サイバーフィジカルシステム

2019.03.04 [月]

サイバー・フィジカル・システム(CPS)とデジタルツインの基本と仕組みについて

「IoT(Internet of Things)の時代がやってきた!」という時期はすでに過ぎつつあり、今はいかにIotの技術を現場で有効に活用していくかに焦点が集まっています。

そのような時代の中で現実社会とサイバー空間が一体となり、より緊密に結びついたサイバーフィジカルシステムが、今後の重要な社会インフラとして広く浸透していくのではないかと期待されています。

ここではそんなサイバーフィジカルシステムとデジタルツインの基本と仕組みについて解説をしていきます。

 

サイバー・フィジカル・システム(CPS)とは

サイバーフィジカルシステム(CPS)とは、実世界(フィジカル空間)とサイバー世界が一体となることで、より高度な社会の実現を目指すサービスやシステムのことです。

実世界にある多種多様なデータをセンサーなどで収集し、サイバー空間で大規模データ処理をして分析することで、産業の活性化や社会問題の解決ができるような新たな価値や情報を創出することができます。

私たちとインターネット空間の接点は、今やパソコンやスマートフォンなどの端末に限られることなく、IoT技術の浸透によって、車や家、更には身の回りにあるあらゆる「モノ」が私たち実世界にいる人間とサイバー世界を繋ぐ接点になってくれます。

この様々なIoTデバイスによって収集されたデータは、他でも集められてきたありとあらゆる分野のデータと連携し、インターネットを介してサイバー世界に蓄積されていきます。こうして蓄積されたデータはサイバー空間の高度なコンピューティング能力により、数値化され定量的に分析されるのです。

サイバーフィジカルシステムは小規模な組込みシステムから電力ネットワークなどの社会インフラシステムまで幅広く広範囲に適用され、基本的な流れをまとめると以下の通りです。

1.人や車、製造装置などに多くのIoTデバイスを取り付ける。
2.収集したデータをクラウドに転送する。
3.クラウド上に集められた様々なデータを分析、知識化する。
4.得られた知識を人や車、製造装置などにフィードバックし、より最適な制御を行う。

また、サイバーフィジカルシステムとよく混合しやすい概念にIoTがあります。

IoTは現実世界の監視や制御対象(人や車や製造装置など)のデータ収集、分析システムへのデータ送信などが主な動きとなり、IoTデバイスから収集されるデータそのものを指します。

つまりIoTはサイバーフィジカルシステムの最初のステップとなっており、いかに効率よくインターネットに繋げるかということを重視しているものです。

対して、サイバーフィジカルシステムは、現実世界からのデータ収集に始まりサイバー空間での分析や結果のフィードバックまで、IoTに比べもっと包括的な視点を重視します。従って、「実世界」と「サイバー空間」の情報をいかに融合していくかに重点を置いているといえます。

 

デジタルツインとは

IoTの普及により「デジタルツイン」という言葉をよく耳にするようになりました。

デジタルツインとはサイバーフィジカルシステムと同じく概念なので、明確な違いはなく、ほぼ同義で使われることが多いのですが、あえて違いを書くとしたらサイバーフィジカルシステムはより個別の指標におけるデータ活用のサイクルを示しているのに対し、デジタルツインはそのデータの集合体をサイバー空間に再現した物理モデルのことを意味しているといえます。

デジタルツインの環境を活用することで、実世界のモニタリングを行い趣味レーションを行うことができ、逆にサイバー空間でシミュレーションを行った結果から、実世界での将来起こるであろう、故障や変化を予測することができるという訳です。この点がデジタルツインで最も期待されている点と言えます。

デジタルツインの概念が登場する前は、実世界における情報をデジタル化するためには、入出力作業などで膨大な人手と労力が必要となり、その負担が大きいためサイバー空間に入力されるデータ量はある程度限定されてしまい、実世界をそのままサイバー空間に再現することは難しいとされていました。

しかし、IoTの普及により、データをリアルタイムで自動的に収集することが可能となりました。

そこに人手や労力も掛からないことで継続して情報を集められるようになったことで、ある一定の指標のもとでは実世界をサイバー空間に再現することが可能となり、デジタルツインが実現できるようになったのです。

 

サイバーフィジカルシステム(CPS)が注目される理由

サイバーフィジカルシステムの概念を取り入れることで、いままで職人さんたちが「経験と勘」で行ってきたことをデータ化しフィードバックすることで事象を効率化できるという部分で注目を集めています。

さらに注目されている理由を具体的に解説すると以下の通りです。

①組込みシステムがシンプルから複雑へ

以前の組込みシステムはシンプルなものが大多数でしたが、最近になって複雑さが急速に増してきているという事も注目されている背景として挙げられます。

組込みシステムはサイバー空間内のデータ処理だけではなく、実世界の安全・安心の確保にも多大な影響を及ぼすため、実世界とサイバー空間の両方を包括できる設計手法が求められています。

②ITが社会インフラの中心に

ITは自動車などの単体の機器制御だけではなく、社会システムのインフラとして組み込まれ始めています。
例えば交通や医療を始め、環境、エネルギー、食糧など様々な形で人間の社会と繋がっています。

しかし社会のシステムは非常に複雑なため、安全で効率的に設計・運用・保守を行う重要性が高まっています。

③サイバーフィジカルシステムの新しい分野への導入

最近ではサイバーフィジカルシステムの要素技術がさらに発展し、そのため以前に比べ安価でシステムを導入できるようになってきました。これにより今まで導入されなかった分野にも注目を集めるようになってきています。

 

サイバーフィジカルシステム(CPS)の事例

ここではサイバーフィジカルシステムの事例や動向を紹介いたします。

【日本政府の施策】

文部科学省が2011年度文部科学省委託業務「目的解決型のIT統合基盤技術研究開発の実現に向けたフィージビリティスタディ」を実施し、「安心/安全な社会」「社会システム全体の高効率化」を実現するために調査を開始しています。

【交通システム】

交通システム(ITS)では道路や信号に埋め込まれたセンサーや車の位置情報によって、渋滞などの道路状況を把握、予測し、輸送効率の向上を目指しています。

【船舶運航管理】

船舶に各種センサーを取り付け、過去の運行データや海、天気の状況を総合的に分析することで、トータルで最適な運航計画策定が実現されつつあります。

【国会図書館】

知識インフラとしてサイバーフィジカルシステム整備が提言されています。本や論文へのアクセスだけではなく、その論文に書かれた実証実験までのプロセスや文章を取り巻くコンテキストの情報まで広く対象領域にする挑戦を行っています。

【農業】

農場やビニールハウスに設置したセンサーから、毎日の気温や湿度変化の推移、降雨の状況などのデータに基づいて、より生産性を上げる管理方法が実現されています。

【都市洪水対策】

近年の豪雨や洪水被害の反省から、都市洪水の被害を大幅に減少させるために、センサー技術やデータベース、シミュレーション技術を組み合わせて、事前に被害を減少させる研究が進められています。

【医療・健康】

本人の身体のデータを従来の収集方法に加え、ウェアラブルデバイスなどからも収集し、継続的に測定することで、健康増進に繋げる動きが始まっています。

また全国の膨大な投薬のビッグデータを収集・分析することで、治療の高度化につなげていくのはもちろん、副作用などの情報も把握することができるのではないかと期待されています。

 

まとめ

実世界とサイバー空間が一体となることは、より高度な社会の実現に繋がっていきます。

サイバーフィジカルシステムでは、あらゆる分野において多大な影響を及ぼすことが考えられており、今後の重要な社会インフラとして広く浸透していくことが期待されています。

サイバーフィジカルシステムによって収集されたデータは、サイバー空間においてその強力なコンピューティング能力によって分析され、いままで「経験と勘」に頼っていた多くの事象を数値化、効率化して実世界にフィードバックすることで、システムの効率化や生産性の向上に繋がっていきます。

また実世界とサイバー空間の融合による新産業の創出や、情報の備蓄による知的生産性の向上も見込めると期待されています。

これからのより高度な効率化された社会の実現へ向けて外すことのできないサイバーフィジカルシステムは、ますます注目を集めていきそうです。

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