watanabeka

2019.03.04 [月]

巨大なプラットフォームや業界団体に縛られず、個人に直接コンテンツを届けられる世界に

デザイン会社としてコミュニケーションデザインや事業開発支援などを行う株式会社コンセント。

その一つのチームである渡邊課では、次世代のコミュニケーションデザインの研究という意味も含め、3年ほど前からVR映像の制作を行っている。

コンテンツの可能性を広げているVR業界とブロックチェーンが交わることで、どのような可能性が新たに生まれるのか。渡邊課の課長としてクリエイティブに責任を持つ渡邊徹さん、同じく渡邊課でディレクターを務める越後龍一さんに聞いた。

 

VRは体験としてコンテンツを届けられる

――本日はお時間をいただきありがとうございます。VR映像とブロックチェーンというテーマでお話をうかがえればと思います。初めに、渡邊課の仕事内容と、渡邊さん、越後さんそれぞれのご経歴をお聞かせいただけますか。

渡邊:渡邊課では、VRの映像制作を受託しています。5年ほど前にVRサービスのPRを手伝うところから始まりました。
当初制作といえば、口頭でVRの価値を説明したり、イメージ画像を作って回る程度でしたが、そのうちに自分たちでも実際にVRの映像を制作する方が話が早いなというようになり、今では制作がメインです。

コミュニケーションデザインのアウトプットとしては紙とウェブが主で、当初はVR映像制作がメインではありませんでした。
僕自身も、新卒で入社して雑誌の誌面上でのコミュニケーションデザイン設計から始め、その後はウェブ領域も経験しています。

情報のあり方が変わるとともに自分の中でも関わりたいメディアが変わっていき「VRも会社に取り入れたらおもしろいのではないか」と思うようになりました。
そこから徐々に機材を買って制作する環境を整え、今では音楽映像や観光PR、企業PRなどを中心にこれまでに100本以上のVR映像作品を制作しています。

越後:渡邊課の組織構成としては、正社員が渡邊のみで、あとは業務提携です。僕自身もフリーランスで、案件ごとに関わっています。

僕は最初、クラウドファンディングのサービスを提供しているキャンプファイヤーの企画営業を担当し、立ち上げから3年ほど携わりました。
そのあと一度転職し、イラストSNSのサービスを提供するピクシブで漫画アプリのディレクターを1年経験しています。

プラットフォーマーとして仕事をしているとメーカーさんとの関わりが増えるのですが、その中で何かをつくったりブランドを持ったりする仕事に興味が出てきたことから、クライアントと一緒に進める部分もある一方で自分たちでも作品をつくっているこのVRプロジェクトに関わり始め、4年目を迎えました。

ディレクターとしては、手配や段取り、スケジュール、予算などに関する窓口の役割を担っています。
撮影にも同行したり、見る人の体験に紐づけてコンテンツの配布先を考えたりと、通常の映像会社のディレクターよりもクリエイティブに踏み込んだ提案をしていますね。
僕がウェブ出身ということもあり、漫画喫茶さんのコンテンツデリバリーのネットワークに配信をお願いしたり、YouTubeやFacebookで配信をするための整備をしたりと、より対象に届きやすい配信先を選んでいます。

渡邊:VRは、不特定多数ではなくOne to Oneのコミュニケーションになるため、コミュニケーションコストは高いけれど、その分深い体験コンテンツを届けられる点が強みです。
僕らもコアなファンなど強い興味を持つ人がどのような視点で「見たい」と考えているかを分析し、ワクワク感を得られる体験から逆算して企画を考案します。

 

プラットフォームに依存しない価値をつくりたい

――VR業界におけるブロックチェーンの可能性について、期待されることはどのようなことですか。

渡邊:VR内でのコミュニケーションが徐々にトレンド化して、VRならではの体験の中で情報を交わせるようになっています。
今はスマホを1日何時間も見ていますが、その情報取得のうちの一部がVRに移行していきVRの中で暮らす」という状況も生まれるでしょう。
その中で僕らのコンテンツには、やはり一人ひとりに届けることが重要です。その際、ブロックチェーンで契約を自動化する“スマートコントラクト”が可能になれば、巨大なプラットフォームに依存せず個人に直接コンテンツを届けられます。その可能性は探っていきたいですね。

越後:現状だと、例えばCMを流す回数に応じて媒体に費用を払うなど介在するプラットフォームに価値を左右されてしまいます。
個のクリエイターと個のユーザーを直接繋げられれば、ユーザーが直接価値をつけられる。プラットフォームに依存しない価値のつくり方ができればいいですね。

渡邊:従来の商慣習だと「映像がバズったからパッケージ」という話になりますが、リアルタイムで即課金できる状態にしたいです。

YouTubeやFacebookなら映像に広告を入れる方法もありますが、見ている人とよりダイレクトに繋がれる場所をつくっていきたい。それがスマートコントラクトだったり、マッチングサイトだったりするのかなと思います。

越後:結局、Facebook上でたくさんの「いいね」がついても、その評価はコンテンツではなくFacebookのものになり、Facebookがよく使われているという評価にしかならない。コンテンツを直に応援してもらいたいという気持ちがあります。

ディレクター目線で見ると、現在の映像配信契約の手間は削減すべき課題です。
例えば配信をするとき、映画であれば映像倫理機構などのコードを入れなければならなかったり、配信期限があったりします。
契約が慣習化しすぎていて現状に即していないものがたくさんあり、それらを管理する団体へ支払うお金が高くなって制作者や出演者に対する還元が少なくなってしまう問題もあります。

また、契約が面倒であるがゆえに素人が手を出しにくい点も課題です。
スマートコントラクトには、契約手続きの簡略化もできるのではないかと期待しています。

理想とする価値は、単純にお金をたくさんもらうことではなく、映像制作に関わるキャストやスタッフ全員に還元できる結果を出せることです。

Facebookが取り入れているデジタルミレニアム著作権法は、Facebookの承認を得なければならないのですが、自分たちが制作した映像でも根拠を示せなければ権利が認められないので、そのための面倒な作業を早くやめたいと思っています。
プラットフォームにとって与信はたしかに大変なものですが、ブロックチェーンによってデータが透明性をもって正しく蓄積されれば、これも解決できるかもしれません。

渡邊:VR上で生活するような世界が訪れれば、より与信は重要になると思います。

対面コミュニケーションをするとなんとなくの空気感は分かるので、VR上でより信頼感を高められれば、そこで仕事をするのも想像がつきます。

今は打ち合わせやコミュニケーションで使用されている程度ですが、VRの中で共創するなら与信は絶対に関わってくるし、データも安全な状態で扱うことが求められる。そういった意味では、今後ブロックチェーンが普及する必要性を感じますね。

越後:一方で、ブロックチェーンに対する恐れもあります。
業界やコンテンツはさまざまな権利や事情によって縛られており、それに対して合意形成をすることはどこまでいっても難しい。
そうなれば、ものすごくアナーキーな技術として流通する危険性があり、逆にこれまで守られてきた権利がないがしろにされる可能性も拭えません。

渡邊:無政府なものになってしまうのかどうかは気になるところですね。

 

子どもの教育や納税にも可能性は広がる

――VR業界に限らず、ブロックチェーンに期待することはありますか。

渡邊:僕には2歳の娘がいて、義務教育は場所に縛られると感じています。
一方で、僕は昨年から多拠点を実践し、7月はずっと奄美大島で仕事をしていました。
仕事に対する場所の制約はなくなってきていますが、子どもの教育という観点では、小学校ならば6年間縛られます。

もしブロックチェーンのように通知表や授業の進捗が記録され、明文化されるようなものがあれば、どこの学校に行ってもいいということが実現できそうだと感じます。

越後:そういう選択肢があると育児の励みになりますよね。僕は、スマートコントラクト上に個人情報をのせることで、納税などのいろいろな手続きが簡単にできるようになることを期待します。

――貴重なお話をありがとうございました。

AireVoiceではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。

 

ライター/三ツ井香菜

この記事をシェア