AIの医療分野への応用が進んでいます。
日本の医療現場では、来る超高齢化社会に向けてさらなる医師不足が懸念されるなど、課題が多く存在します。
そんな中、医療分野が抱える課題がAIで解決できるのではないかという大きな期待が寄せられており、実際に患者への対応、病理診断、治療などあらゆる場面でのAIの活用・研究が始まっています。
今回は、AI技術の活用が医療現場の課題にどのように良い影響を与えていくのか、さらに医療×AIのメリットについてもご紹介します。
医療現場の課題
まずは、現在の医療現場が抱える課題について確認していきましょう。
深刻な医師不足
日本の医師不足は諸外国と比べて深刻で、人口1000人あたりの医師の数は、2.3人です。
この数値は、EUと北米や日本が参加するOECD加盟国35か国のうち、なんと30位となっており、OECD平均が3.3人ですから大幅に下回っていることが分かります。
なぜ、日本で医師不足が起こっているのかというと、医師が必要以上に増えると、日本の国家予算に影響が出る、という考えがあったためと言われています。
医師が増えて医療機関が受診しやすくなると結果として国民の医療費総額が増え、国が負担する費用が増えてしまうということですね。そのため、医学部の定員を管理することで、事実上医師全体の総数も管理されてきました。
さらに、激務である医師の就業環境への懸念なども、医師不足に影響を及ぼしていると言われます。
特に、地方の過疎地域や僻地は医師が全くいない場所もあり、こういった場所の必要医師数の確保も、長年大きな課題として認識されています。
激務になりがちな医師の仕事環境
先ほどご紹介したように、医師不足のためにどの診療科であっても、一人当たりの医師の仕事量は多く、激務になりがちです。科によっては、女性男性問わず一般企業のように、産休や育休を取ることは難しく、プライベートに時間を割くことが困難という現状もあるようです。
病院勤務医の仕事が多すぎるために、ある程度腕が上がると開業を選択する医師も多く、結果として病院は慢性的に人手が足りず、一人当たりの医師への負担が大きくなるという悪循環を抱えています。
画像診断で見落としもある
ガンなどの病気を発見する際、画像診断によって発見されることが多くあります。
こうした画像診断は、多くの経験を積んでいる医師によって行われることが多い分野ですが、人が判断するためにどうしても病気の見落としが起こる可能性があります。
2018年にも複数の病院から、画像診断の確認不足により患者の病気の診断が遅れたという事実が公表されました。
こうした画像診断での病気診断の見落としも、医療現場の課題の一つと認識されています。
医療×AIで解決できること
医療現場にAIが活用されることで、解決できることがあります。
例えば、事務処理をAIに任せることで現場を効率化できることや、遠隔診療サービスでこれまで医師がいなかった地域の人が診察を受けることを可能にします。
人手不足の医療現場で効率化に貢献できる
事務職は多くの分野で将来的にAIが代替する職業と言われていますが、医療業界でも同様です。医療事務はAIによって大幅な効率化が見込まれています。
例えば、これまで薬を処方してもらうためには、医師が診察、医療事務が事務処理、薬剤師によって処方という流れが一般的ですが、この過程では医師、医療事務、薬剤師による複数の事務作業が発生してします。
この事務部分をAIでカバーできるようになれば、診察から薬の処方までの効率化が期待できます。
人手不足が問題になっている医療現場ですから、事務業務部分が短縮できることによって、医師や薬剤師は多くの患者に向き合うことができるようになります。
医師が不在だった地域でも診察が受けることが可能に
先ほどもご紹介しましたが、過疎地域や僻地は医師不足が深刻な問題となっています。日本では医師が存在しない無医師地区が600以上あり、診察を気軽に受けることができない人が多く存在します。
このような問題を解決するために、AI技術を導入した遠隔診療サービスが期待されています。医療機関と患者をつなぐオンライン診療サービスの分野に参入する企業も増えており、様々なサービスが開発されています。
すでに導入を行っている地域もあり、将来的には多くの過疎地域に広がっていくことが期待されています。
医療現場にAIを取り入れるメリット
AIを導入することで医療現場に起こるメリットは何があるでしょうか。ここでは、いくつかの代表的な、医療×AIによって期待されているメリットをご紹介します。
AIによって病気の発見の精度を上げることができる
病気を発見する際の画像診断にAIを導入することで、病気を見落とすことを極力減らすことができると言われています。
2016年に、アメリカで乳がんの転移を調査するAIのコンテストが行われ、そこで優勝したAIはわずか数秒で129枚の画像診断をこなし、その診断の正確性は0.994だったという結果が出ています。
比較対象となる11人の医師の正確性の数値平均は、0.810という結果だったため、AIは医師よりも精度の高い診断をわずか数秒で行うことができるという結果が出ました。
さらに経験豊富な医師でも判断が難しい特殊な白血病の患者を、AIが過去の論文データと照らし合わせて10分で診断したという事例も出てきています。
このように画像診断や論文との照らし合わせ作業は、人間よりもAIの方が迅速かつ正確に行うことができると分かってきました。
今後は、こうした画像やデータの分析をAIが行い、最終的な確認や診断を医師が行うことになると予想されています。
これにより迅速に病気の発見ができ、診断の精度も上がるため、患者はより早く的確な処置を受けることが可能になるでしょう。
医療全体の効率化を可能にする
AIを活用することで、医療業界全体の効率化を可能にすることも大きなメリットです。
近年は、一般のクリニックでも、AIがカルテの入力補助に使われている事例が増えています。病名や症状などの入力が効率的に行え、医療現場の業務の効率化が少しずつ進み始めています。
また、実際に診察が行われる現場のみならず、創薬の分野では、AI技術の導入によって、新薬開発のスピードが進んでいくことや、開発された新薬の承認のプロセスが速くなることが期待されています。
このように、AI技術の活用で医療業界全体の効率化がメリットとして挙げられます。
医師不足の問題解決の糸口に
AI の補助により短時間で精度の高い診断ができることや、医療事務の効率化が進むことで、医師の仕事の負担が減ることも大きなメリットです。
AIなどの機械が得なところは機械に任せることで、医師や看護師などのスタッフが適切な仕事に配置されることになります。
それにより、医師を始めとする医療関係者の業務負担の軽減、人材不足の解決が期待できると見込まれています。
今後、日本は高齢者の人口が年々増え、すでに医師不足となっている医療現場にとって大きな負担がかかることが予想されています。
AIをうまく活用することが、今後の医療にとっていかに重要なことであるかが伺えます。
医療×AIの事例
ここからは、医療×AIの活用の事例をご紹介します。国内外で、すでにたくさんのAI活用事例が生まれています。
診療支援システムにより患者の疾患の見落としを防ぐ
自治医科大学が開発している診療支援システム「ホワイト・ジャック」は、患者の情報やデータをもとに、疑われる病気をAIがリストアップして、医師の診断を助けることを可能にします。
AIには過去の論文や臨床データが蓄積され、人間の医師と相談しながら候補となる病気を探し出し、必要な薬や検査を提案することもできます。
さらに、AIでの診察アシストだけではなく、IoT技術を活用して、ウェアラブル端末で日頃から患者の健康情報をチェックするなどし、「ホワイト・ジャック」での診察に活用される機能も搭載される予定です。
創薬分野におけるAI活用
創薬の分野でもAI活用は進んでいます。
アメリカのAtomwise社は、バーチャルスクリーニングという薬の候補となる成分を選別するプロセスにおいて、AIの活用を始めています。従来、このプロセスでは多くの作業が発生し、検証に長い時間がかかっていました。
しかしAIを導入することによって、簡単に検証を行うことが可能になりました。
AIに、はじめにある程度の科学の知識を与えると、自己学習機能により、バーチャルスクリーニングにおいて有効な検証を行うことができるようになります。これにより新薬開発のスピードと正確性が向上したと発表されています。
生活習慣病やがんをAIで予測する時代に
韓国の企業、SELVAS AI社は、AIによって、がんなどの病気の発病確率を予測し、健康アドバイスをしてくれるサービス「Selvy Checkup」を展開しています。2018年には日本でもサービスを開始しており、日本人も利用することが可能になりました。
「Selvy Checkup」では、健康診断の結果を専用のアプリに入力すると、がんや生活習慣病(脳疾患や、心疾患、糖尿病など)の3年以内の発病確率をAIによって予測することができます。
この予測は、一般的な統計による予測よりも10%以上高い精度を誇ります。
まとめ
医療におけるAIの活用のメリットや、医療現場の課題に与える影響についてご紹介しました。
他の分野と同様、AIは医療の分野でも日々研究が進められています。医療行為は、危険も伴うために規制も多い分野です。AIの特徴である自己学習の能力を、どのようにして規制のある中で医療に適用していくかに、まだ課題があります。
しかし、医療現場の課題解決のためにAIを使うことのメリットは大きく、医療に大きな革命を起こす可能性を秘めています。
今後も、医療×AIの進歩から目が離せません。