新経済連盟が2019年7月30日に政府へ提出した要望書「ブロックチェーンの社会実装に向けた提言~暗号資産の新法改正を受けて~」(https://jane.or.jp/app/wp-content/uploads/2019/07/0e1a37dc0d697076eea6a8e7189c8655.pdf)では、ブロックチェーンの活用や、暗号資産の法規制についての現状や課題が整理されています。
本稿ではそんな現状や課題の要点をまとめて紹介します。
今回紹介する要望書では大きく2つの要望を上げています。
1.ブロックチェーンの普及のための要望
2.暗号資産の取引を規制する法律への要望
では、順に見ていきましょう。
1.ブロックチェーンの普及のための要望:「世界のトップランナーを目指すべき」
新経済連盟はITを活用してビジネスを行なう企業群で500社以上の会員が集っています。楽天株式会社の代表取締役会長兼社長の三木谷氏が中心となって率いています。今回紹介する要望書以外にも、暗号資産の税制やブロックチェーンの規制に関する要望などを政府に提出している団体です。
ブロックチェーンの普及のための要望では「世界のトップランナーを目指す」べきと要望しています。ブロックチェーンの活用が有益となる産業分野に対する法規制や政府の取り組みについて言及し、政府と民間企業とか協力することでビジネスの創出も後押しできると述べています。
ブロックチェーンのユースケースとして要望書では7項目の活用例をあげています。分野によって民間だけで考慮するもの、官民一体で取り組むものがあります。これらを実現するためには行政による支援や法規制確立の取り組みが必要不可欠です。
そもそもブロックチェーンが持つ特徴は図の通り。スマートコントラクトや分散型台帳でできるソリューションに対して、法制度が対応しきれていません。
例えば不動産の所有権を暗号資産化した場合、現行法では移転や登記による対抗要件が具備されていないので、ブロックチェーン普及の足かせになると述べています。
画像引用元:新経済連盟/ブロックチェーンの社会実装に向けた提言~暗号資産の新法改正を受けて~
(https://jane.or.jp/app/wp-content/uploads/2019/07/0e1a37dc0d697076eea6a8e7189c8655.pdf)
2.暗号資産の取引を規制する法律への要望
暗号資産への要望は以下の3項目で、2019年5月31日改正の資金決済法と金融商品取引法の中での暗号資産関連の規制に対する要望が主です。
①ICO/STOの管理・規制コストの上昇を抑えたい
②カストディ業者への規制はリスクの大きさに見合うものとしたい
③ステーブルコインの法規制の明確化
こちらも順に見ていきましょう。
- ICO/STOの管理・規制コストの上昇を抑えたい
2019年5月31日改正の金融商品取引法中で、投資用途で使われるICO(Initial Coin Offering)、STO(Security Token Offering)が、株式や投資信託と同じ金融商品としての規制を受けることになりました。金融商品の規制には商品によって大きく2種類の規制がありますが、ICO/STOは規制が厳格な「1項有価証券」という括りになっています。そのため規制対応のためのコストがかさんでしまい、ICOやSTOを行なえる事業者が少なくなる懸念があります。
- カストディ業者への規制はリスクの大きさに見合うものとしたい
カストディとは暗号資産の管理を行なう業務のことです。いわゆる暗号資産のウォレットを提供する業務です。2019年5月31日改正の資金決済法では、暗号資産交換業者として規制されています。規制の規模と業務の範囲が一致せず、かつ業者の定義が曖昧であるという課題があります。
そこで要望書ではカストディ業務に対して、事業者が持つリスクがある場合にのみカストディ事業者と定義するように提言しています。ここでいうリスクとは事業者がハッキングされてしまい暗号資産が流出するリスクのことです。
暗号資産の送金を行なうための秘密鍵の管理を事業者で行なう場合にはリスクがあり、その管理を利用者が行う場合にはリスクなしと定義し、カストディ事業者かどうか判断する提案をしています。
画像引用元:新経済連盟/ブロックチェーンの社会実装に向けた提言~暗号資産の新法改正を受けて~
(https://jane.or.jp/app/wp-content/uploads/2019/07/0e1a37dc0d697076eea6a8e7189c8655.pdf)
- ステーブルコインの法規制の明確化
ステーブルコインとは、円やドルなどの法定通貨に対する価値が安定している暗号資産のことです。ビットコインやイーサリアムは、1日に10%以上の価格変動が起こることがあります。この価格変動のことをボラティリティといいますが、ボラティリティが大きい暗号資産だと、支払いや送金に使う都度、暗号資産の価格を気にしなければならず、使い勝手が悪いのです。そのため円やドルを担保にして暗号資産を発行して価値が1:1となるようにしたり、国債などの価格が比較的安定している金融商品を担保にして価格変動を抑えたりといった工夫を行なうことで、価値が安定します。
ステーブルコインには様々な分類がありますが、法規制が明確ではないため今後より明確にしていく必要があります。
まとめ
暗号資産には、犯罪で得たお金をまともなビジネスで稼いだお金に見せかけるマネー・ロンダリングに使われているなどとネガティブなイメージがつきまといます。さらに暗号資産を支えるブロックチェーンの普及のための取り組みや、暗号資産の取り扱いに関する法規制が未成熟の部分もあります。そんな混沌とする中で新経済連盟のように政府へ意見を提言することは、暗号資産がより一般的な通貨として流通するよいきっかけになるはずです。
文/久我吉史