ブロックチェーンはアート流通をどう変えるのか?

2019.07.25 [木]

ブロックチェーンはアート流通をどう変えるのか?

ブロックチェーン技術を使って絵画作品などの「アート市場」を変革し、閉鎖的なイメージのある市場を民主化しようと力を込める企業が「スタートバーン」です。同社では「アート・ブロックチェーン・ネットワーク」という構想を持って、アート市場の民主化に貢献すべく開発を進めています。

アート市場にブロックチェーン技術はどのように役立つのでしょうか。また実際のアート市場に民主化のニーズはあるのでしょうか。

ブロックチェーンはアート流通をどう変えるのか?

スタートバーンが提供するアート作品の流通・証明サービス「Startbahn.org」(https://startbahn.org)アート作品を売買する機能に加えて、ブロックチェーンにその作品の来歴や証明書などの記録ができます。

 

ブロックチェーンに記録した作品の来歴情報が証明書となる

ブロックチェーンには記録したデータを改ざんから防いだり、記録したデータの正確性を担保する仕組みがあります。この仕組みを使ってアート作品の来歴を証明し価値を担保しようとしているのが、スタートバーンが考えているソリューションです。

誤解を恐れずに言うと、画廊で販売する人や購入する人が「言い値」で価格を付け、その価格に納得すれば取引が成立するのがアート市場の特徴でしょう。取引をする際は、その作品の価値を担保する証明書が重要になります。また有名な展示会での展示履歴なども重要でしょう。

有名であるほど高値が付くからです。過去の取引価格や展示来歴というものは、公的機関が管理するものではありません。紙媒体などに記録されている情報を基に取引しなければなりませんから、情報を正確に得ることが難しいのです。

そんなアナログなアート市場に一石を投じたのがスタートバーンです。アート作品が持つ来歴のデータをブロックチェーンに記録し、取引が行われる度に作者に取引金額の一部を還元するような仕組みを構築しています。

アート市場にはもう一つ「有名なアーティスト」は市場で多大な評価を受けられるが、そうでないアーティストは過少に評価されるという特徴があります。

そこでスタートバーンは、作品の価格が吊り上げられない代わりに、作品が取引される度に作者に一定の報酬が入る「再分配」の仕組みを考えました。この仕組みにより取引額は小さくても何度も取引されれば、作者にその都度報酬が入るので、市場の適正化に寄与しているといえます。

 

また、取引額や取引回数などのデータが貯まれば貯まるほど、その作品の適正価格の計算が精緻なものになっていきます。画商などの一部分のプロが決めた価格ではなく、過去の情報を参考にしながら取引する人が決めた価格であれば市場の中で民主的に決められることになります。

ブロックチェーンはアート流通をどう変えるのか?

スタートバーンが考える「アート・ブロックチェーン・ネットワーク」。アート作品の展示や流通に関する情報を記録し、世界中のアート関連サービスと接続して情報を共有できる仕組みです。

引用元:https://startbahn.jp/service/blockchain-project/

 

国内約3400億円、全世界で約7兆円の市場に切り込む

ところでアート市場の規模はどのくらいでしょうか。一般社団法人アート東京が発表した「日本のアート産業に関する市場レポート2018」(https://art-tokyo.jp/press/135/pdf)によれば国内の市場規模は3,434億円、全世界でみると約7.16兆円ほどの規模があります。このレポートを読み解くとわかることを以下にまとめます。

日本のアート産業に関する市場レポート2018からわかること

・アート作品の売買取引のうちインターネット取引は10%に満たない

・ビジネスパーソンが美術品を購入しない理由に「画廊・ギャラリーの仕組みがわからないから」が26%の割合である

・美術品を購入したいと思えるきっかけの順位で「部屋に飾りたい作品と出会う」が一位だが、「作品の現在価格が明確化される」という理由の順位は高くない

 

■アート作品の国内流通市場

ブロックチェーンはアート流通をどう変えるのか?

美術品市場2,460億円に対してインターネット経由の流通は180億円と約7%しかありません。

 

■美術品を購入したいと思えるきっかけ

ブロックチェーンはアート流通をどう変えるのか?

「購入経験がなし」の群では、「部屋に飾りたい作品と出会う」の回答率が35%で全質問項目中一番高い、「作品の現在価格が明確化される」の回答率は16%しかないが他の項目より回答率は高いです。しかし購入経験がある人たちの回答率は他の項目に比べて低いです。

 

これらの結果を解釈するとそもそもアート作品を取引する人は、作品の金銭的な価値よりも、自分の価値観に合うかのほうを優先しています。

そのため作品の来歴や取引の情報を記録するよりもまず、作品との出会いの機会を増やすことが必要です。出会うときに画廊やギャラリーだとそもそも仕組みがわからなくて入りずらいので、インターネット上で作品検索をしたり、画廊やギャラリーをより身近なものに感じたりできるような施策が必要です。

アート市場で取引する人のIT化をしないと、せっかくブロックチェーンにデータを記録して作品の証明や正当な価値を計算できたとしても宝の持ち腐れになりかねません。

 

まとめ

そんな実情を考えているか否かはわかりませんが、美術品オークションの企画・運営を行い、ウェブサイト上でオークション結果を公表するなどの取り組みを行っている「SBIアートオークション」とスタートバーンとが事業提携を行い、落札された作品の所有権の証明を行うプロジェクトを始めました。

ブロックチェーンを使ったアート市場の民主化は必要なコトですが、現時点では民主化よりも先に、ITを活用したアート市場の活性化にも力を入れて欲しいものです。

ブロックチェーンはアート流通をどう変えるのか?

SBIアートオークションが公開している落札価格情報。引用元:https://www.sbiartauction.co.jp/userfiles/calendar/MReGq2hvANfLGkqWsDfY.pdf

 

文/久我吉史

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