2019.03.21 [木]

情報銀行と似ている海外のデータ活用先行事例

2018年5月に総務省が「情報信託機能の認定に係わる指針」を公表したことから始まった情報銀行ですが、この情報銀行は、膨大なパーソナルデータを持つ、Google、Apple、Facebook、AmazonのGAFAと呼ばれるアメリカの大企業に対抗する方法として注目されています。

この情報銀行に似た事例は、海外ではすでに運用が開始されており、アメリカ合衆国では社会保障番号が全国民の背番号になっているため、社会保障・財務省・金融機関・生命保険会社・クレカ会社・医療機関などが住民情報をインターネット経由で取得できる仕組みが構築されています。

今回、日本の情報銀行の運用に先駆け、パーソナルデータを活用している海外の事例を紹介していきたいと思います。

 

イギリスのmidata

オープンデータの先進国であるイギリス連邦政府がすすめる「midata」とは何かを説明します。

2011年4月に、様々な消費活動の中で生まれる、サービスの利用履歴や購買履歴、交通機関の活用データなどのパーソナルデータを、消費者本人が管理、活用できるようにして経済成長を促進する目的で、 “Better Choices : Better Deals”という計画をイギリス政府が発表しました。

この計画のもと、官民共同プロジェクトとして、「midata」が開始されました。

midataの目的と目標

「midata」の大きな目的として、消費者ひとりひとりが、製品やサービスの選択を見直すことで、よりよいサービスや商品を生み出そうとする企業間競争が活発になり、経済成長やイノベーションを誘引させることがありました。

この目的を実現させるために、まず、消費者自らが自分自身のデータを取得できるポータルサイトなどの仕組みづくりを企業間で広げることが目標とされました。企業の参加は、任意募集でありましたが、GoogleなどITや金融関連のイギリスの大企業が参画したこともあり、非常に注目度の高いプロジェクトとなりました。

開示データの取り扱いについて

こうして、消費者が各々の個人データが取得できるポータルサイトなど仕組み化が進む一方で、開示データの内容や開示方法にも守るべき9つのルールが作られました。

  • 消費者に開示されるデータはエクセルなど、機械解読可能で2次利用しやすいものであること
  • 消費者が安全にアクセスできてかつ、データ保存も可能であること
  • 消費者が得たデータを自由に、分析、共有ができる形であること
  • 使う用語やフォーマットなどは企業業態問わず、できるだけ標準化されたものであること
  • 消費者にデータ取得を即座に行えるようにすること
  • 消費者の意思決定に役立つデータ提供を行うこと
  • 消費者のデータ活用を事業者が制限しないこと
  • 消費者がデータ活用することによって、情報の取り扱いに注意が必要なことも周知すること
  • 事業者はデータの収集方法や収集する意味などを明確に説明すること
    参照:midata 2012 review and consultation

上記の原則を守りつつ、消費者に情報提供する仕組みがどんどん進んでいきました。

midata innovation labについて

上記のように、消費者が自由にデータ収集や、分析できるようになった結果、2013年7月からmidataはデータをどのように活用するかといった段階に入り、革新的なサービス開発を目指すmidata innovation labという実証実験を行うプロジェクトが始まりました。

このプロジェクトには大手民間企業がパートナーとして参加しています。インターネット関連企業Google、クレカのVisa、MasterCard、ガス会社のBritish Gas、電力会社のEDF Energy、保険会社のLloyds、通信インフラのThreeなど生活関連の業態を生業にする企業が参画してプロジェクトの取り組みを支援しています。

その結果、MI HealthやMI Financesといった医療や金銭に関わるアプリが開発され、より身近に消費者データを活用できるようになりました。

しかし、その一方で、一部の消費ボランティアの意見の中には、プライバシー侵害や情報漏洩などのリスクを強く主張するものもあり、特に、必要ないデータまで提供を求められることやエクセルデータをアプリに取り込みにくいという点もあり、事業化することはなく、データ流通基盤の構築が実現しない結果となった。

日本が参考にすべきサービス

上記のように、セキュリティ面やデータの活用がうまく、なかなか実生活に根付いた、「midata」を活用したサービスが生まれなかったが、2015年5月にGocompare社が資産運用などを比較検討できるサービスを開始した。

このサービスは、日本の情報銀行の重要とされる金融・フィンテック分野において、各々が資産状況を確認しながら、金融商品やサービスを見直し、最善なものを提供するという理想型に近い形と言える。

Gocompare社もデータの活用方法には、様々な苦労をしたようだが、それから約4年経っている今では、情報活用の技術も進歩しており、利便性のある情報銀行を構築できる可能性が高いが、それ以上に、データを悪用されないようにセキュリティ面も重視する必要があるでしょう。

 

フランスのMesInfos

フランス共和国では、デジタルの変革を予測する実践的な企画・研究を専門に行うシンクタンクである「Fing(Foundation Internet Nouvelle Generation)」社が、パーソナルデータの利用・活用を検討するプロジェクトを推進しています。

Fing社はフランス政府・民間企業・団体・組織の問わずに中立的な立ち位置でイノベーションを推進する機関で、多くのプロジェクトの企画・運営を通じてベンチャー企業の起業から大企業の運営支援まで広域に渡って運営・支援しています。

情報銀行の取り組みに積極的に参画して、プロトタイプによる実証実験を実施しています。実験内容は次の5つ要素で実行しています。

①個人データを用いた実証実験では大企業・公共機関の個人パーソナルデータを活用してサービスの企画と実証実験を実施します。

②パーソナルデータ管理アプリケーションサービスの構築では、個人の実生活に基づくサービスの企画・実験・アプリケーション提供をします。

③プラットフォーム提供企業の活用ではパーソナルクラウドの活用やプラットフォーム上でのパーソナルデータ管理を実証します。

④自治体のオープンデータを用いた実証実験ではリヨン市のパーソナルデータとオープンデータを結合させた実証実験をします。

⑤リサーチャーによる実験結果の活用は教育機関・大企業による実験データの分析・検討を実施します。

上記のように実験・実証を続けた結果、パーソナルデータを活用した「MesInfo Experiment」と呼ばれるプロジェクトがあります。

「MesInfo Experiment」とは

MesInfo Experimentは、2012年からフランスで開始されたプロジェクトで、200名規模の消費者と大企業や起業家が参加して、将来のパーソナルデータの活用方法や動向などを考察し共有していくことを主旨としている。

この活動は2016年から規模を拡大させ、リヨン市のオープンデータとパーソナルデータを活用した自治体主体の実証実験を行ったり、大企業や公共施設3000名のデータを活用した実証実験などを行っている

日本が参考にすべきこと

日本に情報銀行が導入され、運用されるようになるには、フランスのように規模の大きい実証実験が必要になり、また、Fing社のように、その実証実験を牽引する企業や団体が必要になると言えるでしょう。

 

アメリカのスマートディスクロージャー

スマートディスクロージャーとは、「洗練された情報開示」と訳され、商品やサービスの情報開示だけでなく、企業や消費者の情報も開示するプロジェクトのことをいいます。

スマートディスクロージャーは、商品やサービスの情報と消費者の情報をマッチングさせるために、情報を集約し、プログラムによって分析することで、個々人に最適な商品やサービスの情報を提供され、多くの企業が情報開示することで、消費者に最適な情報開示が実現するものです。

スマートディスクロージャーのガイドラインのひとつに、情報を電子化することが決められている。

このガイドラインは、消費者や企業にとって情報活用の利便性を上げる目的があり、インターネットが情報交換の中心となり、実生活の中に溶け込んでいることからも重要なガイドラインと言える。

アメリカ合衆国では第44代大統領のオバマ政権が発足した当初から個人に向けた情報公開を推進していました。

その結果、近年の情報処理技術の飛躍的進歩によってビックデータを含めて、消費者や企業への情報アクセスが容易に遷移しています。

また、近年、アメリカ政府は多くの政府機関に健康・教育・エネルギー・金融・公衆安全の分野でスマート・ディスクロージャーの仕組みを導入された結果、様々な場面で、消費者に有益な情報提供ができるようになっています。

例えば、大学を選ぶ際にも、インターネットの氾濫した情報や、知人の主観の情報に惑わされることなく、自分自身のパーソナルデータと大学の特徴や専門分野などの情報をマッチングさせ、自分にあった大学の情報を提供してくれるようになります。

 

まとめ

以上のように、世界では様々な国で、パーソナルデータを活用した取り組みがあります。

消費者がデータ活用できるようになると利便性が上がりますが、いかに実生活に浸透させるか、また、個人情報を扱う事業所にはその情報を扱うルールが明確にされていることが重要になります。

日本の情報銀行の運用には、海外の事例からわかるように越えなければならない課題が多くあると言えます。

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