイミングが来ていると言えそうです。
InsurTech(インシュアテック)スタートアップ6選
ここからは、インシュアテックを活用しているアメリカのスタートアップをご紹介します。
アメリカの保険事情は、日本とは異なります。
国民皆保険が義務付けられている日本と比べ、アメリカには政府主導の皆保険制度はなく(障がい者や高齢者など資格が限られている)、医療保険に入りたい場合には、民間企業の商品に加入する必要があります。
こうした保険事情を背景としているためか、北米のインシュアテック市場は先進的で面白いサービスがたくさん生まれています。
最適な保険への切り替えを提案してくれる:Gabi
Gabiは、オンライン上で利用者に最適な保険を提案してくれる保険ガイドサービスを提供しています。現在は自動車保険と住宅の保険に対応しています。
現在入っている保険よりも、もっと自分に適した保険に切り替えたいと考えていても、保険は一般の人にとって複雑に感じることが多く、うまく切り替えができないことがほとんどです。
しかし、Gabiを利用した場合、ビッグデータとAIを活用して、主要保険会社の商品と現在入っている保険の内容を比較検討し、最適な保険を簡単に見つけてくれます。
保険の切り替えの際、利用者本人が保険の知識をつけ、商品の資料請求をして、手間と時間をかけて比較をしなくても良くなりました。
Gabiが発表しているデータによると、利用者はGabiの利用で、平均460ドル(約5万円)の保険料を、保障のグレードを落とさずに節約できているようです。
良い保険が新しく市場に出た際に、アプリで通知をしてくれるサービスもあります。
保険契約者のデータを取得できるサービス:Sureify
アメリカのサンノゼに拠点を置くSureifyは、保険契約者のライフスタイルや健康状態のデータを、様々なアプリやIoTデバイスなどの活用によって取得できるサービスを展開しています。
この技術を、保険会社や保険代理店に提供し、保険会社や代理店は、従来の保険よりもさらに契約者の個別の状況に合わせた保険を提案できるようになりました。
これまで、保険に加入する際には、年齢、既往歴、健康診断の結果や自己申告での簡単な生活習慣(飲酒や喫煙の有無)の確認によって、保険料が決まっていました。
インシュアテックを活用した次世代の保険サービスでは、契約者のライフスタイルやライフステージ、健康状態のリアルな情報を取得し、適切な保険を選ぶことができます。
契約者自ら保険を設計できる:Trov
TrovはアメリカNYの企業で、インターネットを介して損害保険を提供するスタートアップです。契約や、保険の払い戻し、請求など全ての作業がオンライン上で完結します。
これまでの保険商品とは、保険会社が企画、設計した商品の中から自分の状況に合わせて加入することが一般的でした。
しかし、Trovの保険は、契約者自ら保険を設計できるところが特徴です。
保険をかけるものは自分で選択でき、自転車やPC、楽器など、保険をかけたいものをアプリ上でリストアップすることができます。
また、保険料や保険金などの金額の設定も自分で選ぶことができます。保険をかけておきたい期間だけ機能をオンにし、保険をかけなくて良い時はオフにすることが可能です。
この画期的でわかりやすい仕組みが、これまで保険に興味を持っていなかった若い世代に支持され、加入者を増やしているようです。
アプリですべてが完結する:Oscar
Oscarは、スマートフォンで、契約から健康管理まで全て完結することができる、まさにインシュアテックを全面的に活用している保険サービスです。
スマートフォンからチャットを利用して、自分にあった保険の相談ができるほか、医師への相談や予約もOscarを通して行うことができます。
Oscar は2012 年にNYを拠点にスタートし、2018年の第一四半期の保険料総額が日本円にして約330億円、その年の資金調達額も約180億と、まさに桁外れの額です。
大手保険企業と提携してサービスを展開する:Sure
インシュアテックのスタートアップ企業は、自社で保険商品をリリースしている企業も多くありますが、2014年にNYで設立されたSureは既存の大手保険会社と提携をし、仲介を行うビジネスモデルのスタートアップです。
ユーザーが適切な保険を選べるよう、チャットボットで希望の保険内容を登録するとAIが提携企業の商品から適切な保険を提案してくれます。
保障の対象は住宅、ペット、鞄、美術品、レンタカーなど多岐にわたります。
シンプルな仕組みと社会貢献性が人気:Lemonade
Lemonadeは2015年に設立された企業で、保険の仕組みの透明化や簡素化をテーマに新しいサービスを提案しています。
例えば、Lemonadeは家具や家電などの家財保険サービスを提供しています。
保険をかけたい家財がある場合、スマホで撮った写真と一緒に、住所と家のタイプ(賃貸、持ち家など)の情報をチャットボットで送信するだけで、すぐに保険加入が可能です。
加入者から見ると、これまでの保険の仕組みは不透明で、そして難しいものでしたがLemonadeのこのシンプルな仕組みに人気が集まっています。
また、保険金を請求する必要がなかった時、払っていた保険料は、寄付することができます。この社会貢献性が高い仕組みもアメリカの若者に人気が出た理由と言われています。
日本のソフトバンクが1億2000万ドル(約135億円)出資を行ったことでも話題になり、今後日本を含めたグローバルな展開が期待されている企業です。
保険業界の今後と未来
インシュアテックが浸透していくことで保険業界は今後どのような変化を遂げるのでしょうか。ここでは保険業界に与えるであろう変化を3つ挙げていきたいと思います。
1.加入者に寄り添った商品が増える
これまでの保険は、保険会社が商品を設計した上で、企業側から提案をして、消費者にサービスに加入してもらうことが一般的でした。
しかし、今後はインシュアテックの浸透により、加入者側を中心としたサービスが増えていくと予想されています。
ご紹介したスタートアップでも、加入者から見て分かりやすいか、自分に合うものが探せるか、など加入者側の利便性が軸となったサービスが多く見受けられました。
AI技術によってビックデータの解析も精度が上がり、個人の状況に合わせた商品がとんどん発売されることになるでしょう。
2.保険契約がより簡単に、スピーディになる
保険は申し込みから加入までに日数を要することがほとんどでしたが、今後はすべての保険において、契約がより簡単でスピーディになっていくでしょう。インシュアテックにより、すでに保険の審査や契約事務業務の効率化が進んでいます。
保険会社にとっても、新規の顧客獲得がより容易になる上に経費削減につながるため、インシュアテックによる契約の効率化は、どんどん取り入れられるとみられています。
3.日本企業も続々インシュアテックを取り入れている
日本でも大手、中小にかかわらず保険会社がインシュアテックを取り入れ始めています。
アフラックのがん保険では、迅速な保険金支払いのために生体認証やネットバンキングを活用しています。住友生命では、加入者の食生活などの健康に関するデータを集めてポイント化し、健康の度合いによって保険料を割り引く商品を発売しています。これらの商品にもインシュアテックが活用されています。
今後、日本の保険業界でもさらにインシュアテックは浸透し、新しいサービスが生まれるとみられています。
まとめ
今回はアメリカのスタートアップを中心にインスシュアテックのスタートアップを紹介しましたが、アメリカだけではなく中国、カナダ、ヨーロッパなど世界の様々な地域からインシュアテックのスタートアップが生まれています。
世界規模でインシュアテックの市場は年々拡大しており、その発展に引き続き注目が集まることでしょう。
古いビジネスモデルが何百年と続いていた保険業界は、インシュアテックにより、今後大きく変わっていくでしょう。今が保険業界の変革期と言えそうです。