日本時間の2019年7月31日に「ブロックチェーンとデジタル通貨に関する規制フレームワークの検証」という公聴会が米国上院銀行委員会にて開催されました。
公聴会では仮想通貨の決済ビジネスを行う「サークル」社のCEO、Jeremy氏やカリフォルニア大学教授Mehrsa氏などの有識者が登壇して議論が行なわれました。
公聴会は以下の米国上院銀行委員会のサイトにて配信されています
https://www.banking.senate.gov/hearings/examining-regulatory-frameworks-for-digital-currencies-and-blockchain
議論の内容は大きく以下の3つに分かれます。
1:中国に対して警戒し、米国が技術の先端を行くべし
2:リブラに対する懸念は既存金融システムを壊す一方、新たな資産としての認識が必要
3:暗号資産は金融包摂に不適切か?
それぞれ詳しく解説します。
サークル社CEO Jeremy氏
カリフォルニア大学教授 Mehrsa氏
1:中国に対して警戒し、米国が技術の先端を行くべし
マネー・ロンダリングツールや犯罪用の決済資金としてのイメージが払拭できない暗号資産だが、既存の金融システムでもマネー・ロンダリングの検知は不十分であるといいます。この不十分さを解決するのに必要なのがブロックチェーンであり、情報の高い追跡性を使って、暗号資産の送金を行なう際の「KYC(Know Your Customer)」を行なえばよい。その結果、遵法性が高く透明性の担保でき、マネー・ロンダリングの検知精度が高まると言います。
このようにブロックチェーンの有用性をアピールするのがサークル社CEOのJeremy氏です。
また共和党の議員で銀行委員会の委員長Mike氏は、ブロックチェーン技術は有用なものであるから、アメリカが技術の最先端を担う国として活躍する必要があるとも述べています。
民主党の議員Catherine氏も同じ考えを持ち、中国に対して先手を打ちアメリカがリーダーとなることが重要であると述べました。
実はアメリカの議員でもブロックチェーンを肯定的に捉える人がいます。なぜならブロックチェーンや暗号資産を政府が完全に規制することが難しいからです。
規制が難しいのであれば、いっそのことブロックチェーンのポテンシャルに対してアメリカが先手を打ち主導権を獲得すればよいという考えに至っているようです。
2:リブラに対する懸念は既存金融システムを壊す一方、新たな資産としての認識が必要
Facebookが発表した暗号資産である「リブラ」に対して、アメリカ政府は否定的な意見を持っています。一方でAllaire氏はリブラに限らず暗号資産を、アメリカの法律の中で明確に資産であると定義しなければならないと述べています。
Jeremy氏が運営するサークル社でも、「USDC」というステーブルコインを発行しています。このまま規制が整備されなければ、ビジネスの継続が難しくなり、アメリカから出て行かざる状況になってしまうことも述べています。
なぜアメリカはリブラに否定的かと言えば、利権につながる既存の金融システムが破壊されてしまうからです。これは、リブラに限った話ではなく暗号資産全般に言える話ではあります。
とりわけリブラの場合には、全世界のFacebookユーザーが見込客となります。国境を越えてユーザーが送金したり、融資をしたりすれば既存の金融システムは使われなくなってしまうでしょう。それどころか、リブラの価格を決めるために、リブラのため集めた法定通貨を使って、アメリカ国債やドルが買われてしまうと国債の金利は下がりドル高になるなどして、リブラの存在が金融市場を動かしてしまうことになります。政府を介さずにこのようなことが起こるのは、利権を持つ人々にとってみると面白くないのです。
3:暗号資産は金融包摂に不適切か?
金融包摂とは「金融サービスを十分に利用できない人に対してもサービスを提供しよう」という取り組みのことを言います。
Mehrsa氏はそもそも金融サービスを十分に利用できないのは、既存の金融システムや政策が原因であり、既存の金融システムでも金融包摂は十分実現可能であると述べています。
暗号資産は広く国民や海外の人々に広まるのに時間がかかるので、金融包摂が実現できるのに時間がかかってしまう。それならば既存の金融システムや法令を見直した方が早く金融包摂が実現できるというのが、Mehrsa氏の意見です。
不適切ではないが時間がかかってしまう。というのが現時点での答えでしょうか。
まとめ
今回の公聴会を受けてアメリカでは今後どのような政策が考えられるのかが見ものです。Facebookがアメリカ上院議員の元補佐官を採用するなどリブラが市民権を得るための動きを活発に行なっています。
対中国との貿易摩擦など対外政策も視野に入れ、暗号通貨やブロックチェーンの明確な規制が行なわれることでしょう。
文/久我吉史