2020東京オリンピックをひかえて空前の不動産ブームが到来していますが、この巨大な市場に、近年ブロックチェーンを導入する試みが始まっています。
海外では不動産をブロックチェーン上で売買するビジネスも始まり、不動産業界では市場の活性化に向けた新たなシステムの開発が進んでいます。
特に、不動産と金融を合わせた「不動産金融」の分野では、不動産が証券化され、国境を超えて不動産投資が容易に行える日も遠い未来ではありません。
この記事では、不動産業界でどのような技術が応用されているのか、具体的な適用例や課題を紹介します。
目次
コンソーシアム型ブロックチェーンによるシステムの開発
ブロックチェーンの技術は過去10年の間に著しく進歩し、暗号通貨にとどまらず、金融界や産業界において、そのビジネスのあり方を変えつつあります。
そのきっかけとなったものに、金融業界のコンソーシアム型ブロックチェーンEEA (Enterprise Ethereum Alliance)があります。
また、日本でも大手不動産企業によって、物件情報システムADREの開発が進められています。
ブロックチェーンは、金融機関や不動産業界で、企業のニーズにあった情報システムを構築し、迅速で低コストの取引を実現しています。
「Enterprise Ethereum」によるプラットフォームとEEAの「Quorum」金融向けコンソーシアム型ブロックチェーン
Enterprise Ethereumは、パブリック型ブロックチェーンで、プライベート・チェーンやコンソーシアム・チェーンを構築することができます。
許可型のネットワークであるため、利用者のプライバシーを保護し、処理が速く、低コストで管理しやすいという特徴があります。
海外では、多くの企業が参加して、企業のニーズにあったプラットフォームを開発してきました。
EEA(Enterprise Ethereum Alliance)は、2017年3月に設立された、JPモルガングをはじめとするグローバル企業の、世界的なコンソーシアムです。
イーサリアムのパブリック型ブロックチェーンを基に、「Quorum(クオラム)」という金融向けコンソーシアム型ブロックチェーンを開発しています。
日本の不動産会社コンソーシアムによる物件情報システム「ADRE」の開発
日本でも、コンソーシアム型ブロックチェーンのシステムを、企業が共同開発しています。
現在の日本の不動産業界では、物件情報は「レインズ」と呼ばれる「不動産流通標準情報システム」によって管理されています。
しかし、実際にはレインズに登録される前に、水面下で売買されてしまう物件も多く、また、不正なデータの更新や改ざんが起きることもあります。
2018年に、「LIFULL」「NTTDATA」「ZENRIN」などの企業により、「ADRE」(Aggregate Data Ledger for Real Estate)が設立されました。
「ADRE」はコンソーシアム型ブロックチェーンで、不動産取引の物件情報を共有し、より迅速で正確な情報のやり取りを可能にするシステムです。
「ADRE」では、ブロックチェーンの公開データが閲覧できる特性により、参加企業が互いに監視しあって不正が起きるのを防ぎます。
より多くの不動産会社が、簡単に素早く物件情報を掲載し、ユーザーの物件探しが容易になれば、不動産業界の活性化にもつながります。
不動産におけるブロックチェーンの応用事例
EEAの設立以降、世界の金融業界がデジタル通貨を使用するようになり、証券を電子化するSTO(Security Token Offering)も盛んになってきています。
そして近年、不動産の権利をセキュリティ・トークンとして発行して、株や証券のようにネット上で電子的に売買する試みが始まっています。
既に、米RealT社は、イーサリアムで構築したブロックチェーン上で、不動産をトークン化して管理し、家賃収益を分配するビジネスを初めています。
また、日本のみならず、世界各国でも、土地建物の登記にブロックチェーンが利用されつつあります。
STOで不動産権利をトークン化して市場の流動性をアップ
「トークン」とは、ブロックチェーン上で発行される独自コインで、特定の対象物と交換できる“引換券”のようなものです。
不動産金融トークンは、実際の不動産物件の広さや築年数、立地や権利関係の情報に裏付けられて発行されます。
イメージとしては電子化された登記簿謄本のようなもので、不正な書き換えのできないブロックチェーン上で、不動産の権利を管理・売買するものです。
STOはその権利を分散化して、小口売買ができるため、大型プロジェクトの資金調達が容易になります。
リゾート地のホテルや都心のオフィスビルなども、小口の投資物件として、市場での流動性を高めることが可能です。
日本の土地・建物の不動産登記簿の電子化
日本では、平成23年に全国の法務局の登記所で,土地・建物の信託目録が電子化されました。
以前は、土地・建物の登記は紙ベースで行われ、登記簿謄本の権利書の持ち主が、第三者に対して所有権を主張できるようになっていました。
不動産を購入した人は、司法書士に依頼して書類を作成し、法務局に提出して、登記所の登記管により承認を受け、正式に所有者となります。
しかし、近年の電子化された登記システムでは、権利書に変わり「登記識別情報通知」が発行され、12桁の登記識別情報番号で管理されています。
そのため、この新しい電子的なシステムでは、第三者による登記簿謄本の盗難や、不正な名義書き換えができにくくなっています。
アフリカ・ウクライナ・ブラジルでのブロックチェーンを応用した不動産登記の電子化
世界の多くの開発途上国では、登記制度が整備されておらず、不正が横行してトラブルが絶えない地域もあります。
しかし、ブロックチェーン技術が普及し、民間のブロックチェーン開発会社が、政府と提携してプロジェクトを進めるケースが世界各地で見られます。
アフリカのガーナでは、BenBen社により、ブロックチェーンを利用した登記書のデジタル化が進められています。
ウクライナ政府はBitfury社と提携し、ブロックチェーンを用いた土地登記システムの実験を始めています。
ブラジルのUbitquity社も政府と連携して、登記の管理体制を、紙ベースからコンピューターベースへ移行するためのシステムを開発しています。
世界で不動産情報が電子化して管理されることで、国境を超えた土地の売買も行いやすくなります。
不動産におけるブロックチェーンの応用事例
ブロックチェーンの技術を導入することで、不動産業界は、データ改ざんを防ぎ、分散化台帳で保管して効率的に管理し、流動性を高めることができます。
しかし、不動産業界には、不動産仲介業・住宅ローン貸付業・保険事業・不動産登記などが存在し、多額の資金が動いています。
ブロックチェーンの技術を応用してゆく上で便利になる反面、利益を失う企業も出てきます。
ブロックチェーンを不動産業界に効率的に取り入れるには、今後、どのような課題を乗り越えてゆかなければならないでしょうか。
新技術の導入によるコストの削減と既存事業者との共存
不動産売買では、取引の安全性をはかる瑕疵担保責任などの取り決めがあり、宅地建物取引業の有資格者による仲介が必要で、仲介手数料が発生します。
また、不動産登記手続きは、金融機関の融資の書類や、多くの複雑な物件関連書類が必要で、一般的に司法書士に依頼して報酬を支払います。
ブロックチェーンのスマートコントラクトの技術を利用すると、これらの手続きを自動化し、契約にかかる時間・手間・費用を削減することができます。
スマートコントラクトでは、契約条件が書き込まれると、設定された条件が満たされれば、自動的に契約が実行されるためです。
しかし、その反面、これらの手数料業務で利益を上げていた、仲介者の収益を損なうことになります。
急激な新システム移行ではなく、既存の事業者の利益も保護しながら、新しいビジネス形態に移行してゆく必要があります。
税金・建築基準法などの国の行政や法規制との連携と調和
不動産登記においては、各国とも既に電子化が進んでいますが、取引に関連する税金や建築基準法などの規制は、その国の法律に従う必要があります。
不動産をトークン化して、国境を超えた取引を実現するには、国々の法規制の壁をクリアしなければなりません。
不動産売買では固定資産税や消費税が発生し、税法も国によって異なるため、プログラムを構築するのにも国々の協力が必要です。
行政と調和の取れたシステムを作り、それぞれの国の安定と繁栄を保ちながら、ブロックチェーンの技術を応用してゆかなければなりません。
ブロックチェーンの技術で躍進する不動産業界のまとめ
不動産業界では、コンソーシアム型のブロックチェーンの技術導入で、企業のニーズに即した安全で確実な情報提供が可能になりました。
また、法務局では土地の登記が電子化され、金融機関では、不動産の権利をトークン化して売買する動きも出てきています。
法整備などの課題は多く存在しますが、ブロックチェーンの新技術の応用で、今後、不動産売買がさらに身近なものとなることが期待されています。